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オレの生き様はこうだ!~旅芸に巻き込まれ~

オレとファイは馬車でウォマク国に行くことにした。

移動中、ファイにいくつかの疑問をぶちまける。

「おいおい、時間がないってのにサーカス観てていいのかよ」

「旅芸車のことか。いいよ。それくらいの時間は構わない。サイラー王子との関係も良好にしておいた方がいいしね」

「あと、当日はレイノルドも一緒でいいのか?」

「レイノルドにはレイノルドの仕事をしてもらう。同行してもらった方がいいさ」

「……お前、考えてることはオレにも話せよ。何か隠してるだろ」

「自分の家で話したじゃないか」

「じゃあ、今の話も詳細を話せよ」

「今は出来ないな。後々話す」

「後々じゃ困るんだよ!」

声を荒げたことにファイは少し驚いていた。

「今回はとにかく危険なんだ。今までとはレベルが違うだろうが。オレはここで終わりたくねえんだよ……」

気にしないよう意識していたが、ずっと頭の中から離れなかった『殺される』という事。

声と手の震えをごまかそうとして両手を組んで力強く握っていたが、俯いて全身が震えだしてしまった。

「エリーは今までこういった身の危険に晒されることはなかったよね。悪いことをした」

ファイはオレの隣に座り、肩に手を置いた。

「だが、今は詳細を話すことが出来ない。アーリェのためだけでなく、フィル王国とエリーのためでもある」

やや言いにくそうにしていたファイが、意を決して言葉を繋いだ。

「この恐怖感は忘れるな。そしてエリーはこれから攻撃魔石を活用するにあたって、恐怖を与える側にも立つことになるんだ」

その言葉を聞き、震えが強くなりどんどん血の気が引いていく。

「腹を括れ。これを乗り越えてからいつもの強気でいろ。そんなエリーを自分は全力で支えて守り通す。だから今は……受け止めてほしい。自分のことも、エリー自身の恐怖心のことも」

オレの肩に置かれた手の力が強くなっていく。こっちが痛いくらいだ。

震えで体がうまく動かせず、顔も上げられないからファイの表情は見えなかった。

だが、声は真っすぐで淀みなかった。





ウォマク国にまもなく到着、という距離まで近づくと歓声が聞こえ始めた。

早速旅芸が盛り上がっているらしい。

正直、今はそれどころのメンタルじゃないんだが。

吹っ掛けたオレも悪かったが、ファイもこの状況でよくボロボロにしてくれたよな。




馬車を国の正門で待たせ、オレとファイは久しぶりにウォマク国に入った。

「親父には話つけてるからさ、このまま観に行こうぜ」

サイラーは出迎えてきた家臣に愛馬を任せ、オレを誘導した。

「ん?なんか顔色悪いな。気分が乗らない感じ?」

「あ、いや、大丈夫だ。ちょっと馬車に揺られて酔っちまった」

怪訝そうにしながらもサイラー王子と旅芸車に向かった。



目の前に広がった光景は、先ほどの憂鬱な心を一瞬忘れさせてくれた。

派手で煌びやかな舞台。

カラフルな衣装を身に纏い、子供を喜ばせる曲芸を繰り出す動物たち。

大人も魅了するような圧巻のステージを作り上げる団員たち。


小さい頃、こういったショーを家族で観に行った記憶が蘇った。

妹と夢中でショーを観ていた。

両親も一緒にはしゃいで楽しんでいた。


「すっげえー!やっぱ何度観ても面白いわ」

サイラーの声で一気に現実に引き戻される。

「な!誘った甲斐があったってもんだぜ。お前見入ってんじゃん」

「ああ。他の客も楽しそうだ」

「もっと近くで観に行こうぜ」

オレの手首を掴み、サイラーはずんずんとステージ前方に割り込んでいく。

「お、おい!他の客に迷惑かかんだろうが!」

「俺は王子なんですけどー?お前だって普段からこんぐらいの事してんだろ」

確かに。それは反論できない。

だが、今はメンタルの調子が悪い。

後ろを振り向くとファイが引き離されていく。

あいつ、オレの事を守るとか言いながら全然ついてこねえ。

結局、口先だけかよ。さっきの事も全部。


ステージ最前列の客席まで来てしまった。

ちょうど今からは男女の団員同士で組手のようなものが始まった。

互いに小さい林檎をハチマキで額に固定し、手足のみを使って相手の林檎だけを狙って割る。

その間に他の団員が小道具を使って妨害し、相手の攻撃に加えてそれも避けながら続けなければならない。

崩した武術に曲芸を混ぜて見世物として作ったってところか。


どちらの団員もキレのある動きで攻防を繰り返していたが、女の団員が先に男の額の林檎を突き上げた拳で割った。

大きな歓声が沸き、耳鳴りがするほどの拍手も起こった。

女の方は余裕の表情で客に手を振っているが、男の方は陰に隠れていった。

オレの立っている位置からちょうど見えたが、男はかなり息を切らし、座り込んでいる。

目で見るだけでは伝わらないほど、女の方が上手かったのか。





「さあさあ、皆様のなかに腕自慢はいませんか!是非この子と手合わせを!この子に勝てたら見物料はタダだよ!」

そんな中、別の団員が大きな声で観客に問いかけた。

「はーい。エリオットくんが参加したいみたいでーす」

サイラーがオレの手首をまた掴み、その手を挙げた。

「は!?なにすん……」

「親友のためにやってくれよー」

オレは背中を半ば強引に押され、バランスを崩した勢いでステージ前に出てきてしまった。

勝手に友達からランクアップしてんじゃねえよ。

「これはこれは!サイラー王子とフィル王国のエリオット王子ではありませんか!なんとエリオット様の挑戦だ!」

またしても観客の声が沸いている。

「おい、オレはするなんて……」

「エリオット様。お手柔らかにお願いします」

先ほどの女の団員が一礼した。

口元を布で隠しており表情は分からないが、小柄でタイトな服を着ており、服の上からでも全身鍛えられた筋肉がついていることは分かる。髪もショートカットのため動きやすいスタイルを重視しているようだ。

「さあ、ここで特別ルールです!王子様とはいえ初めての参加。今回林檎を持つのは団員のみ。エリオット様は林檎を割られて負けることはありません。しかし!尻もちをついたら負け。つまりエリオット様が座り込んで我らの芸に見惚れてしまう、という状況に出来れば団員の勝ちとします!」


なんか、もう引き返せなくなってきた。

渋々、オレはステージに上がった。

今はいろいろ悩んでる暇がねえ。

目の前のことを何とかしねえと。

女団員が拳を構えた後、オレも拳を構えた。


「では……始め!」

女団員が素早くオレの懐に入る。

なんて速さだ。これがプロか。

両手で顔をガードしつつ後ろに2、3歩下がる。

「おおっと!今までのお客さんなら驚いてここで尻もちをついていたが、さすがはエリオット様だ!」

観客も続いて雄たけびのような歓声を上げる。

それも束の間、女団員はまたも素早くオレの後ろに回り込み、振り向いたオレの眼前に片足を挙げて蹴りを入れる。

これまた普通なら怯んでバランスを崩して尻もちをつきそうだが、何とか体勢を整え踏みとどまる。

女団員は片足だけで立っている状態だ。反撃するなら今だ。

額の林檎目掛けてオレは拳を突き出す。


もちろん、かわされた。

とんでもなく体が柔軟だった。

「エリオット様、何だか固いですね」

「そりゃあ、初めてだからな」

「いえ、それだけでなく表情が固いです」

「……そりゃあ、いろいろあんだよ」

「あたしとしては、観客を笑顔にさせるだけでなく、演者も笑顔にさせなければいけないので。エリオット様にも笑顔になっていただきましょう」

女団員は構えていた拳を降ろした。

な、なんだ。

なんかよく分からんが隙だらけだ。

今だ、と彼女の額の林檎に再度拳を振り下ろす。

すると彼女は踊るかのように滑らかにそれを避けた。

避けた後もステップを踏みながら軽やかな動きを続けている。

「さあ、エリオット様もご一緒に」

「いやいや、海外のファンタジーアニメーションじゃねえんだから、そんな展開無理だろ」

お構いなしに彼女の林檎を割ろうと距離を詰めるが、ひらりとかわされる。

何度やっても、かわされる。

彼女も手足を伸ばして踊るようにパンチや蹴りを繰り出してくるため、よけるオレも不格好に踊るような動きになってしまう。

「エリオット様も踊りだした!頑張ってくださーい!」

勘違いした観客が声援を送りだした。

クソ、これじゃ踊らされてて惨めじゃねえか。



それにしても、どんな攻撃も軽々とかわされる。

そして女団員はそれを自在に繰り出して、相手の動かし方を分かっている。

劇団のプロとはいえ、これほど上手いものなのか。



「盛り上がってきたところで、ここで水風船の乱入だー!」

他の団員たちが手のひらサイズの水風船をオレたちに向かって投げ始めた。

「お客さんも二人が避けた水風船に当たって濡れたくなけりゃ、掴んで二人に投げ返しちゃってください!」

「面白れえな!王子様といえど、ここは無礼講でやらせてもらうぜ!」

熱気に飲まれた観客たちが団員の言うままに水風船を投げ返してくる。


マジか。

団員だけでなく観客側からも飛んでくるのか。

これは流石に避けきれない。

案の定、オレは何発か被弾し服が濡れた。

「この野郎……」

「エリオット様、このようにすれば良いんですよ。あたしの真似をしてみてください」

女団員は軽く息を吐いた後、急に空気がピリッと張り詰めた感じがした。

先ほどのステップの脚捌きで避けつつ、避けきれない水風船は腕や手の甲で弾き返した。

どちらかというと、避けきれないというよりオレに見せるために避けなかったという方が正しい動き方だった。

「さ、やってみてください」

そう言われて出来るものか。

率直にそう思ったが、既に服は濡れている。観客も盛り上がって冷静さを欠いている。

不格好でも、今更何やっても誰も気に留めないか。

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