26話 これで私は強靭無敵
あとは、勝ち戦しか残ってなかった。
「おらおらまとめてかかって来やがれこんちくしょう!そんでぶっとべ!!」
馬鹿みたいに重いが切れ味抜群な女王アリの爪を振り回し、湖畔の延長戦。最大の危機が去った余韻で羽目を外し、俺は群がる蟻共を荒々しくぶった斬っていた。女王アリの死骸からは妙なスパークやら青白く光る煙やらが漏れ出ているが、お構いなしにその辺の破片を拾っては刺したり投げたり、血祭りを続行していたのだ。
「あーあ、もうめちゃくちゃ。」
楓は遠くにある低い岩に座って俺を眺めているが、膝に頬杖をついてどこか呆れた様相である。が知ったこっちゃないな。なにせ俺戦闘中だし。多少かっこ悪くても楓を護るために尽力してるわけだし。
「・・・亮ー!右から上がってくるよー、多分七体くらーい。」
とはいえ、一方的な庇護関係ではないんだなこれが。勘の良いアイツを置いとくと、ちょっとした奇襲やら脆い足場やら事細かに教えてくれやがるのだ。後ろの死骸の放つ青光に恐怖しないでいられるのは、身の異常を以て危険を察知する楓のおかげだったりする。
「っしゃ、任しとけ!!」
『むしろその死骸の辺りで戦った方が良さそうな気がする』という楓の勘も既に、強力な戦利品と群がる子アリによって効力が証明されている。多分アント型はあふれ出てるあれらに引き寄せられて、女王個体の死骸を食いに来てるのだ。巣として貯蓄した『フォトン』が有り余ってんだろうからな。そして俺はお望み通り、死骸を喰らわせてやれているわけだ。正直言って楓、生意気だが幸せを招くタイプの猫である。や、危機管理ならナマズか?
「うおジャスト七体だ、流石だな!よっ、置くだけ危機管理!!やさぐれ有能ギャル!!」
「やさぐれいうなギャルいうな!!ほら、まだまだくるよ!」
「ったくマジで多いけど、負ける気がしねぇ!!」
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そんなこんなで俺が小川を食い止めてる一方で、大河の連中も底力を見せていたらしいんだよな。
「クッ、一気に数が増えた・・・!総員!苦しいがここが正念場だぞ!!なんとしても耐え抜き、全員生還するのだ!!」
「ぬぉおっ、敵方も本気を出してきたか!!けどよ、今更怖気付く俺たちじゃないんだぜ!!ここを踏ん張って、帰ってしこたま飲んでやる!!」
気合十分、全員無傷の押せ押せムードだったから、アント型の大群が総力戦に突入しても陣形が崩れることはなかったそうだ。
「リーダー、向こうの空からなにか飛んでくる!!なんて速さだ!!」
「新手の敵兵か!?」
「おいおい、地上からもなんか来やがったぜ!なんて地響きだ!!」
「いや、あれは!!戦場に駆け抜ける稲妻、巻き起こる砂嵐、あの天変地異を引き起こしているのはーーー」
「ーー東防衛区の守護神、グロキシニア第四部隊だ!!!」
そんで、そこに現れた人類の希望によって我が軍の勝利が確定。そこからはお察しだ。
「『テクスチャ=ディスチャージ』・・・ん、これで五百。」
「ぬおおおおおお、爆砕ッ!!」
戦場に舞い降りたグロキシニアは、瞬く間、シア=フリージアの放つ雷光にちょっと目を瞑ったその隙にもアント型を数十体蹴散らし、その場にいた全てに次元の違いを見せつけながら戦況を治めた。
「ぬはははは、ヘリちゃんすごいすごい!!一撃でありさんが、うーん・・・、いっぱいやっつけた!!」
「おうさ!私の剛力にペチュニア殿の守護が加われば、攻防一体の百人力よ!!ではペチュニア殿、景気付けにド派手な加護を頼む!」
「あいわかった!!いっくよー、いたいのいたいのぉ・・・、ちにふせぇっ!!」
「おおおおっ!これで私は強靭無敵!!」
「ぬはは、ちにふせうぞーむぞー!!」
グロキシニア第四部隊は大いに、それはもう大いに暴れ回って駆逐の限りを尽くし、ついに戦場フォトン探知機はアント型の反応を消した。
日時は、七月十日。こうしてフロリスは『蟻の行列殲滅作戦』を完全勝利し、任務に当たった一般兵は奇跡のような出来事に酔いしれたのである。
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そして、激戦が幕を閉じた、その後。
「はー、流石に疲れた。過業手当でないかな。出ないだろうけど。」
俺たちは湖畔の少し冷たい緑に横たわり、前線の車両が迎えに来るのを待っていた。傍には大量の亜金属、努力の積み重ねなんて名前をつけようが虫の死骸である。
「あんなにぶっ続けで戦ってたのに、ゲウムって大変なんだね。ふぁ、あ・・・眠気きた。」
「お気楽なこって。」
だがこうも言ってみたものの、今まではちと気張りすぎたな。女王アリの脅威に腰抜かされて、足が棒になるまで走ったあとは塔の頂からスカイダイブ。日常サイドに生きてる限りテーマパークでだって味わえない刺激だったことを加味すると、脱力もごもっともだ。
「・・・なぁ。楓はこれからどうすんだ?」
そこでふと思って聞いたのは、彼女のこれからのこと。法と柵を出てアウトサイダーになったら最後、後戻りは難関大学に合格するより難しい。俺がもっと強ければ楓の意志に首を突っ込めたのだろうかと、かく思わないこともなかった。
「んー、どうしよっかな。」
楓は仰向けになって空を見上げ、防衛区外の汚れた大気に何かを訊くように瞬きしてから口火を切った。
「──決めた。しょうがないから、家出はやめてあげる。」
「本当か!?」
「はぁ、亮はよくこんな生活続けられるよね。私はあんなに大きい敵には立ち向かえないし、食べられそうになるのももう懲り懲り。せっかく持ってきた火薬も、誰かさんにトラックごと爆破されちゃったみたいだしね。」
「なっ!?必要経費ってか、ほぼ合意の上だったろ!?」
「ふふ、亮からかうの楽し。・・・てか、別に亮のために帰るわけじゃないんだからね。そんな喜ぶなっつの。」
「お、ツンデレさんかな。」
「うっさい。・・・あ、なんかすごいのが来るかも。」
なんかすごいのとは。と、そう思ったのもつかの間だ。流星のごとく飛んできたのを見れば、言わんとすることはすぐに分かった。それは彩度のイカれた雷光を発しながら、辺りの草木を逆立たせながら舞い降りる。
「っ、あれは・・・!!」
グロキシニア第四部隊の『迅雷蜂』、シア=フリージアがそこにいた。




