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下級兵塩川の日常  作者: 塩ソルト塩
2章 『女王アリ』と『ゲウム第七部隊』
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19話 しくじるなよ

そして走った三十歩。彼女が運転席に入ったのを確認して一息、向こうでアイツが跨いでいる広小路中央の白線、その続きを踏みつけて、構える。


「よーし、しくじるなよ新入り雑魚。」


フェアな力比べをする気はない。数、装甲、破壊力、いわゆる兵力を取れば敵方が数段上手だ。俺は一人だし、グロキシニアじゃない。奴らを相手に優位を取れるもの、そいつで戦わなきゃ勝てない。よく考えろ、俺が武器にしていいものを。射程距離、巧緻性、機動力、ギャグセンス、信じる力。なんでもいい、とにかく頭を使ってこの場を切り抜けなくちゃならないってんだ。風はあっちからこっちに吹いている。


「ほんとは二十メートル切らないと狙えないんだけど、近づけば死んじゃうしな。」


俺を見てんのはあの化け物だけだ。子アリの索敵範囲五十四メートル、俺はまだその外にいる。奴の足元へ伸びる道路の白い糸、こいつは短いほど威力と精度が上がるが、同時に俺の生命線でもある。ならやっぱ、次の行動は一つだ。絶好のタイミングを計れ、ジャストの数秒を狙うんだ。


(外殻撃っても効かねえんだろ。・・・狙うなら、装甲の薄い『腹』だ。)


子アリが向き直った。自信ないか、まだ待ちたいか、どうだ。



「・・・必要以上にデカいテメェはこっからでも、・・・当てる!!」


反響する銃声と、数舜遅れの重たい金属音。


「反動、重いな──ッこいつは!!」


間髪入れずに撃った二、三発目、当たったか、まだ撃て、四、五!!


ここでようやく、左右のビル群は感触の違う音を歪ませる。手応えありだ。黒曜の腹部が白い亀裂を産んだのを、かろうじて大あごの隙間から捉えた。


「お、やるねぇ。もしかしておまえ、連射するようには作られてなかったりする・・・?まぁいいや、小型でもこんだけ威力出りゃ、安心だ!!」


目視して一転、躊躇なく突っ込む。こいつに入ったやけに重い大口径弾を、至近距離であのひびにお見舞いしてやろうって魂胆だ。先手で会心の一撃、仕掛けるなら今しかない。体勢を立て直す頭脳ぐらいは積んでるだろうが、真正面からエサが来るんじゃ話が別ってことだ。少々足にまとわりつく恐怖を振り払うよう必死に走って、俺は撃鉄を引いた。


目算残り三十、二十、十切った!!よく見てひきつけろ、前肢どっちが来る、右か、左か!!


「こんの・・・ひだ、りぃッ!!」


そして間一髪で、避けた。



───までは、良かったんだが。


「っしゃ貰ったぁ・・・・・・あ?」


亀裂が、無い。


鉛玉が穿ったはずの腹膜は微かな弾丸の痕だけを残し、何事もなかったかのように黒く光っていた。



「な、この数秒で再生して・・・!!」



(傷が治ってるのか?完全に皮膜を突き破ったあのダメージがものの数秒で元通りって・・・自己修復機能とかそういう次元の回復速度じゃないぞ・・・!!)



「───避けてぇぇぇっ!!」


「ッ!!」



───後ろから、左脇の間を突き抜けた黒い針。


俺は半ば倒れながら、生きながらえることへの執着を銃口に込める。堅牢なアイアンメイデンは次の釘を用意して弾みをつけていた。


「・・・っぶねぇ!!」


露出した感覚器官の触角に銃弾を撃ち込んで、俺は声のした方角へ飛びのく。女王アリは生き物みたいに仰け反っては顎を震わせ、耳をつんざくような金属音を以て奇声を上げた。



「・・・乗って、はやく!!」


トラック運転席の窓から顔を出し、彼女が叫んでいる。もうふかしてるアクセル、俺が追い付けってことか。



「クッ、こなっくそぉぉおっ!!」


死力を尽くして飛び込んで掴まったコンテナの淵、腕で持ち上げて乗ったのは火薬ベットの布の上だった。


「はぁっ、はぁっ、助かった・・・けど、なんで逃げてないんだよ!!」


「来なきゃ死んでたでしょ!あああもう怖すぎっ!!なんなのあの化け物、映画!?」


「命知らずが・・・礼言うとでも思ったか!」


「・・・風の音でよく聞こえないっつの!!」


「・・・ならいい、マジ助かったよ馬鹿野郎!!」


吐き捨てて、項垂れる。


(咄嗟の一刺で心臓狙いやがった・・・アレが、女王個体か)


掠っただけの左腕が綺麗に鮮血を上げたから、息をのむ前に血の気が引いた。洒落になんねえな。移動の安定を担うはずの中肢にしちゃあまりに正確で、んであまりにも速すぎる。俺は懐に潜り込んだ気で、針地獄におびき寄せられてたってわけだ。あいつの声が無かったら、正直もうちっとばかし危なかったかもな、それはもう。


「りょーおー!アイツ、追ってきてるー!?サイドミラー割れてて見えないんだけどー!!」


「いや、大丈夫だ!!・・・けど、なんで追ってこない・・・!?」


離れていく景色の中で異様に目立ったのは、大きく空中に反り返って天を仰いでいたヤツの『腹袋』だった。


そして、自然に下りた視線の先にあった上顎。



「───おい・・・何・・・やってやがんだよ・・・!!」



女王アリは、コンクリを食べていた。

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