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オレの生き様はこうだ!~血腥い人たち~

耳を疑った。

精霊使いは、ティーネ族は、もうこの世界にはいないんじゃないのか。

じゃあ、あの女は何者だ。

問い詰めなければ。


ファイを掴んでいた手を放し、旅芸車に向かおうとした。

「どこへ行く?」

「うるせえ。ついてくんなよ」

「さっきの女性の事か。ならここにいるけど」

振り返ると、ファイの隣に女団員が立っていた。

「お前、離れろ。その女は得体が知れねえ」

「自分の身を案じてくれるのか。嬉しいね」

「違えよ。黙ってろ」

そうか、とファイは少し笑った。

「この女性がアーリェだ」

「……うそだろ」

「エリーも十分分かってるだろ。あの身体能力からして只者じゃないって。それもそうだったって事」

女団員は他の客から顔が見えないように口元の布を少しずらした。

「先程は失礼しました。初めましてエリオット王子。クライル国の王、アーリェです」

女王にしては幼い顔つきだったが『野蛮国家の』女王としては相応しい、凛とした表情をしていた。



でも何でアーリェが旅芸車にいるのか。

たまたま、にしては話が出来ているが、かといってこのタイミングに合わせてサイラーも巻き込ませて接触するというのも難しいだろう。

であれば、やはりこいつか。

「これもファイの仕業か」

オレの言いたいことに勘づいた様子でファイは首を振った。

「彼女には事前に接触したい事は伝えていたけど、旅芸車に紛れて乗り込んでくるとは聞いてなかった。途中で気づいて先に接触したのさ」

「組手が始まる前に、客席の端に何か見たことある人がいると思ってたら、合図送ってきたからね。ファイローネだって気づけたよ」

「じゃあ、今回のサイラーの誘いを断らなかったのは何でだ」

「旅芸車がウォマクに来ている事は知ってたからね。もちろん可能性としてそこで接触する事は考えていたけど、サイラー王子との関係修復も必要だったと思ったんだ。そしたら彼女がいてエリーの武術訓練にも繋げることが出来て一石二鳥だった訳」

説明をきいても、本当かどうか怪しく思える。

「どうやって団員に紛れ込んだんだ?知らない奴がいるって不審に思われたんじゃねえの?」

「同じ背丈と髪型の女の子を見つけて、気絶させて入れ替わったんです。その子は拘束して旅芸車と一緒に移動してる馬車の底の外側に括りつけてる。砂が体内に入らないように呼吸できる程度に布で全身覆ってるし、そう簡単に目を覚まさないように深く気絶させてるから問題ないですよ」

表情一つ変えず、さらりと説明している。

この人、本当にさっきオレと一緒にステージに立って観客を盛り上げてた人……?


「ああ、すみません。あたしってば言葉使いがなってないよね」

「いや、そこじゃなくて」

「彼女は傭兵上がりなんだ。王としての言葉遣いを教えてくれる人がいなくてね。くだけた話し方を許してほしい」

「いや、だからそこじゃなくて」

「ああ、そういうことか。つまり元々慣れてるから大雑把に上手くこなせてしまうのさ」

こっわ……この人たち。

日常茶飯事かのように、人を襲うことに躊躇いがないのかよ。

「エリオット、で呼ばせてもらうね。身分的に公に直接会えないからこんな形になったけど、丁寧には教えられなくてごめん。でも身のこなし方は素質あるよ。後は場数を踏んでいったら問題なし」

「でも場数を踏む機会がないからね。自分が相手して教えるよ。自分も戦いの基礎は彼女に教えてもらったからな」

「あー、懐かしいね。一緒に傭兵やってた時にゼインと教えた。今じゃこんなに大人になって」

ファイの背中をバシッと叩き、笑い飛ばしていた。

なるほど、ファイが戦闘に慣れてるのは傭兵の経験があるからか。

あの剣の腕も納得がいく。


「さて、あまり時間がないので手短に」

急に真剣な表情でアーリェが続けた。

「今回の件だけど、ファイローネの景品総取りは明日までには資産家の耳に入る。今度、奴が会合でウチのとこに現れるのは3日後。おそらく相手もこちらを警戒しているだろうから護衛はちゃんと付けてくる。そして当日の景品は今回の倍って話だから、客もかなり増えて騒がしくなるだろう。それに乗じて奴を確保する。ざっくり言うとこんな感じ。詳細は当日ね。正午までにウチんとこに到着したら別の者に手引きさせるから、それについてきて。そいつの目印に赤のチョーカーつけさせるから、見つけたら声かけて」

「分かった。エリーとも改めて打ち合わせるよ」

「じゃあ、そろそろ国に帰らないとアリリが待ちくたびれてボロが出そうだから。団員の子も解放しないといけないし。エリオット、今回は本当にありがとう。よろしく頼むね」

深く頭を下げ、アーリェはその場を離れようとした。

「あ、ちょっと待てよ!あんた精霊と……」

言いかけたところでファイに口を手で塞がれた。

「気を付けて帰ってね」

空いている手でファイは手を振った。




馬車に戻り、フィル王国に戻っている道中、オレは改めてキレ散らかした。

「何なの、お前?オレを管理するみたいな動きをして。お前がいろいろ考えている事は分かるけど、こっちに教えてくれねえとオレもうまく動けねえんだよ。んで、いざって時はいなくなるし」

「言い訳はしない。が、指導として言いたい事は言う」

大きくため息をついて、ファイは続けた。

「戻ったらクライル国について調べて知識を入れろ。精霊という言葉を軽々しく外で口にするな。ティーネ族がまだ生き残っていると、有り得ない勘違いをする民がいるかもしれない。あとエリーは感情に任せて話すところがまだ直りきってないから気をつけろ。口が滑る恐れがある」

「テメエ……言いたいこと言いやがって」

「状況によって説明不足になり、不審に思わせた事は謝る。護衛として傍につけなかった事も謝る。今はアーリェの手助けとエリーを鍛えることを優先したい。これを受け止めてくれることを願う」

頭じゃ分かってる。

これ以上、オレの怒りをぶつけても何も進まない。

信用出来ねえところはあるが、今までもフィル王国のために行動していた事は事実。

「あー!クソッ!」

やりきれない思いを抑えるために頭をガリガリと掻いた。

「結局、自分の身は自分で守れってことかよ。守る守る詐欺じゃねえか」



3日後、戦闘になった場合の恐怖は拭えていない。

想像すると、やはり震えだしてしまう。

だが、ファイが言っていたことも本当ではある。

この先オレはサース王国と立ち向かうのだから、敵も味方も死者が出るのはきっと避けられない。

腹を括れ。

腹を……。








フィル王国に戻ってから、オレは書庫に籠った。

クライル国について調べるためだ。



クライル国王は元は世襲制だった。

だが国内で反乱が起き、反乱軍のリーダーが国王をはじめ王族を全て殺害した。

リーダーが国王となり、新たな国政を始めようとしたが、そこでまた対立が起き反乱に発展した。

頻繁に国王が替わるような状態となり、国は大いに荒れた。

そんな中、ある時代のクライル国王がクライル王家の紋章に目を留める。

見たことがないような獣の絵が描かれていた。

もしや精霊の姿ではないだろうか、そう考えた国王は当時まだ存在していたティーネ族の首領を訪ねた。

「この紋章の獣は精霊に見えるか」

「分からない。精霊とはその者によって見える姿が違う。貴方たちが知らなくて私も知らないのであれば、これ以上話せる事はない。お引き取り願おう」

その答えで十分だった。




クライル国王は王家について隈なく調べ、宮殿内に祭壇があることに気付いた。

王家が滅んで長年手入れされていなかったからだろう、元は汚れ一つなく純白であったと思われる祭壇が埃を被り、窓も締め切って日が差さずカビも生えている。

「クライル王家を守りし精霊よ。クライル安寧のために私に力を貸せ」

何も反応はなかった。ティーネ族がいれば良かったんだろうが、彼らはこの国を断じて拒むだろう。無理強いして彼ら相手に争いを生むことは避けたかった。

「何が望みだ。私に分かるように教えてくれ」

それでも反応はなかった。

「ならば代償を先に払おう。王家でない我々はこの方法しか知らない」

腰に携えた剣を抜き、国王は自分の胸に突き刺す。

祭壇にもたれるように倒れたが、息は辛うじて出来ていた。

絶命しない深さで胸を突き刺していた。

「ど、うだ……。あと一突きで、私は、死ぬ。お前次第で、私をいつでも、殺せるような、もの。だが、それまで、の、間、私に国を、統べる力、を貸せ……」


数時間後に家臣が発見し、国王は大量の血を流していたが、意識はあり息も続いていた。

自分で動く力もなく療養することになったが、その間も国王を殺害して国を奪おうとする輩は大勢いた。

宮殿内に侵入され、抗う力も残されていない国王は無惨にも剣で体を切り刻まれたが、死んでいなかった。

死ねなかった。そういう体になっていた。

ただ、肉を切り裂かれ、火で焼かれ、惨たらしい目に遭っても死ねない。いっそ殺してほしいほどの耐え難い痛みだけが体と心を蝕んだ。



気味悪がった反乱者たちは、ある日祭壇の存在に気付いた。

祭壇を見に行くと、誰かの血が大量に残っている。

国王が何か呪術的なことをしたに違いない。


国王を祭壇まで連れていき、反乱者たちは国王を剣で切り刻んだ。

もう人間の姿には見えないほどに。

反乱者の一人が最期の一太刀を浴びせると、国王は絶命した。


絶命させた反乱者は何かに勘づいたように、他の反乱者たちの目を盗んで自分の腕を少し切り、祭壇に自分の血を垂らした。

その瞬間、その者は胸に何か刃物で刺されたかのような激痛を感じた。

これだ。

国王の力はこれだった。






「ここからクライル国で初めて精霊との契約が始まった……か」

その後、不死の国王が誕生したと有名な話になり反乱も収まったが、契約の事実が徐々に暴かれ、時代が進むにつれて世界中に知られる事となった。そして祭壇がある場所に闘技場を作り、そこで国王に王位をかけて決闘を申し込む形を作った。そこならば国王を絶命させることが出来るからだ。

「想像以上にグロいし野蛮だわ」

てことは、女王であるアーリェも先代国王を殺しているのか……。

傭兵上がりって言ってたもんな。殺すことに躊躇いはないか。

人を殺したことがある奴と普通に喋ってたと思うと少し怖気が立つが、無差別に殺すようなことはしないだろう。

ファイも傭兵だったなら、人をたくさん殺してきたんだろうな。

なのに初めて会った時、戦になることを反対していた。

今はフィル王国を守るために、戦の事は多少目を瞑るつもりなのかもしれないが。




……じゃあ、なんで傭兵なんかしてたんだ?

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