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下級兵塩川の日常  作者: 塩ソルト塩
2章 『女王アリ』と『ゲウム第七部隊』
23/68

21話 んじゃ小船に乗った気で

「───どわぁあっ転ぶ転ぶ!!」


「転ばない、ほら早くナビ。」


「なんっだおま、袖ビームに突っ込むな袖ビームに!!一つ先を右!」


「袖ビームって言いたいだけでしょばか!このっ、み、ぎっ!!」


「うおああっておい!誰が大型トラックでドリフトしろって言ったよ!!」


「こっちの方が早いでしょ?ほら後ろ、もう見えなくなった。」


「女子高生ばりの無茶を防衛区郊外で披露するんじゃねえ半ギャル!」



敵味方双方に脅かされるんじゃ命がいくつあっても足りやしない。もし火薬がこぼれでもすれば、トラックのタイヤが飛ばしちゃいけないような火花はすぐさまコンテナの側面を吹っ飛ばすんだぞ。セーフティは勘だけっておっしゃりやがったあかつきにゃ目も当てられねえ。



「うっさい半ギャル言うな、って、前の路地なんか出てきた!!」


「はぐれの先鋒アリか・・・この忙しいのによ!」


「あいつ、こっちのタイヤに向かって構えてるし・・・!!」


「構わず突っ込め、露払いは俺がやる・・・!こん、のッ!!」



身を乗り出した一車線のシャッター街、突っ込んでくる古き良き鉄看板が俺の頭をかち割る前に放てたのは四発きりだ。指が痛い。スパンが短い連射の反動で手首が痺れてるんだけど、できたのは道端のちとでかい石ころをつついて隅に追いやったことくらいだ。



「ひゅー、あっぶね。っと、Y字路を左、その後三つ目で右だ。くれぐれも無茶するなよ。」


「銃声うっさいし、無茶は亮の方でしょ・・・。」



てなもんで向こう見ず合戦してる間に、そろそろ景色が開けてくる。都会人がわざわざ好んで作った緑の景観は、やけに静かに俺たちを迎えた。



「着いたぞ、湖だ!」



植物に覆われた真緑の斜塔、倒れた先には高層ビルがちょうど入りきらねぇくらいの人造湖だ。水を中心に植生が広がってる分余計に苔むしたりなんだりしてるが、それを倒壊したビル群が包んでるせいでここだけ廃都市ってよか秘境みたいになってやがる。だから確かに圧巻の光景ではあるんだけどさ、家出少女よ。



「わ、キラキラしてる・・・やば、めっちゃ好きかも・・・」


「気ぃ抜くなまだ追って来てるっての!!たくデートじゃねぇんだからよ・・・!」


「は・・・うっざ、別に亮に向かって言ってないし・・・!雑魚ゲウムのくせに、黙っとけばか!」


「ぐ、小生意気な家出娘だな・・・。まぁいいや、あの斜塔の裏の影にピッタリ収めてくれ。」


「指図すんな、底辺階級のくせに。」



言いつつも彼女は段取り良く舵を切って、地面の悪い中でもちゃっかり斜塔の裏口らしき穴の前まで移動してくれている。余裕ない風に口調を尖らせても、こいつは土壇場で気を利かせる度量を持ってるってこったな。



「まぁそうピリピリすんなよ、俺とお前の短い旅はおしまい、ここいらで幕引きだ。」


「っ・・・そうかもね。」



湖畔のしっとりした空気と共にやってきた、別れの時である。



「俺はこっちのドアから裏口へ、お前はそっちから明るい方に飛び出すんだ。別れの決め台詞はなんにしようかな。」


「いいよ、そんなの。」


「そうかよ。」



車体はぐらつく脆い足場の上でゆっくりと速度を失っていき、驚くほど安らかに、止まる。斜塔の影の下、峠を越えてその息を終えたトラックの中で、俺と彼女はやっぱり目を見合わせた。



「んじゃ、またどっかで会おうな。」


「っ・・・」



手のひらを立てて、扉を開く。こっちの影に見えんのは消えかかった非常口の緑光だけみたいだけど、反対側が彼女の言うようにキラキラしてるんならいい。



(元気でやれよ、家出娘。)



「───待って!」



まさに降りようとする俺の手首を、彼女が掴んだ。



「あ?」


「・・・私も一緒に行く。」


「一緒にって・・・死にたいのか?」



さっきみたいに震えてるぞ。無免許運転中はハイになってへっちゃらだったのかもしれないけど、感覚派のお前があの化け物のヤバさを感じ取れないわけがないんだ。



「死にたいわけないでしょ。・・・でも、ついてく。」


「雑魚ゲウムでおつむの鈍い俺だって分かる。・・・あの黒虫は何百人だって喰う悪魔だぞ。」



もう流石に気付く、そんで人間の中に入ってるフォトンってやつで、ただのコンクリを人食い兵器に変身させるんだろ。撒き散らされたグロい黒虫卵には、人の血が混ざってんだ。惨死体がグチャグチャ脈打って虫になるんだぜ、聞いただけで吐きそうじゃあないか。



「───でもさ、亮。今逃げたら、忘れられなくなっちゃうから。」



貫かれた。彼女の眼は俺を刺していた。瞬間的に、彼女の言葉は理解できてしまった。惨状を一個だけ知って、『逃げたら笑えなくなる』って恐怖が一番大きくなったのが、俺がフロリスになった理由だった。俺は返す言葉が思いつかなくなって黙った。



「変な顔。やっぱりあれは亮の『感覚』だったのかな。・・・でも悪いけど、私悪い夢を見るのはあんまり好きじゃないから。それに・・・」


「・・・」



俺が硬い水を喉に通すと、彼女は意外にもニヤついて言った。



「亮ってなんか、私がいなきゃダメそうな顔してるし。」


「・・・、あんだって?」


「だって雑魚ゲウムのポンコツだし。お姉ちゃんとまではいかないと思うけど、私の勘だって役に立つって教えてあげる。ほら、運転疲れて出にくいから引っ張ってよ」



この半ギャル。



「はっ、さいですかい。・・・んじゃ小船に乗った気で。」



俺は彼女が掴んでいた右手首を翻してその腕を掴み、グイと引き寄せながら言った。



「せいぜい付き合えよ、家出娘!!」───

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