オレの生き様はこうだ!~野蛮国家クライル~
クライル国の事は以前ファイの競馬の件で知っていたが、女王だったのか。
しかもファイの友人。
「女王が友人って、お前元から結構地位が高い人間だったのか」
「そんなことはない。クライル国のことはまだ調べてないのか?」
「だってフィル王国とそんなに重要な関係性って感じじゃなかったし」
やれやれ、とファイは肩をすくめた。
「今回は急な要件だから説明するけど、後で調べなおしてよ」
「了解了解。で、さっさと言いやがれ」
「あそこは特殊でね、国王は世襲制でなく実力奪取制だよ。誰でも実力があれば国王になれる。この実力というのは戦闘における意味ね」
すっげえ野蛮な国家だな。
「国王は戦闘に長けている。その国王にいつでも誰でも挑むことができ、国王はそれを拒否出来ない。勝てば国王になってその政権を奪うことができる。そういうところから実力奪取制と呼ばれているんだ」
「戦闘って言っても、剣とか魔法とか戦うスタイルがバラバラなんじゃねえの?どちらかが不利になりそうだけど」
「そこで拳だけで戦うことに絞ったのさ。それが徐々に広義になって今では武術で勝負するという形になった。アーリェは武術が得意で当時の男性国王に勝ってしまったという訳」
「男の力に勝つって相当な女だな……その友人は」
「それはもう世界的にも強烈だった。アーリェに憧れて志願する女性兵士が多くて近衛兵は女性ばかりになったって話だ」
なるほど、クライルのことは大まかには理解した。
「そんな国家から、自分に個人的に依頼が入った」
「……つまり、戦闘能力は高いが経済的圧迫には打つ手を持ち合わせてないってところか。それを公にする訳にもいかず、お前に相談をした」
「よく出来ました。ご褒美に今度バールのようなものを自宅前に準備しておきましょう」
だが、ちょっと引っかかるところがある。
「何で今頃になってクライルを狙うんだ?アーリェの代を狙ったとしても即位したのはここ最近の話ってことねえだろ?」
「お、気づいた?タイミングがとっても良いんだよねぇ」
嫌味ったらしい言い方をしながらファイは続けた。
「アーリェが即位してからは手紙のやり取りだけで、会っていないんだ。手紙も送り主が分からないようにしているし、中身も見られたとしてもアーリェしか読めないように細工していた」
「サース国王がアーロンに送った手紙みたいに魔力を込める方法か」
「いや、透明なインクを使って書き、火に近づけると字が浮かび上がる細工」
「何だよ、あぶり出しかよ。急に庶民感出しやがって」
「随分前にそのあぶり出しに誰かが気付いたようで、自分のアーリェの交友関係がそこで漏れた。アーリェから誰かに気付かれたと返信に書かれていたが、内容自体は二人にしか分からない暗号めいた文章だったから、このまま続けて様子を見ていたんだ。何も起こらなかったんだけど、今回こういった事が起こった」
「お前との関係は黙認していたが、宰相になった事でそうもいかなくなった、と」
「黙認というか切り札にしていたんだろうね。まるでこの展開を予測していたかのように」
含みのあるように呟き、ファイは俯いた。
「はい、じゃあ要約するとどうなるでしょうか?」
唐突にファイはオレに投げかけた。
「あ!?えーと……ようするに、お前がフィル王国の宰相になったもんだから、お前の友人が治めているクライル国を潰して、お前を追い詰めてフィル王国が成り立たないように国自体も衰退させる。且つフィル王国とクライル国が協力関係を持てないようにするってことか」
「うわあー、大正解!どうしちゃったのエリー?頭冴え過ぎて一発殴った方が良い?」
「王子に向かってよくそんな暴言言えるよな。ちゃんとご褒美にバールのようなもの2本準備しとけよ。お前の方が頭冴え過ぎてるからよ」
状況は理解できた。
アーリェが追い込まれて気持ちに焦りがあるのも、まあ分かる。
でも、一国の王子であるオレがとんでもない危険を冒してまで口を挟むことではない。
「事情は分かるよ。でもオレは加勢することは出来ない。お前ならその理由をオレ以上に分かってるだろ?それに戦を避けてたお前が友人のためにフィル王国を捨てるような真似をするのか」
「何言ってるんだ。この先サース王国と戦うつもりなんだから遅かれ早かれ戦は避けられない。それに今回は戦闘になっても殺す必要はないんだ。むしろ殺すと厄介なことになる」
「なんでだ?相手はクライルを制圧するつもりなんだろ」
「今の時点では相手の目的は競馬場を押さえることだ。計画の詳細はアーリェと話していくが、砂糖の援助をしているサース王国の資産家の身柄を確保する。その際に資産家の護衛数名と戦闘になる可能性はあるが、この護衛も生かしておく。あくまでこちらの目的はクライルに経済干渉をするな、ということだからね。今回捕らえることがメインで、この計画は極力短時間で終わらせる」
国民には知らせず隠密に済ませる計画か。
もしオレの身元がバレたとしても、そいつらを確保すれば広がることはない。
アーリェにはオレの事を話すだろうが、近衛兵には変装した状態のオレをただの友人として参加すると彼女から説明すれば納得は得られるかもしれない。
ただ、一番の不安要素、いや恐怖要素が拭えなかった。
「オレ、戦闘未経験なんだけど……」
戦いとなれば、命を意識しない者はいない。
サイラー王子とは、剣を使用したとはいえ手合わせだったから、オレとしては喧嘩みたいなものと捉えていた。
だが今回は違う。こちらは殺さなくても相手はオレを殺すつもりでかかってくる。
みっともないが、想像するだけで全身が震えそうになる。
それをそのままこいつに伝えるのは、妙なプライドが邪魔をする。
「そうだね。素人丸出しで臨めば、真っ先にエリーが殺されるだろうね。流石にそこは自分がエリーを守るよ。でも戦闘って予期せぬ事も起こり得るからエリー自身にも戦う力をつけてもらいたいんだよね。ということでアーリェにエリーの武術担当の先生を依頼しました!」
ご安心を!とファイがウインクしてみせる。流れ的にオレの心情汲んでなくてキモ。
「そんでもって、今回自分が景品の砂糖を総取りしちゃったから『馬券を当てたのはファイローネ』って資産家の耳に入るのは時間の問題なんだ。いろんなタイミング的にヤバいよね。あとフィル王国に砂糖持ち込んじゃった。宮殿で没収していいから許して」
テヘッと自分の頭を小突きながら、またしてもウインクしている。状況的にキモ。
「さ!エリー、考えている時間はない。早速行動だ!」
クライル国で他言無用の短時間潜入バトルミッション。
一国の王子のオレが、自国を離れて。
無理ゲー過ぎないか?
まず第一、家臣たちになんと説明するのか。
「記憶を無くしてるエリーに社会見学をさせようと思って、今度クライルに行ってくる。ただ王子として他国に行くとちょっと騒ぎになると思うから変装しようと思うんだ」
ペラペラとファイはマスオたちに説明した。
「クライルって競馬場があるとこじゃないですか。なんかファイローネ様の趣味丸出しの社会見学になりそう……。アホ王子に賭け事覚えさせないでくださいね。余裕で国を滅ぼしますから」
「クライルといえば、最近競馬が特に盛んになっていると聞きましたね。やたら熱狂的な客もいるとか」
レイノルドが神妙な面持ちで呟く。
こいつは外交官として他国を行き来しているからな。情報が入っているんだろう。
「私も護衛として同行いたしましょう」
「心強いよ。よろしく頼む」
すんなりとファイは申し出を受け入れた。
え?レイノルドに潜入ミッションがバレる可能性があるんじゃねえか?
でもこいつの事だ、何か打つ手があるに違いない。
今は様子をみることにした。
第二、女装について。
これは何となく予想できた。
オレやファイに化粧などの知識もなく、女の服装にも詳しくない。
必然的に女性に助けを求めるしかない。
「ここはリルトゥに頼むしかないね。肌もモチモチになるし」
「女装なんて、ぜっっったいにエリオット様は似合いますわ!お任せください!」
目をキラキラさせながらリルトゥがオレを見つめる。
女装も嫌だが、美人に見つめられるのもドキドキして嫌だわ。
第三、アーリェとの接触について。
ぶっつけ本番でアーリェと会うのは避けたい。
計画を練るのは直接話していった方が良いし、オレは彼女に武術を教わらないといけないからだ。
時間が足りない。
だがファイが今回の景品を総取りしたことも資産家に既にバレてる可能性もある。
相手も手を打つ計画を練る時間が出来てしまう。
「エリオット様!お客様がお見えです」
メイドの一人が息を切らして呼びに来た。
「今日は来客の予定はなかっただろ?どなただ?」
手元の手帳を見ながらマスオが尋ねる。
「そ、それが、ウォマク国のサイラー王子です。客間に案内したのですが『外で良い』と正門でお待ちです」
「あー……あいつの存在忘れてたわ」
こんなタイミングで。
オレは目に手をあて天井を仰いだ。
身なりを整えてオレは正門に向かった。
そこには、見覚えのあるチャラい男と乗ってきたであろう馬が存在感を放っている。
「お、久しぶりじゃん。この前は手合わせどーも」
相変わらず襟元を開けて日焼けした肌を露出している。
馬はパーマでも当てたようにたてがみをオシャレに巻いている。馬までチャラい。
「出たな、ナイトプール野郎」
「ん?ないとぷーる?何だよそれ」
「こちらこそ、この前は失礼しましたー。で、今日は何の用だ?」
「仲直りしたいと思ってさー。今ウチの国に旅芸車が来てんだよ」
「りょげいぐるま?」
「フィル王国までは遠くてわざわざ来ないから、まあ忘れても仕方ないか。曲芸を専門とした団員たちが大きな馬車で各地を回って芸を披露してんだよ。それ一緒に今から観に行こうぜ」
移動式サーカスみたいなもんか。
こいつなりに先日の件の詫びも兼ねているんだろうな。
サーカスは面白そうだし気持ちを汲んではやりたいが、今は時間がない。
「折角なんだけど……」
「自分も一緒に連れて行っていただきたいな」
背後からファイがオレの言葉を遮った。
「あー、この前の宰相じゃん。また護衛すんの?」
「ええ。たとえエリオット王子と親睦のあるサイラー王子といえど、他国に向かうのですから護衛は必要かと。あとエリオット王子が粗相の数々をしてしまう可能性も否定出来ないので、その始末も必要かと」
粗相の件は要らねえだろうが。
ファイを睨みつけながらもオレは堪えた。
「今からでしたら丁度良い。時間が空いていましたから」
「よーし。じゃあ俺の後に続けよ」




