表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
下級兵塩川の日常  作者: 塩ソルト塩
2章 『女王アリ』と『ゲウム第七部隊』
20/68

18話 こいつは貰っちまったか

すぐには動けなかった。体は驚くほど委縮していた。あの化け物が『女王個体』という名前と合致するまで、俺はいつか見た悪夢の続きを疑っていた。


「ジーナ教官に連絡をッ・・・て、なんだこれ、繋がんねぇ。なぁ嘘だろ、ビルから降りた後だってちゃんと回線生きてただろうが・・・!!」


ちゃんと、緊急事態だ。慌てて取り出した通信機は、顔を暗くしたまま奇妙な寝息を立てている。点滅する通信機の電波マーク、向かってくる大蟻、点滅する通信機の電波マーク。気付けば俺はその二つを見比べていたし、しゃがんだ膝が想像以上にプルプルしてやがる。


(距離はあとどのくらいある?あと何秒であいつはここまで辿り着く?あいつが他の三倍速いとして・・・なんだ、頭上手く回んねぇぞ。・・・くそ、女王アリの出現なんか万が一どころの話じゃ済まないだろうに、なんだってこんなタイミングで・・・!!)



「ジャミング。されてるんじゃないの、ソイツに。」


「分かるのか!?」


「うん、なんとなくだけど。私の体が反応したのも、多分その妨害電波?みたいのが届いた時だと思う。しっくりきた。」


電波もキャッチできるのか。


「・・・今回のアリ退治にはグロキシニアの部隊も編成されてる。大規模な包囲網を搔い潜ってきたってんだから、妨害系統の機構をいくつか積んでたっておかしくねぇ・・・けど!!グロキシニア第四が当たるはずの重役を俺に努めろってのか・・・!?」



そこで、ようやく振り向いて気付いた。彼女の肩は小刻みに、弱弱しく震えていた。そうだよな、お前の方が怖くて当然だ。それまで自分のことばっかで気づかなかった俺、憎くて、当然だ!!


(・・・・・・・・・)


彼女に見えないように歯を食いしばってから、緩めた。


「っはは、ははははは!!こいつは貰っちまったか!?」


「・・・?」



「グロキシニアが取り逃がした大アリをたった一人で倒せば、報酬たんまり昇進間違いなしだ。俺は今年こそ、エアコンの効いた部屋で涼夏ってやつを過ごすって決めてるんだよ。夏だってのに黒いジャンパーなんか羽織ってるアホ女子高生にゃ分からないかもしれないけど、七月って暑いんだぜ。」


「なっ」


「情けないのは俺で、けど闘うのも俺だ。勘が良いなら教えてくれよ、俺は悪い未来に向かいそうな顔してるか?」


「っ・・・やめときなよ・・・あんたすぐ死にそうな顔、してるよ・・・!?」


彼女はもう起き上がっているし、表情もどちらかと言えば最初の不機嫌そうなツラに似てる。ちょっと元気を取り戻したようだ。俺の勘が鈍くても、こいつは分かる。これでいい、これでいいはずだ。



「大アリ、遠方より来るってな。酒でも酌み交わしてくるから、お前はなんも見ないでこいつ乗り回して、さっさと何処へでも行っちまえ。」



「あんたは・・・!?」


「あいつ倒してくる。なにただの蟻だ。」


そう、ただの蟻だ。三年前に俺の両親を眠らせた、人を溶かして喰らって強くなるだけの機械だ。それがデカくなっただけだ。あれから何百回か見た『同じ悪夢』の主役に、ちょっとだけ酷似してたってだけのことだ。


「・・・ああ分かってら、高二までトラウマ引きずってられるほど日和っちゃいねーよ。」


小さくこぼす。視界に映るのは、規格外の女王個体。対するは、ゲウム第七部隊。つまり俺だけだ。


本部との連絡は、つかない。そんでもって、ここは最終防衛地点だ。ここを抜けられてから伝達したんじゃもう遅い、そういう意味の『最終防衛地点』だ。防衛区にあんなのが侵入すれば、確実に死人が出る。蟻がまた、人を喰い殺す。もう、後がないんだろ。


「この鞄の中身、使えそうなら使ってくれ。」


背負ってたリュックを彼女に押し付ける。残るはハンドガン『.50-resistance=backwater』、残弾数三十。


「は、あんた死ぬ気!?」


「ちゃんと武器は持ってる。身軽じゃなきゃ戦えねぇから、それ持って早く行くんだな、もち安全運転で。」


「それ撃ち切ったらどうすんのさ・・・?」


「まあそん時は大人しく、大人しく投石か格闘でもするさ。支給品が乏しいからか、馬鹿どもが外し忘れるといけないからかは知らないけどな、俺たちゲウムの武器はセーフティが外れたもんばっかなんだよ。」


「・・・ゲウムってそんなにやばいとこなの。」


「まあ阿鼻叫喚だ。こないだなんか豆で鬼を殺せって前線に出されたから、仕方なく素手で倒した。っと、しょうもない自慢もここまでみたいだな・・・。ここで一旦はお別れだけど、すぐにはくたばるなよ。」


今一度立ち上がる。痺れはなく、不思議と足の違和感もない。俺は彼女に向ける背中が格好悪くないように、精一杯胸を張って一歩踏んだ。足元の火薬はサクサク鳴った。


「・・・待って!」


「どうしたんだよ」


引き止められて振り返ると、泣いてないし怒ってもないが、それくらい必死そうな顔が一つあった。



「ゲウムって、無能で半端者の雑魚じゃないの?亮も、ゲウムならさ。なんで戦うの?」



一瞬立ち止まる。すぐに、もう一歩を踏み出す。



「俺はゲウムだけど、フロリスだから。」



俺はトラックを飛び降りた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ