オレの生き様はこうだ!~ヘラ気味激ヤバ治安部隊女隊長~
「かかって来ないのぉ?」
「そっちから来いよ」
「じゃあ、いろいろ試してみようかなぁ」
女は腰に携えた鞭を取り出し、オレの腕に向かって振り上げた。
来る。
『オレを守れ!』
心で思いながら、サッちゃんに伝わるように彼女に目をやった。
「うん!」
サッちゃんがリストバンドの魔石を発動させ、シールドが張られた。鞭は易々と弾かれた。
そのシールドはオレの全身を包むほどの大きさだった。
「……は?何その防御魔法」
女は眉間に皺を寄せた。
それもそのはず、一般的な魔石は攻撃が向いてきた部分にのみシールドを張る。
サッちゃんを介して作った魔石だからか?
防御範囲や威力はエリオットたちが作った魔石と同じにしているが、手動発動にするとやや効果が強くなるのか。
「ますます怪しいんですけどぉ」
女は左手を前に出した。
「炎の精よ、我が言の葉に応えよ。彼の者を焼き尽くす火球を放て」
左手からいくつもの火の球が現れ、オレに向かって放たれた。
あれも防御魔法で防げると思うが、目の前から火が飛んでくるのは流石に恐怖を感じる。
ここは逃げよう。
女に背を向け、後ろを振り向きつつ火の玉を避けた。
訓練のおかげだろう、何となくどこに飛んでくるか感じることは出来たので回避できた。
「あっぶねぇ……」
近くの建物の陰に隠れ、サッちゃんを抱いたまま、しゃがんで身を潜めた。
「君、もう鬼ごっこはやめよ?ちょっと訳分かんなくなっちゃった」
若干、声の質が変わっている。イライラさせてんだろうな。
「おかしいよ。その魔力反応も、魔石の威力も、君の素人っぷりも、かわいさも」
砂利を踏む音が強くなり、オレに近づいてくるのが分かる。
「調べないと分からない。こんなの初めて。君のこと、気になって仕方ない。君の隅々まで知り尽くしたい。欲しくてたまらない」
今いる場所はバレてる。早いところ移動してファイに合流しねえと……。
立ち上がった途端、右手を引っ張られた。
振り向くと、先程の女が立っており、手で顎を引き寄せられた。
「ぜーんぶ私にちょうだい」
拒絶反応とは、こういうことを言うんだろうか。
無意識にオレはサッちゃんを抱いていた手を緩めて降ろし、女の手を掴んで離した後、顔を殴りつけた。
「うぅっ……」
女は後ろによろめいた。
「ひどぉい。女の子を殴るなんてぇ」
ふとオレは我に返った。
今、本能的に身を守ったのか……。
「……ん?なんでお前は魔石が発動してないんだ」
「さっき外したからねぇ。だって発動したら君の体が傷つくじゃん?シールドが邪魔で君に触れてもらうことも出来なくなるしぃ」
「い、意味が分からん」
「今のパンチも良かったぁ。ねえ、もっと触れ合おうよぉ。私の顔ももっと触ってよぉ。君、本当にかわいぃ」
全身が怖気立つ。
気持ち悪い。何考えてんだよ、この女。
「そうか、では私もその触れ合いに混ぜてもらおう」
背後から声が聞こえた。
振り向くと、少し息を切らしたセイシルがいた。その後ろには近衛兵たちも続いている。
「遅くなってすまない。ロードンは確保、いや保護した。丁重に牢屋、いや個室に案内している。だからもう私は心置きなく戦える」
「セイシル!助かるぜ。でも相手は治安部隊だ。サース王国を相手にする話になるぞ」
「あいつらは我らの国で暴れて武力を振り回しているんだ。こちらは自国の治安を守るために戦うさ。それにアーリェ様もきっと言うはずだ。国を守れ、と。お前たちにそれを擦り付けるのはクライル近衛兵隊長として恥ずべきことだ」
頼もしい、頼もしすぎる……。
安心して腰が抜けそうだ。
「エリー!無事か!」
ファイも後から駆けてきた。
「お、おっせーよ、お前。ま、まあ?ぜぜ全然怖くなんかなかったけどね?」
「悪かった。でもよく持ちこたえてくれた。エリーは立派だよ」
「うえ……急に褒めんなよ。気持ち悪りぃ」
「そんなエリーに次の課題です。あの治安部隊隊長をみんなで協力してとっ捕まえましょう」
レイピアを構え、ファイは不敵に笑った。
「あいつ隊長なのかよ。それは手強いなー。お手本みせてくださいよー、先生」
オレも不敵に笑って見せた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
治安部隊隊長の女がエリーに向かっていった後。
「クソッ!」
ファイはその後を追おうとしたが、治安部隊の男をそのまま放っておく訳にもいかなかった。
このまま失血死するだろうが、上半身と左足は使える。声も発することができる。
「……いいのかよ。あの人、ウチの隊長なんだぜ。俺どころの強さじゃねえぞ」
実力はファイも分かっていた。
男と戦っている時、ファイは隊長からの攻撃も警戒していた。
実際に隊長はファイに攻撃することは出来る体勢だったが、それと同時に辺りも見まわして何かを探す余裕も持っていた。
探した相手がエリーだったのだが。
「口が減らないな。時間稼ぎか」
「さあ……どう、だか……」
大量の血が流れ、男は意識が朦朧としてきた。
このまま勝手に死にそうだ。
ファイは男に背を向けようとした。
しかし、止めた。
もし、まだ体が動かせて妙な動きをしたらどうするのか。
男の方を向き、レイピアで両手と左足を深く切りつけた。
「があああぁぁっ!!」
男はそのまま地面に倒れ込んだ。
レイピアを軽く振って、付着した血を払った。
もし、男が魔導士で詠唱することが出来たらどうするのか。
「後は口か……」
男の口にレイピアを差し込み、そのまま喉を突き刺そうとした。
男は覚悟を決め、目を閉じた。
「ファイ!待ってくれ!」
セイシルが大声で制止した。
「そいつから聞き出せる情報があるかもしれない。まだ生かしておいてくれ」
「ここまですれば、もう手遅れだぞ」
「ウチには聖魔導士がいるんだ。この傷の深さでは四肢の全回復は困難だろうが、止血はできるから命は助かる」
この通りだ、とセイシルは頭を下げた。
「……分かったよ。ただ待機している近衛兵数人を監視につけて、セイシルと残りの近衛兵と自分でエリーを助けに行く。それが条件だ。もう一人の治安部隊の方は隊長で、実力も確かだからね」
「承知した。近衛兵に指示を出そう。あとアーリェ様は今どうなっている」
「移動しながら説明するよ」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「結局ぅ、お姉さんも仲間だったってことぉ?」
「勘違いするな。この者は共通の目的で一時休戦中だ。お前を取り押さえた後に別で取り押さえる」
セイシルが苦しい説明をするが「ふーん」と女は流している。
「まあ、どうでもいいけど。あんまり時間なくなってきたしぃ、その子だけ持って帰るから邪魔しないでぇ」
女は鞭を構え、手をかざした。
「雷の精よ……」
「詠唱前に押さえろ!」
セイシルが近衛兵たちが指示を出し、兵たちは女に向かって走り出した。
「我が鞭に纏い、彼の者たちに裁きの光を」
女の詠唱が先に終わり、鞭を振り下ろした。
鞭が当たったところは魔石で守られるが、電撃が加わっているため近衛兵の体に電気が流れ移り、近衛兵たちは大声で唸りながら倒れていった。
「すまない、みんな。だが時間は稼げた」
セイシルが駆け出し、飛び上がって女に拳を振り下ろす。
拳には炎の魔法が巻き付くようにかかっている。
「詠唱の時間稼ぎってことねぇ」
女はステップを踏むように避けた。セイシルはそのまま追いかけるように攻撃を続けているが、女はまたしても避けてかわしている。
「厄介な攻撃だぜ……」
「エリー。考えたんだけど、あの女にお持ち帰りされてみる?」
ファイがニヤリと笑いながらオレを見た。
「はあ!?あんなヤベェ女、ヤベェことされて、あれよあれよでヤベェだろ」
「ちょっと落ち着きなよ。囮になるんだ。女の注意をエリーに向けるのさ。その間に自分たちが女を囲んで一斉攻撃する」
「プランBの応用か」
「ただ、全力で囮になれよ。持てる力を引き出して、あの女の囮になるんだ」
「……どういう意味だ?」
ファイは楽しそうに説明した。
セイシルは女に攻撃をしかけ続けるも全てかわされている。
さすがに体力が持たず、動きが鈍くなっている。
「恐いお姉さん、疲れちゃったぁ?」
女が鞭を構える。
「待て!」
女の前に姿を現したオレは大声で止めた。
「お前はオレが欲しいんだろうが。オレを無視して他の女に色目使いやがって」
女装した状態で、すっげえ事言わせられてんな、オレ。こんな台詞、一生言わねえよ。
「やっと分かってくれたぁ?」
「手間取らせんな。こっち来いよ」
両手を広げて女を迎える素振りをした。
女は嬉しそうにスキップしながらこちらに向かってくる。
『オレを守ってくれ』
「あいあいさー」
ずっとオレの傍にいたサッちゃんがリストバンドの魔石を発動させる。
オレの体をシールドが全て包み込んだ。
「炎の精よ、我が言の葉に応えよ。苦しみ悶える程の灼熱を与えよ」
セイシルと近衛兵たちが詠唱し、オレと女を取り囲んでいた。
兵士たちの手から大きな炎が現れ、オレと女に一気に注がれた。
ファイがオレに提案した策だ。
オレは防御魔法がかかっているため無傷。
女は魔石を外したと言っていたから、いくら強い魔導士といえど、この攻撃は無傷ではあるまい。
炎が消滅し、辺りは焼け野原のように焦げていた。
防御魔法を解除するが、どれほどの火力があったか分かるほど、周囲に焼けるような熱さが残っていた。
「あの女は……?」
見回すも、女がいなくなっている。
「ここだよぉ」
声が聞こえたため、上を向くと女が空から降ってきた。
オレの目の前に着地し、ニコニコしている。
「何で無事なんだよ……」
「ちょっとヤバかったよぉ。君、明らかに私の事誘ってたしぃ、怖いお姉ちゃんの相手してた時に外してたサファイアは回収してたしぃ、炎が放たれた時に背中にシールドと氷魔法張って、その間に風魔法で空に浮いて回避したのぉ。でも少し燃えちゃったぁ」
両足の軍服が少し燃えており、そこから見えた皮膚が火傷を負っているのが分かる。
こんな奴、どうやって確保するんだ。
戦闘だけでなく、いろんな属性の魔法にも長けている。
「痛ぁい。でも君を抱えて帰るくらいなら全然よゆぅ」
女がオレの頬に手を伸ばして一歩近づこうとした。
「……でも、今日は止めとこ。時間切れだし、今の私じゃ負けちゃうかも」
ふと横を見ると、ファイが女の首にレイピアを突き立てている。
女が一歩踏み出せば、刺さっていただろう。
ていうか、ファイがいたことに全く気付かなかった。気配がなかった。
「私の事、捕まえられなくて残念だったねぇ」
女は踵を返した。
「それよりぃ、貴方たちも女王のところに行ってあげた方が良いんじゃない?あれから結構時間経ったと思うけどぉ」
「……やはり時間稼ぎか」
ファイは表情を曇らせた。
「じゃあねぇ。えーと、エリーちゃんだっけぇ?今度迎えに行くからねぇ」
女は風魔法を詠唱し、空を飛んで去っていった。
「エリー、怪我はないか」
「お、おうよ。なんか一気にいろいろあって頭が混乱してるけど……」
見間違いと思っていたが、今改めて見ると、間違いない。
ファイは返り血をかなり浴びている。治安部隊の男の右足を切った時だけのものじゃない。
あの男を。人を。
殺し、たのかな……。
「アーリェ様の元に急がねば!ファイ、エリー。加勢してくれるか」
セイシルの声が聞こえ、我に返った。
「ああ、もちろんだよ。ね、エリー」
「……あ、ああ。リカーラの事も状況がよく分かんねえし、確かめないとな」




