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下級兵塩川の日常  作者: 塩ソルト塩
2章 『女王アリ』と『ゲウム第七部隊』
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24話 すげぇ骨が折れた

湖が落ちてくる。音はうるさいはずなんだが、感覚的にはなんにも聞こえねえや。



「なぁ・・・って、気ィ失ってら。」



激流みたいな風の中で、彼女は柔らかく目を閉じている。左腕で抱き寄せたら、背中と胸ポケットで伝わる温度が大違いだ。



(付き合わせて悪かったな。・・・ゆっくり休んでくれ。)



大いなる濁流に腕が言う事聞きやしないが、探るように右手を伸ばす。握った拳銃は重さがあるんだかないんだか、とにかく力入れて握らないと手から離れそうで困る。



(・・・落ち着け・・・二の矢に頼っていいのは、今の俺じゃない。)



親指を浮かせ、撃鉄を引き、身を翻す。俺は見開いた眼で捉えた目視数ミリの軌道に、逆さの銃口を合わせた。



「・・・ッ、当てる!!」



昼空に大口径の星が流れる。彼女の耳を腕で覆ったから、その銃声を聞いたのは俺だけだったろう。駆け抜けた銃弾は風壁を突き破って、貫く。一瞬時間が止まって、それはすぐさまはじけた。



はじけるっていや、そりゃあアレしかないだろ?




───トラックの火薬だ。



「ッ───!!」



大地を割るような爆音と風圧は言うまでもない。斜塔の影に収めたトラックは爆散して、規約違反に大容量な火薬の海は空気を押す力だけで湖を震わせる。湖を震わす剛力が、特に脆くなった地表水辺付近の柱にめり込むよう停めたトラックから放たれたわけだ。


そうしたら、どうなるか。


元々傾きすぎな斜塔、逆に今までよく堪えたと思うぜ。重心は接地面の鉛直を大きく離れてしまった上、中を縦横無尽に砕いて回った重量級モンスターは、ただいま一番大外の頂上に鎮座して負荷をかけ続けていやがる。その限界を迎えたこいつの支柱が二、三本折れてみろ、ひとたまりもなくなったピザの斜塔は、しまいにゃ湖に頭を垂れる!!



(ダイナミックな橋をかけてやるぜ・・・お前らの残骸でな!!)



斜塔は壮大な躍動感を持ちながらも、視界にはゆっくりと倒れて見える。やっぱ重いから速いってことはないみたいだな。だからあいつは屋上の瓦礫と一緒に宙を舞って、優雅に落下してることだろうさ。だが、地面にぶち当たった衝撃はそうもいかない。再生する装甲をつけてまで守りたい精密機器、現代人もみんな持ってるぜ。そんでちょっと詳しいんだ、防水耐火衝撃吸収加工済みだって壊れるときは壊れる、デカいのは特に落下に弱いんだ。屋上に肢を食いこませて身動きできないアイツは、建物もろともペシャンコになる運命である。


身体は黒煙に落ちていく。だがその頂に向けた拳を一気に握り、俺は叫んだのだ。



「ちょっくら軽く、敵討ちッ!!」



小さな人間二人はすぐさま煙に呑まれる。それから大きな斜塔の方が倒れていって、湖の対岸の岩枕に頭を下ろしたその瞬間、



───蟻の姿をした黒鉄もろとも、はじけた。



・・・・・・



・・・・・・・・・・・・



そして爆炎と黒煙のさなかから、影が一つ飛び出した。



「ひゅー、なんとかなって良かった。」



スクラップにならないのは、超軽量携帯パラシュートを持参した俺らだけ。スマートな戦略だったぜ。前回の任務周りの特別手当としてぶんどっておいて正解だった。今回のは作戦勝ち、ああ多分計算通りだ。まったくあの棒一本倒すのに随分と苦労したが、甲斐はあった。湖上の空気を真っ二つに割いていく踏切に感嘆しながら、俺は屋上が地面と衝突する際の凄まじい轟音を聴いていた。



「そんですげぇ骨が折れた。」



まぁ骨が折れたのはあの塔の方だけどな。南北の湖畔を繋ぐようにして、根元からポッキリいった塔は横たえられた。激しい砂埃の止んだ頃、瓦礫の中にバラバラの黒色金属片を見て、安堵する。そこで脅威の撃退がかぎつけたか、家出少女は目を覚ました。



「ん・・・。あ、おはよぉ。」


「おはよう。」



要領のいい眠り方をするものだ。俺がちゃあんとトラックを撃ち抜くシーンを見せれば、ちょっとは見返せると思ったんだけどな。



「うん、今何時・・・って!!なに抱きしめてっ、うわぁあ浮いてる!?」


「生身で空飛んだのは初めてか?」



「そりゃそうでしょ!!」


ちなみに俺は二回目だ。ついこないだ吹っ飛ばされたからな。そんとき命の危機を思い知ってしまったもんで、地を這う虫の残党狩りなんかにパラシュートを持ってくるような真似をしたのだよ。



「女王アリはなんとかなったぞ、ほらあっこ、潰れてるデケェの。」


「うわ、まじじゃん。・・・まじじゃん。・・・よかったぁ」


「超再生機構で傷が治るってんなら、一撃で何もかもぶっ潰しゃいいってな。てっぺんまで引き付けた俺たちの勝ち、やったな?」


「・・・うっさい、パラシュートあるなら最初から言ってよね。」


「これ一回きりの使い捨てだからさ、なるだけ使いたくないなーって。」



大体俺は貧乏性なんだ。もったいないったりゃありゃしないよな、できれば弾が無限に出る銃とか、刃こぼれしない剣とかが欲しい。



「ふーん、ゲウムも大変なんだね。」


「そ、でも消耗品が嫌いってわけじゃない。いつかなくなるもんも、後悔しないで活用するコツってのがあんだなー。」


「へぇ、それって?」


「神頼み」


「・・・、真剣に言ってるでしょ。」


「そらそう、さもなくば飯が喉を通らない。『最高効率ならあと何人救えたか』って、仲間の死体なんか数えだしたらな。」



残念だけど人はまぁ死ぬものだったりする。俺一人で人類全員助けたいけど助けられないし、なんなら俺の帰る家を死守して死にやがったあの夫婦は、考えようによっちゃむしろ俺が殺したようなもんだ。親孝行がてらできれば人類の希望になりたいけど、グロキシニアどころかジニアにすら昇進できてねぇし、死人を蘇らせる能力も欲しいけどやっぱりない。だから神頼み、結構自然な事だろ。しょうがなく意志と遺志だけ繋いで繋いで持ってった先に、笑って待ってる神様がいないってんなら世話がねえ。



「・・・けどま、今回もなんとかなって良かったよ、ええ良かった・・・っておま、もしかして泣いてる?」



やべ、こいつ色々と鋭いんだった。ゲウム雑魚が蟻退治みたいな雑魚クエストで感傷に浸ってんのも、第六感みたいので髄に伝わっちまってるのか。殺された両親の仇討ちみたいで感慨深いけど、顔に出ないよう気を付けてたのにな。



「は・・・泣いてないけど。」


「あ、そう?」



彼女はやや震えた声でそう言って俺のワイシャツに顔を埋め、胸ポケットのない方の生地が心なしかしっとりしてくる。つむじしか見えないからつむじを見てるんだが、それが二、三度跳ねるかと思えば、鼻をすする音がそこから発されるわけだ。いややっぱ泣いてるなこいつ。



(・・・色々こっちのことに巻き込んじまったからな。戦場生存の度量気量があるもんだから忘れかけたけど、昨日まで銃声も敵も無縁な生活送ってたんだから涙腺に来るのも無理ねえや。)


「怖がらせて悪かった、悪い夢を見てほしいわけじゃないんだ。」


「うっさい、てか背中さわんな。」


「こうしてないと落っこちちまうんだからしゃーないだろ、結構腕疲れるんだぜ?・・・まぁ役得だとは思ってるけど。」



っと地雷踏んだか。



「~~~っ!!きっっっしょ!!きしょきしょきっしょい、きしょすぎ!!さわんな!」


「なんっだよ軽いジョークだって!非常時に邪な感情持ち込めるほど肝座っちゃいねぇよ!!だぁおい暴れるな!」


「変なとこさわんな!」


「だから暴れるなって家出娘!!」



で、しばし空中の格闘。何やってんだ俺は。いや悪いのはすぐ手が出る家出娘の方だ。こいつ相手だといちいちデリカシーだなんだを意識するのが面倒になるんだよな。あら、やっぱ俺がセクハラしてるだけか。



「・・・はぁ、ったく厄介な家出娘だよ、お前。」


「・・・うっさい。・・・その、家出娘っていうな」


「じゃなんて呼びゃいんだよ。」



そこで、いささか強めの風が吹く。やもう落下中だから分かんねぇはずなんだけど、振り返ったこいつ相手にそういう感じがしやがった。



「っ・・・、(かえで)!」



紅葉、紅葉を思わせるその顔で、彼女は名乗った。気づけば地上が近い。



「ふーん、楓か。俺は結構好きだぞ。」


「なに、きもいな。」


「やすまん、貧乏拗らせてた秋にちょくちょく食べてた。銀杏よりスジっぽくなくて好きかな、俺は。・・・ってやべ、まだ生きてる子アリが結構いやがる。ちょっと倒すから、楓は地上降りたら安地見つけてひと休みしてくれ」


「倒すって、もう銃の弾ないんでしょ。」


「ああ撃ち切った。けどジャミング波が残ってるうちは闘うくらいしかすることないからな。だから今からは大人しく、投石と、格闘だ。」



今更かっこもつけらんないなりに、俺は気を遣って乾いた苔に降りた。

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