14話 ゲウムの出る幕はないってわけ
状況を、簡潔に語ろう。
───コンテナの中身は女の子だった。
「ふぁ・・・ぁ。誰あんた。」
敷き詰められた黒色粉末の上に寝そべっていた彼女は、欠伸交じりに、寝起きあってのことか不機嫌なまなざしで言った。防衛区にある軍用トラックのコンテナで寝ていた女子、俺は当然呆気にとられた。
「えっとフロリスの塩川亮・・・そりゃ俺のセリフってか、何してんの。こんなとこで。」
「・・・、何してようがあたしの勝手。」
「ふむ、そりゃそうかじゃあフロリスの俺は人身保護法に基づいてお前様を連れて帰るのでご同行願おうかええ?」
「そのタコみたいなマーク、あんた雑魚のゲウム階級だよね。上の指示なしにそういうことしていいんだ?」
「ぐ、なぜそれを」
「義務教育だから。面白半分でフロリスに入ると痛い目見るって中三で習うんだし、誰だって知ってるでしょ。」
俺は再び呆気にとられた。くそ、なんてことだ。俺が睡眠に費やしていたあの授業で、ほかの生徒はそんなことを習っていたというのか。通りで、このフロリス手帳出すとろくな目に遭わないわけだ。
「おのれ教育課、妙な事吹込みやがって。・・・分かった、やめた。お前みたいの引きずってくと骨が折れそうだしな、色々と。」
「は、それどういう意味?」
「分かんなかったら鏡でも見てみるんだな。」
「っ──!!」
そうすりゃその小生意気なツラがよく見えんだろ、そう続けようとして、俺は目の前から飛んでくる平手打ちをかわせなかった。
「普通に、セクハラだっつのっ!!───」
──────
「・・・はぁ。悪かったよ。体重気にしてんのに誤解するようなこと言って。」
「うっさいざこ」
「しっかし最近の女子高生は忙しいのな。腹なんか少しも出てないし、それ以上見た目に気ィ遣わなくてもいいと思うんだけどな。十二分に可愛いと思う。」
俺はボンネットに座ってジンジン言ってる頬を押さえ、横目を彼女の方に泳がす。
「言わんでいい気持ち悪い。てか見んな」
「コンテナの中身の方だ、その黒い粉何」
「・・・・・・火薬。」
「火薬、裸で詰まってるそれ全部か?」
飛び上がりたい衝動と飛び上がった拍子に死ぬかもしれない状況のジレンマ、俺はその分目を見開いた。彼女はバツの悪そうな顔をして口をつぐんだが、その短気さゆえかすぐにしびれを切らした。
「・・・だって、私兵器とか出ても戦えないし。家出するときパニクってたんだからしょうがないでしょ。」
「家出・・・ていうか、嘘だろこれお前が運転してきたのかよ。やばいな。」
「・・・なんか文句あんの。」
俺は三度、呆気にとられた。
「はぁ、危険物運送には安全上の遵守事項ってのがあってだな。火花が散っただけで爆発する薬、ってのを略して火薬なんだよ。こんなめちゃくちゃな道路じゃすぐこけるし、大怪我じゃ済まないぞ。ましてこの上で寝てたりなんかしやがって、そんなに死にたいかよ。」
そもそも軍用トラックのハンドル自体素人に握らせていいものじゃない。一女子高生が火薬を詰めた状態で凹凸の激しい道を乗り回そうものなら、間違いなく事故が起こるというより、起こって然るべきだ。
「死にたいのかって聞かれたら、どう答えればいいか分かんないけど。でも、こんなんじゃ死なない。」
彼女は言って、何かを秘めた瞳で続けた。
「───あたし、昔からちょっとだけ鋭いの。」
俺は彼女を真っすぐ見て聞いてから、答えた。
「・・・え、っと目つきが?」
「勘だっつの。」
「目つきもだろ。」
「うっさいばか。・・・とにかく、なんとなくで色々分かる『超感覚』みたいな勘があんの。」
その甲斐あってトラックも操縦できたし、何の心配もなく火薬の上で寝返りを打っていたと、彼女はそう説明した。
「へぇ。『勘』ねぇ。」
そう言われると、確かにそういう節はあった。俺が来た時にミリも焦っちゃいなかったのがいい例だ。単に世間知らずな箱入り娘ってことも否定できないが、拳銃引っ提げた他人が押し入って来ても物怖じしないどころかむしろ斜に構える、正直至難の業だ。ここは安心安全フロリスフロンティアの柵の外なんだからな。俺が怖ーい何らかだって可能性を最初から切り捨てていたこと、それは後先考えない蛮勇によるのか、はたまたその『勘』ありきの確信によるものなのか。
「まぁ、亮は信じなくていいよ。・・・結局あたしの勘だって、お姉ちゃんのに比べたら大したことないし・・・。」
「ギャルって謙遜とかするんだ」
「ギャルいうなざこ亮。」
「やっぱ馴れ馴れしいなお前。・・・んで、そのお姉ちゃんなしで大丈夫なのかね」
家出の理由、気になるところだよな。不器用さが災いしたすれ違いとか、そういうのだったらフロリスの俺がきっちり押し返してやらにゃ。人間死ぬときは一瞬だ。
「ん・・・、それはへーき。私『アウトサイダー』になるから。明日からは生きてる街見つけてコンビニ暮らし、お姉ちゃんにももう会わないし、亮みたいなゲウムの出る幕はないってわけ。私みたいのに構ってないで、さっさと仕事すれば。」
彼女が一瞬だけ見せた切なげな表情。そんで、アウトサイダー、ね。少しだがこいつのことが分かってきたぞ。多分だが内面的には臆病なんだ、このふんわり髪は。すぐ手が出る半グレ女子、自信なさの裏返しだ。良い奴かどうかは知らない、けど一人で小利口に生きていけそうには見えない。
(こいつは、こっちにいちゃいけないんだろうな。)
だから俺はその場に寝転んで、彼女の横で汚い空なんか見上げてみたのである。




