愛人①
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『姫…くれぐれもご無理はなさらない様に…』
水の都に入る手前。
旅団の荷馬車がガラガラと道を進む中…。
マヤの部隊の直属の部下であり、唯一の友と呼べる存在のリンが、他の団員も一緒に乗る荷馬車の中で声を抑えてマヤに話しかけてきた。
『大丈夫よ、リン。毎度の事、無理してヘマは犯さないわ。……それに間違ってもあなた達を巻き込むような事は絶対しないから』
そう言って片膝を抱え座るマヤは、幕の隙間から外の景色を遠い目で見やる。
リンとは長い付き合いだ…。
彼女は今回の任務を無事終えた後、私が何をしようとしているか分かっているはずだ。
『リン…。任務中は決して気を許してはダメよ。この中の誰にもね…。仲間の中でもいつ何があるか解らない』
裏切り、
騙し合い、
相手を殺し
生き残る…。
それが自分達の全てだ。
『もし、私が予定の時間に戻らなければ、自分の部隊を連れてすぐにその場を離れなさい…。今まで私達がそうしてきた様に、生きるために判断を間違えてはダメ』
『姫様…』
『全てがもうすぐ始まる…。やっとあの娘の呪縛から解放されるのよ…。その為なら私は、鬼にも悪魔にも魂を売るわ』
同じ血を分けながらも、合わせ鏡の様に相反する存在…。
あの皇女の存在が、四六時中マヤを奈落の底に突き落とす。
その気持ちの根源が自分勝手な理不尽な感情だと…心の奥底で解ってはいても。
マヤ自身、膨れ上がったこの狂気を止めることなど出来ないのだ。
『リン…。私に何かあったら迷うこと無いわ。見捨てなさい』
『……わかったわね?』




