オレの生き様はこうだ!~必ず帰る~
「わ、分かったよ。そしたら馬車の金は持ってる分だけでいいからさ」
「えー!ありがとう。助かるわ」
「だったら、あの金髪の子を呼び戻してくれよ」
「分かった。ねえ、エリ子。馬車売ってくれるって。こっち戻ってきてよ」
エリ子ってなんだよ。
「私、あの馬車がほしい」
オレが指したのは当然サース王国の馬車だ。
「いやいや、あれは貴族様の馬車だよ。俺たちの管轄外だ」
「でも、あれに乗って帰りたい。ね、フネ子」
エリ子のお返しにフネ子にしてやった。昭和の風が吹き荒れるぜ。
「すっごーい!豪華ね。私もあれに乗りたい。あの従者の方に掛け合ってみようかしら」
「無理だろ。断られるのが目に見えてる」
「貴方たちも手伝ってくれたら手に入るかもしれないわよ。馬車は家に帰れば必要ないし、その後は貴方たちにあげる。馬車もお金も私たちも手に入れることが出来るんだけど……嫌?」
生唾を飲み込んだ輩たちはファイを食い入るように見ている。
「し、しょうがねえな。悪い話じゃないし、俺たち3人いれば従者1人くらいどうにでも出来るだろ」
オレの方を見たファイが悪人のような面で笑っていた。
オレとファイはサース王国の従者に声をかけた。
「ねえ、この馬車譲ってくださらない?」
「バカ言え。これは位の高い方々が使用されるものだ」
「いくらあれば買えるの?」
「売る訳ないだろう。さっさと帰れ」
やはりそう簡単にはいかない。
ならば、従者を引き付けている今のうちに輩たちに背後から襲わせるか。
でも従者の警戒心はまだ強い。
「じゃあ、お兄さんはいくらで買える?」
ファイが従者に顔を近づけた。
「は?」
「恥ずかしかったから誤魔化したんだけど、本当はお兄さんとお話したかったの」
人差し指で従者の頬をなぞり、そのまま唇まで滑らせる。
「だってこんな格好良い人見て、何とも思わないなんて出来なかったから」
こ、こここここの男……。
とんでもねえ尻軽ッ!!
尻がッ!!圧倒的に軽いッッ!!
こいつから発せられる得体の知れない恐怖がオレを襲った。
「な、なにを言い出すかと思えば……」
しかも従者は目を逸らして、しどろもどろになっている。正気か。
ファイが一瞬、オレの方を見た。
タイミング的に今ってことか。
オレは馬車の近くで待機していた輩たちに目で合図を送る。
「うぉりゃああ!」
輩の二人が従者を背後から襲い、殴りつけた。
倒れこんだ従者を容赦なく今度は踏みつけている。
「やめろ!何をする!?」
その隙に残りの輩一人が馬車に乗り込み馬の手綱を握った。
「これは俺たちのもんだ。一人じゃ勝てっこないだろうが。しっぽ巻いて逃げやがれ」
「くっ……ひとまず報告せねば」
従者は逃げるように正門をくぐり、闘技場の方向へ走っていった。
治安部隊の馬車制圧は完了だ。
あとは、この輩たちを何とかせねば。
「じゃあ、姉ちゃんたち。約束だ。金もそうだが、この馬車の中で相手してくれてもいいんだぜ?」
輩たちが下品に笑い、オレたちに近づいてくる。
どうするか。こいつらをボコるくらいならオレにも自信はある。
「貴殿ら、それ以上近づかないでいただこう」
声がする方を見ると、レイノルドがオレたちの馬車で向かってきた。
「なんだあ、おっさん」
「品性の欠片もない方々だ。女性に群がるなど、紳士としてあるまじき行為」
「喧嘩売ってんのか?こっちは3人だぞ」
完全にさっきの従者の件で輩たちは自信が漲っているようだ。
だが、相手はレイノルド。なめない方が良い。
馬車から降りた彼は、鞘に収まったままの剣を構えた。
「啖呵切っといて、殺すのが怖いのかよ?」
「いえ、剣を抜く価値もないということです」
そう言った瞬間、レイノルドは地を蹴って飛び上がり、輩たちの背後に回って、奴らの頭を鞘で殴った。
怪我を負わせるような力ではなかったが、相当痛かったようで輩たちは唸りながら縮こまっている。
「あの国の従者に立ち向かう度胸があるなら、もっと誉れ高くなりなさい。このような低俗なことをせず、ちゃんとした仕事を見つけて勤勉でありなさい。そうすれば正しく収入も得られ、そこの水色の尻軽と違う、れっきとした淑女も現れるでしょう」
やっぱレイノルドから見ても尻軽なんだ。てかレイノルドもその言葉使うのか。
存外、輩たちにレイノルドの言葉は響いたようで「すみませんでした」と目を潤ませながら去っていった。
「エリオット様、ご無事でしょうか」
「助かったよレイノルド。ファイに言われていたのか」
「ええ。ご自分の用事でサース王国の馬車に接触するから、危険な目に遭いそうになったら介入してほしいと。相手が相手なので肝を冷やしましたが、結果的にあの輩を成敗することになりました」
レイノルドは従者に手を出した訳ではないから、フィル王国がサース王国に手を出したってことにはならずに済んだのか。
「すまなかったね、レイノルド。後は自分がやっておくからエリーを連れて先にフィル王国に帰っていてほしい」
「……は?お前何言ってんの?まだいろいろ残ってんだろうが」
治安部隊は今から撤退すると思うが、まだリカーラや決闘の事が解決していないだろう。
「エリーと自分の目的は達成している。ここからは、自分個人が古い友人との約束を果たすためにすることだ。エリーが居ないことはうまく説明しておく」
「お前、あそこは危険なんだぞ。オレじゃどこまで役に立つのか分かんねえけど、オレも行く」
「では、これは宰相として言う。国を守るために先に戻ってくれ。そしてこれは相棒として言う。エリーとの約束を守るために、自分もちゃんと生きて必ず帰る」
ファイは真剣な眼差しでオレを見た。
「……ならオレも王子として言う。国とオレを守るために必ず帰ってこい。そしてこれは相棒として言う。オレとお前の約束を守るためにも命を投げ捨てるな。自分も、他人も」
オレはファイに拳を突き出した。
「この状況でなかなか難しい条件を追加してくるね」
苦笑しながらファイはオレに拳を合わせた。




