オレの生き様はこうだ!~友達第2部開幕~
「まずは呼吸を整えて。気持ちを落ち着かせるんです」
深呼吸をしてみた。だがこれだけで初心者のオレは落ち着くものではない。
その間も水風船が被弾している。地味に痛い。
「この状況で落ち着けねえよ」
「では、あなたが一番大事なものを心に思い浮かべてください」
大事なもの……。
先ほど思い出した、家族でショーを見に行った光景が目に浮かんだ。
その時の妹の無邪気な笑顔。
「……うん?」
ふと足元を見ると、いつの間にかサッちゃんがサファイアから出てきており、オレにしがみついて不安そうにこちらを見つめていた。
「お兄ちゃん、大丈夫?ずっとイライラしてて悲しそうな顔してる」
サッちゃんに気付かれてしまったか。
「あたしはずっとお兄ちゃんの傍にいるよ。寂しがらなくていいからね」
妹の無邪気な笑顔を守りたい。また笑ってほしい。
そう思っていたのに。この子はこんなに不安な顔をしている。
バチィッ!
両手で思いっきり自分の両頬を叩いた。
「よし!落ち着いたぜ」
鳩が豆鉄砲を食ったような顔をした女団員だったが、急に笑い出した。
「大事なものは思い浮かびましたか」
「思い浮かぶどころか、オレの目の前だ。ありがとな、ちょっと離れててくれ」
精霊が見えていると悟られないように、サッちゃんにも女団員にも向けた言葉で答えた。
「では大事なものしか心に留めていないところで、どうでもいいような周りの音、周りの動きを感じてください」
……不思議だ。
さっきまでは拳や蹴り、水風船一つ一つを意識して避けようとしたから気を取られやすかった。
どうでもいいと思ったら、なんだか一つ一つではなく全体として感じるようになった。
その全体のなかで、投げられた水風船が風を切る音、視界の端に水風船を投げようとする観客の動きが四方八方感じられた。
感覚的に、分かる。
どこから来るか、分かる。
それを頼りにして上半身を右に傾けると左頬を水風船が横切っていった。
右に傾いたから、今度は右側に水風船が飛んでくるだろう。
それも考えつつ、観客が腹辺りに投げようとしてくる感覚もあるため、左側にステップを踏む。
見事によけられたが、ちょうど足元に飛んできた水風船は避けきれず、蹴り返した。
何度かやっていくうちに感覚を掴んできた。
これが先ほど女団員がしていたものか。
慣れてくると、妙な楽しさを覚えてくる。
不安そうに見ていたサッちゃんの目が徐々に高揚して笑顔になっていくのが見えた。
『一緒に踊るか?』
声を出さず口の動きで伝えると、サッちゃんは飛び跳ねながらステージ上で踊りだした。
精霊なので水風船は当たらず、自分の好きなように体を動かしていた。かわいい。
しかし、初心者のオレがずっと体力が続く訳はなく。
途中で足が疲れ、ステップを踏んだ時にもつれて転んでしまった。
体を起こした際に、必然的に尻もちをついた体勢になる。
「おーっと!エリオット様、尻もちをついてしまった!団員の勝ちです!」
観客の歓声が最高潮に達した。
「すごかった!いいもの見せてもらった」
「ここまでやるとは、さすがエリオット様だ!」
みんな満足したらしい。
「素晴らしかったです、エリオット様」
女団員が手を差し伸べる。
「オレも何だかんだ楽しかったよ」
その手を握り返し、起き上がろうとしたが、とてつもない力で引っ張り上げられた。
この女、ただの団員か……?
「いやー、本当に良かったよ」
ステージを降りると、拍手をしながらサイラーが近づいてきた。
「お前が仕掛けたんだろうが」
「でも楽しかったろ?」
「……ああ。それは確かだ。誘ってくれてありがとう」
その返答を聞き、少し戸惑った表情でサイラーが見つめ返した。
今の時間、さっきまで悩んでいたことを忘れることができた。
こいつの事は気に食わねえが、その点は感謝だ。
「……俺さ、この間のことを反省したんだ。つい先代王妃の事を口にしちまっただろ。でもお前は気に留めた様子じゃないし、何か今までのお前とは違うって感じたんだ。別人になったとまでは言わないけどよ」
妙に勘がいい厄介なやつだ。
「剣術も素人みたいな動きだし、もしかしたら俺は子どもの頃から無理やり剣の手合わせをさせてたんじゃないかって思った。本当はお前は剣術が嫌いで、自国のために宮殿で剣術を叩き込まれ、他国の俺相手にも手合わせや交流に付き合った。友達ではなく王子として」
サイラーの表情が徐々に曇っていく。
「あの戦争の後、お前に王妃の話をするのは傷付けるだけだと思って言わないようにしてた。でもこの前言ってしまったから、流石にお前も俺との間柄なら感情をぶつけてキレると思ったんだ。でも違った。そして今の組手。先日の手合わせと段違いで武術の方が合っている動きだった。ああ、ずっと友達と思っていたのは俺だけだったのかって思い知らされたぜ」
苦笑しつつ、オレに目を合わせた。
「お前は言いたいことは伝えろって言ってただろ?それがあの手合わせだったんだろうなって。だから俺も今日はずっと正直な気持ちで接してたんだぜ。その結果が友達じゃなかったってことだけど。でも、お礼を言ってくれたから、何ていうか……嬉しかったよ」
そんな彼の目は、悲しそうに潤んでいた。
こんな顔をする奴だったのか。
純粋に友達思いの奴だったのか。
気持ちを受け取って、オレなりの言葉にして返事をしなければ。
いや、返事をしたい。
「剣術を磨いていたのは本心でやっていたと思う。ただ、今のオレには馴染まないんだ。今までのやり方では国を守っていけない。剣術を捨てるわけじゃないが、剣がなくても守れる力が欲しい。国王も死んじまったし、オレもこれからどうやっていくのか不安で手探りで、考え通りに体を動かすのが難しい時もあって。他国の王子のお前にこんなことを言うのは恥かもしれないが……。いや、お前だからこそ話せるんだ。だって友達だから」
エリオットがサイラーの事を友達と思っていたのかは知らねえ。
大事なのは今のオレの気持ちだ。
「ここからまた友達を始めようぜ。友達第2部開幕だ」
「……え?」
「さっき親友とか言ってた威勢はどこ行ったんだよ。残念ながら親友は友達第5部くらいまで終わらねえと無理だろうがな」
困惑しているサイラーに向かってオレは顔の前に手を挙げる。
「ほれ、友達の握手だ」
「友達と思ってくれるのか」
「思ってくれるなんて言い方すんな。オレが思いたいんだ。で、手を貸せよ」
「そうか……。てか握手とは何か違くね?」
「いいから同じようにして組め」
俺の手に重ねてきたサイラーの手のひらをがっちりと握りしめる。
「よろしくな、オレの友達のサイラー」
「調子いいこといいやがって。俺の友達のエリオット」
憎たらしいが、今までとは違うサイラーの笑顔がそこにあった。
「ウォマク国王にも挨拶しに行った方がいいな。今から向かってもいいか?」
「わりぃ。この時間は親父は来客対応中だ。時間あるならウチで待っとく?」
「折角ですが、この後こちらも用事がありまして。国王への不敬申し訳ありません」
突如、背後からファイが現れた。
「テメエ……よくもノコノコと」
怒りが爆発しそうだったが、サイラーとの空気が悪くなりそうなので堪えた。
えらい、えらいぞオレ。
「じゃあ、今度また国王に挨拶しに行くわ。今日はよろしく伝えといてくれ」
「ああ。今日はありがとな。また遊ぼうぜ」
遊ぶ、か。
ここ数年、友達とそんなことしてなかったな。
「オレも今度遊びに誘うわ」
ニカッと笑ったサイラーは大きく手を振って宮殿に戻っていった。
さて、ここからはブチギレていいよな。
ファイの胸倉を掴み、ステージ横の壁に押し付けた。
「お前、どこ行ってたの?馬車であんな状態のオレを知ってて?守る支えるとか言ってて?護衛の役割すら出来てねえじゃん」
「悪かった。言い訳はしない」
「お前を信用出来ねえ……」
信用出来ねえが、ここで軍師もとい宰相を手放す訳にもいかない。
黙って考えていると「お兄ちゃん」と呼ぶ声が聞こえた。
「サッちゃん、どうした」
「さっきのお姉ちゃんってお友達?」
「うーん、お友達とは違うな」
「あのお姉ちゃん、精霊と契約してるけど」




