愛人②
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(っ……。逃げなさい、リン)
マヤは強くそう念じる。
ここに着く前、彼女に何度も念を押しておいて良かった。
マヤは男に組み敷かれる中、水の都へ向かう旅路での事が頭によぎっていた。
両手足の拘束に加え、力も封じられて身動きもきかない。
何より時間も経ちすぎていた。
(どう考えても指令は続行不可能…)
マヤ自身、こうなっては命の保証など何処にもなかった。
(……それは構わない)
……でも、まさかこんな水霊石ごときに力が封じられるとは思ってもみなかったけれど。
(でも、……私が二重に受けている力の制御を外せさえすれば、破壊出来るはず…)
ただし、普段からせき止められている力の暴走は押さえきれないだろう。
そして…。
(私の中に眠るあの子も解き放たれる…)
この事もふまえ、リンに何度も念を押しておいた。
一定の時間に何事も起こらない場合は、一座全体が速やかに撤退する手筈になっている。
……要は時間の問題だ。
あともう少し、時間を稼げれば彼女なら何が起こったか正しく判断してくれる。
マヤは男の顔を静かに睨み続けた。
(問題はこの男……)
何もかもを知りすぎている。
(いったい何故ここまで……)
男の瞳や表情から何か読み取りたくても、目の前のこの男の表情は揺らぐ事はない。
(……生かしておくべきじゃない)
直感がそう告げていた。
「私とこの国の皇女が瓜二つ……?馬鹿ね。あなた目がおかしいんじゃない?」
そう言って、マヤは小馬鹿にするように男の言葉を吐き捨てた。
しかし男は気を悪くする所か、笑って何のそぶりもなく返してくる。
「……確かにね。雰囲気も表情も全く違う。でもこうして近くで見ると…、やはり君達は瓜二つだ」
そう言うと、男は彼女の髪を一房掴み取り、その髪に口づけた。
そして、次の瞬間…。




