27話 ま言ってみりゃラッキーだ
「うわ、すっご・・・!!私空飛ぶ女の子初めて見た・・・!!」
「俺もあの子しか知らねえよ・・・」
近未来掃除機みたいな機械音を鳴らして降下した彼女は、女王アリの死骸を確認後、同じ高さを浮遊しながら俺たちの方に平行移動。俺たちがハッと息を呑むのも仕方がないだろ。とにかく凄いんだよ、音と光が。
「・・・【ニュートラル】・・・目的地、到着。」
彼女の言葉に従って、異形の装備がえげつない軌道を取って変形していく。数秒前までわけの分からない重装を身に着けていたはずの彼女は、最終的にはただの学生服と相違ない見た目になってしまった。目視、超常現象もいいところである。そして対面して早々、彼女は俺に言うのである。
「名前を聞きに来た。」
「え、っと俺の名前なら塩川亮だけど・・・急だね?」
「なんて呼んだらいい?」
「うん、何でもいいけど、どした?」
グロキシニア第四のエースがやってきて、ゲウムの俺に名前を聞いている。状況が掴めるはずもなかった。だが彼女は俺の疑問など意に介していないようで、続けざまに問う。
「───あれ、亮がやったの。」
彼女は女王アリの亡骸をしげしげと見つめてから聞いた。色素があるんだかないんだか分からなくなる瞳が俺を覗いている。なんというか、吸い込まれそうだ。
「あぁ、まあ成り行きで。だがちょっと待て、なんか怒ってる?俺気になって、さっきから話の内容が頭に入ってこないんですけれども。」
「全然怒ってない。グロキシニアはゲウムに怒ったりしない。」
「そ、そう。」
(やっぱりちょっとご機嫌斜めな気がするんだが・・・?)
「あの個体は、強い個体。亮はどうやって倒した?」
そして安定の名前呼びである。もしかして俺が日和ってるだけで、若い者同士は対面薄でも下の名前を呼ぶものなのだろうか。
「や、まあ俺が倒したってよか、こいつの持ってきた火薬入りトラックが大いに役に立ってだな。逃げ込んだ建物をぶっ倒して、その巻き添えを喰らわせた感じだな。ま言ってみりゃラッキーだ。」
なるべくありのままを話したが、思惑がいまいち掴めない。疑問も絶えない。並みの人間と一線を画す実力のこの子が何を知りたがっているか、俺は見当もつかなかった。
「ん、わかった。・・・でも一つ、わからないことがある。」
だが最後に、彼女はその無口加減からは想像もできないような、更に謎を増す台詞を吐き捨てやがったんだよな。
「───亮は私より弱いのに、私より無茶をする。・・・どうして?」
「な、それってどういったニュアンスの・・・?」
「ん・・・ごめん、もう行かなくちゃ。・・・ばいばい、また会おうね、亮。」
最期まで何が何だか分からないままの俺を置いて、彼女はすぐに飛び去ってしまった。彼女が空を流れていった先に目をやると、道路には任務を終えた部隊一行、それとフロリス専属の研究機関『ライラック』の車両がいくつも見えていた。
「・・・なんだったんだ?今の。」
「さぁ。」
俺は疑問を抱えたまま、てきとうな送迎バスを拾って帰宅するほかなかったという事だ。
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だが、何はともあれ勝ちは勝ち。プリンセス・シアの思惑が分からなかったところで、今日もちゃんと生き残った。今日の苦労は、今日ちゃんと凌ぎ切ったはずだろう。
「───かぁぁッ!!疲れた体にしみる、やっすい炭酸!!」
ゲウム寮に帰宅した俺は誰よりも早く風呂に入り、そして誰よりも早くアルミ缶のプルタブを引っぺがしていた。明日はさっさと学校に出なきゃいけねぇから、眠気が来る前に勝利を噛みしめておかねばならんのだ。微妙に冷えの悪い冷蔵庫で一晩寝かしておいた無糖の炭酸水、蒸し暑い夜はこいつが美味いのだ。他の連中は高い酒に少ない給料を溶かすが、ったく分かってないぜ。購買の売れ残り常連である炭酸水は廃棄寸前に半額シールという最後の切り札を纏い、その一瞬の煌めきを逃さなかった者にこそ本当の勝利が訪れるのだ。なんて素晴らしい世界、ビバ無糖炭酸。
と、俺が一人寂しく勝ち誇っていた狭い部屋に、ノックの音が強く響いた。
「来客か・・・?珍しいな。はいはーい、今出ますよーっと・・・」
ドアアイも覗かずに開けて、後悔したぜ。
「お邪魔しまーす」
おんぼろゲウム寮に不相応なフローラルと大規模な荷物をぶら下げてやってきた、楓。
「あ?」
「狭いけど片付いてるし、なんかコテージみたいで雰囲気好きかも。うん、いい部屋!」
「楓が、なんでここに・・・?」
「ふふ、吃驚したでしょ。」
突然の来訪で呆気にとられる俺に、こいつはハッキリ言いやがったんだ。
「───私、今日からここに住むことになったから。」
ってな。
「は・・・はぁぁぁぁぁぁぁあッ!?」




