39話 そうすればきっとまた
俺はそうこうして新たな重大任務を任されたわけだが、ここで少し時代は遡る。舞台は三年前の戦場、フロリスって概念がまだなかった頃の話だ。
「・・・Holy shit・・・!!」
暗いコンクリートの一室に、血を流す男、包帯を巻いた男、そしてもう一人黒いコート、銃身の恐ろしく長い散弾銃を持った無傷の男がいた。
「Justica、send off。」
「あーは?・・・あーあ、このおじさんってば何言ってんだろうね。ほんとに、僕にはさっぱりだ。」
───鳴る銃、爆ぜる鮮血。戦場の人殺しを百人殺したから、男は『murder slayer』、すなわち『執行判決のJustica』と呼ばれていた。
「ったくなーにが『対人戦最強』なのかなー、僕がやっつけたいのはあの古代兵器の方なんだけどなぁ。」
黒血へばりつく廊下を、Justicaは身構えもせずゆらゆら歩く。
「ッ・・・Take this・・・!!」
銃声は一回響いた。
「吃驚した。・・・不意打ちするなら喋るなって。」
切っ先から煙を出したのは、黒く長い死神の鎌の方だった。その銃口は異様な角度から迫った。無知な殺人者は突如として目の前に現れる銃口に恐怖し、瞬間、即死するのである。Justicaはその散弾銃と、体格を窺わせないように歪む漆黒のコートを気に入っていた。
『背中に目でもついているのか』。そう尋ねた隣の兵士に、彼は『何も分からない』という意で片眉を上げる。『お前には敵わないな』と続けられた言葉に、彼は『何も分からない』という意のハンドサインを返した。
それから一年が経って、戦場に希望が現れた。
「フロリスへようこそ、Justica。今日からここが君の職場だよ。それで早速なんだが、力の発揮どころは自分で決めてもらおうと思うんだ。・・・君は、どこでどう働きたい?」
「うーん、とりあえず前線に出てみるよ。今の僕の敵は古代兵器だからね。」
Justicaは銃を持って最前線に立った。『執行判決のJustica』は、対古代兵器戦においても目覚しい戦果を上げた。
「つい独断専行しちゃったけど、やっぱり旧市街地は戦いやすいなー。帰り際に、ご当地のお土産でも買っていこっと。」
しかし彼が咥えた米菓子は、戻って間もなく地に落ちることになる。
「僕以外、全滅だって・・・?」
「ああ、皆軍人上がりだから、アント型の質量で押されることには慣れていなかったみたいだ。君が生き残ってくれたことだけ、嬉しいよ。」
同じ部隊の面々が、皆いなくなってしまったようだ。
Justicaは反省して、腕に赤いリボンを結んだ。
「よし!みんな作戦通りよく動いてくれた!!帰りは未掃討のエリアを避けて、ゆっくりお土産でも買いながら戻ろう。」
Justicaは隊をよく率いて、隊長として卓越した指揮力を見せた。
しかしここでもまた、お土産はその後味を虚しくする。
「僕の隊以外、戻って来なかったのかい・・・?」
「ああ。送迎バスが『ウルフ型』の群れに襲われて、対応しきれず袋叩きに遭ったそうなんだ。君の隊が生き残ってくれたことだけ、嬉しいよ。」
他の隊の面々は、皆いなくなってしまったようだ。
Justicaは反省して、東西南北の防衛区に一人ずつ置かれる司令長官の帽子、東の黒帽を被った。
「対ウルフ型みたいな応用戦術は、初期階級のみんなにはかえって負担になると思うんだ。だからそこはイキシアやゼフィランサスに任せるものとして、テンプレート部隊は移動速度の遅い敵を安定して倒すことに集中させよう。」
司令部に就いたJusticaの采配は、目を見張るものだった。
「一気に押し切られる不安要素を払拭するために、『階級別生存戦略教本』を用意してみた。これで兵士の生存率が高まれば、もっと多くの敵を倒せるだろ?」
彼の考案した戦術形態と訓練方式を中心に、古代兵器との戦いは効率という効率を高めていった。
そしてついに、人類の増加数がその減少数を上回ったのである。
「存亡指標、達成値1.15を超えました!!」
シミュレーション結果は、これからは内地の人間と兵士の数が増えていくことを示した。
「やった、やったぞ!!」
司令部一同舞い上がり、隣の人と抱き合っては涙を流す。感動の光景に、Justicaは大きく貢献した。
「Justica司令、ついにやってくれたね。これで、人類の未来は安泰だ。」
Justicaに対する称賛の嵐が巻き起こり、彼は持っていた帽子を脱いで、もう一度深く被った。
「ああ、僕の力が役に立ったなら良かった。これでいつか人類は、どこかの時代で古代兵器を撲滅することが出来るかもしれない。そうすればきっとまた・・・・・・」
───きっとまた、同じ過ちを繰り返すんだろうね。
「すごいよJustica!君は英雄だ!!・・・ねぇJusticaどうしたんだ、そんな浮かない顔して。・・・Justicaは物凄い偉業を成し遂げて──」
「──誰のことかな。」
「え・・・?」
「Justicaって誰のことかな。僕はそんなかっこいい男知らないよ、聞いたこともない。」
彼がそう答えると、相手の男は呆れた視線を向けた。
「なんだ、人違いだったのか。すまない、今度は向こうを探してみるよ。」
ゼフィランサスの青年が走り去ったのを見届けて、彼は被っていた帽子を脱いだ。
「ああそうさ、僕は『執行判決のJustica』なんかじゃない。」
「───僕は、・・・・・・『ブラン=ジーナ』だ。」




