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オレの生き様はこうだ!~ミッション開始~

治安部隊の一人の懐にファイが素早く入り込み、レイピアを抜き胸を突き刺そうとした。

案の定、相手の防御魔石の蒼玉魔法が発動し、胸の辺りに淡い青色の光のシールドが張られ、ファイの攻撃は防がれた。シールドはすぐに光を失い消滅した。

「へえ、慣れてんじゃん」

距離を取ったファイに向かい、攻撃を防いだ治安部隊の男は腰に携えたサーベルを抜く。

「何のつもりだよ、姉ちゃん」

「治安部隊には個人的に恨みがあってね。つい体が動いてしまった」



今だ。

「いやあ!あの方たち剣を抜いてますわ!ここで巻き込まれて死にたくありませんことよ!」

自分でも出したことがない程の裏声で、女のフリをしたオレが物陰から叫んだ。

「本当だ!逃げねえと!」

「目をつけられたら、こ、殺される」

「早く場内に入れろよ!」

またもや群衆雪崩が発生しそうになった。

オレは遠くから人混みに紛れ、髪に留めているバレッタを太陽に反射させた。

それに気づいたセイシルがオレの方を見て目が合う。



オレたちの計画に気付いたようで、セイシルがロードンの手を引く。

「ここは危険です。早く建物の中に避難しましょう」

「おい!乱暴に触るな。お前たち、そんな頭のおかしい女は無視して、私を安全に競馬場内まで連れていけ」

治安部隊に向かってロードンが声を荒げる。

「えー、何でぇ?」

もう一人の治安部隊の女が答えた。

「私たち、護衛じゃないんですけどぉ。おじさんに一緒についてきただけですけどぉ」

「お、おじさんだと?お前たちが給料もらえるのは誰のおかげだと思うんだ!?私が出資しているからだろうが」

「私そんなこと知らないしぃ。あ、クライルの隊長さん。おじさんどっか連れてっていいよぉ。私たちには関係ないからぁ」

呆気に取られていたセイシルだが、即座に状況を理解しロードンの手首を強引に引っ張った。

「こちらへ。貴方も命は大切でしょう」

「は、離せ!お前らなんて信用出来ん」

「では、ここで巻き込まれて死ぬと?治安部隊の方たちは貴方を守るつもりはないようですが。私は場内までの案内と警備の命令を王より受けております。しかし抵抗なさるのでしたら、こちらも手段を選ばず命令を遂行させていただく事になります」

セイシルはロードンを掴んでいる手を強く握りしめた。

あの体格だ。その力の強さは想像するに難くない。

「痛たたた!分かった!分かったから止めろ」

諦めたロードンはセイシルに連れられ、競馬場入口の方に群衆雪崩に巻き込まれつつ流れていった。






ロードン確保はこれで完了。

次は観客の避難だ。

一旦、人混みから何とか抜け出し、また物陰に隠れた。

今の混乱状態で「こちらに避難を!」なんて叫んでも、誰も聞かないし聞こえてない。

それ以上にインパクトがあるものが必要だ。


そこでウォマク国で使った手を再度使用する。

クライル国にも一定の貴族はおり、サファイアを所持している。

野蛮な国なので、貴族の邸宅はかなり広く頑丈な造り且つ、サファイアを防御魔石として外壁に装飾しており守りに適している。

サッちゃんに外壁の魔石を発動でなく、強く光を発するだけの操作をしてもらい、観客の目に留まれせて、各地の邸宅に避難するよう誘導する。

『誠に勝手ながら、ご協力お願いします』作戦だ。




「サッちゃん、頼んだ」

「おっけーだよ」

サッちゃんは右手を自分の左側に伸ばし、目の前を払いのけるように右側に動かした。

すると各地で青い光が表れ始めた。

「あれなんだ?」

「サファイアの守りの光ってやつか?」

競馬場に入れなかった観客が各地の光の方向へ流れていく。

人も分散されて、雪崩も少し緩やかになった。

これで治安部隊から十分な距離は取れたな。






そして治安部隊の対応。

会話は聞こえなかったが、セイシルたちのやり取りを見た感じ、おっさんの護衛ではないらしい。

じゃあ、何しに来たんだ。

ファイが攻撃をしかけてしまった以上、治安部隊を何とかするしかない。



ファイと交戦しているのは、スキンヘッドで顎髭を生やした体格の良い中年の男。

眼鏡をかけてツインテールの髪形をしている、もう一人の治安部隊の若い女は、その様子をただ眺めている。


女は手を出すつもりはないのか。

であれば、男の方を何とかしないと。



男は無駄な動きなくサーベルをファイに向かって何度も振り下ろす。

それを避け、一度レイピアで受けて振り払った後、男が体勢を整える前にファイが相手の腹に蹴りを入れる。

しかし防御魔法が発動し、蹴りが弾かれ、今度はファイが体勢を崩し片膝をつく。

その隙を逃さず、男はファイの首を切り落とそうと狙う。

だがファイは転がって避け、立ち上がり体勢を整えレイピアを構える。




オレが介入する隙がない。

戦闘が怖い云々ではなく、この状態では何も出来ないのだ。

作戦通り、魔石の発動を操作するしかない。


「サッちゃん。さっきファイが言ってたように、あのピカピカ髭おぢの防御魔法の発動をずらしてくれる?」

「分かった。まかせて」



ファイが言っていたのは、攻撃をするモーションが入ったらすぐに発動してシールドを張り、ファイの攻撃を弾いた後も若干長めにシールドを張っておく、というものだった。

早く発動することで、相手は攻撃の前に別の攻撃が既に向けられていると思う。一度はファイの攻撃が弾かれるも、まだ消えないシールドを見て最初の別の攻撃を警戒し、ファイから気が逸れる。その隙をつくとのこと。

ただ、いきなりすると警戒されるので、しばらく戦闘が続いてからサッちゃんに操作してほしいとのことだ。

既に攻防が続いているため、もう発動して大丈夫だろう。




「姉ちゃん、どこの国の兵士だ?」

サーベルで切りかかりながら男が尋ねた。

「言う必要はないね」

レイピアで防ぎながらファイが答える。

「あんた強いだろ。ウチ来いよ」

「個人的に恨みがあるって言ったよね。お断りする」

「あんたなら厚待遇だぜ。強くて美人だし、団長が気に入りそうだ。殺すのは惜しい」

「そうか。それは残念だったな。どれも叶いそうにない」

ファイはしゃがんで男の左足を掬うように蹴ろうとする動きをした。



「今だ、サッちゃん」

サッちゃんは人差し指を立て、男に向かって曲げる。

防御魔法が発動し男の足元にシールドが張られる。

僅かに男の体が強張る。発動が早いことに違和感を覚えたのだろう。

片手片足を地面について軸にし、蹴りを入れたファイの足は弾かれるも、シールドはまだ消えない。

1秒にも満たないほんの一瞬、男はファイから気を逸らした。

その隙を狙い、ファイはそのまま素早く地面を転がるように男の後ろに回り込んだ。

しっかりと握ったままのレイピアで男の右足に深い一太刀を浴びせた。


「ぐっ……」

男は右膝をつき、サーベルを地面に突き刺して支えにし、体を起こした状態を何とか保っていた。

右足からはどくどくと血が流れている。

「あれくらいの気の逸れを突いてくるなんざ、あんた兵士どころじゃねえな」

「その体じゃ、もう動けないだろ。そっちの貴方もこの人を連れて引き揚げたらどうだ。放っておくと、この人死ぬよ」

ファイは治安部隊の女を一瞥した。

「別に死んでも私は構わないけどぉ、目的を果たさないと帰れないっていうかぁ」

「何が目的だ」

「それは言う必要なくなぁい?邪魔するなら相手してあげてもいいけど、お姉さんは興味ないかなぁ。私、魔法使ってくれる人が好きだしぃ」

女は薄ら笑いを浮かべながら手を両足にかざした。

「風の精よ、我が言の葉に応えよ。直ちに我が体を彼の者の元まで」

女の体が宙に浮き、疾風のごとく飛んで行った。

飛んで行った、というか。

オレの方に向かってきている。




「ここにいたんだぁ。私、カワイイ子だぁい好きぃ」

オモチャでも見つけたような女の笑顔に背筋が凍り付いた。







は?は?なんで?

バレた?なんで?

え?死ぬ?殺される?


「お兄ちゃん!」

サッちゃんがオレの目の前で両手を広げて庇う。



……何やってんだ。

この子に、妹に、守ってやるべき存在に守られちゃダメだろ。



サッちゃんを抱え、オレは一目散に走って逃げた。

女は宙に浮いたままオレを追いかけてくる。

「ひいっ!」

「捕まえたぁ」

女の手が伸び、オレは襟を掴まれ、後ろに引っ張られて転倒した。

「いっ……てぇ!」

背中を強く打ち付けられ、痛みに耐えながらも何とか起き上がった。

「お兄ちゃん、大丈夫?」

精霊であるサッちゃんに外部との干渉は起こらないため、彼女に怪我はなくて済んだ。

「ああ……。それよか、あれだ。絶体絶命だ」

魔法を解除した女がウキウキしながら、こちらに近づいてくるからだ。

オレはポケットからレザーグローブを取り出した。

セイシルほど立派なものではないが、戦闘には使える代物だ。

オレがサッちゃんと一緒に作ったサファイアの防御魔石もリストバンドに装備している。

一応、剣もある。アーロン国王が遺したサファイアの耳飾りも付けている。

多分、死ぬことはギリギリ防げる。



オレは拳を構えた。

オレだって鍛えたんだ。

自分とサッちゃんくらいは守れなければ。




「えー?君、クライルの兵士なんだぁ。魔導士じゃないのぉ?」

「ちげえよ」

「しかも口悪ーい。変わった魔力の反応があったから来たのにぃ」

女は眼鏡を外し、また眼鏡をかけた。

「やっぱり反応してるけど、どういうことお?」

「な、なんだよ。その眼鏡が何かあるのかよ」

「教えなぁい。何か隠してるでしょ?」

十中八九、サッちゃんの魔石操作だ。

「なんで魔石が発動しないのぉ。派手に転んだし、魔石装備してるのにぃ」



そうだった。

オレはサファイア一族だから手動発動だ。

アーロンの魔石が反応しないのは不思議だが、あの程度じゃ身の危険まではないってことか。

だったら安心か。

命の危険に晒されたら、父親が守ってくれるんだ。




「話は終わりだ」

オレは構えた拳を強く握りなおした。

ひとまず、相手の攻撃を自分の魔石も使いながら、ひたすら防いで逃げる。

逃げつつ、オレはファイがいるところに移動して合流する。

今思いつくのは、これしかない。

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