ワタシの生き様とは~クソガキと邂逅~
レイスーマ小国、というのは便宜上の名前なのかもしれない。
国というより、街そのものだった。
家と工房が一緒になっており、各々そこで武器を作っている。
食べ物や生活用品を売っている店はなく、宿すらない。
独特な雰囲気にクレアは不安な表情が隠しきれずにいる。
そんな彼女の胸元には、過去にエリオットが贈った防御魔石のブローチが飾られていた。
それを見たエリオットは少し顔が綻ぶも、妹を守るために身を引き締めた。
サファイア家の武器を依頼する工房はいつも同じだった。
アーロンやエリオットは剣に防御魔石を装備するため、装備用の加工がされている特殊な剣が必要だった。
工房のドアをノックすると50代程の男の職人が表に出てきた。
「……サファイア家のぼっちゃんかな。目の色で分かる」
「第一王子のエリオット・サファイアと申します。この度は突然の訪問、失礼いたします。ワタシの剣が少し欠けてきてしまって、修繕を依頼したいのですが」
「どうぞ、入んな。ちょっと見せてくれ」
先程の職人、工房の主であるマーカスはエリオットの剣をじっくり見ていた。
考えるように彼は顎に手を置くと、無精髭に指先が当たって痛そうにしている。
「こりゃあ、下手な扱い方をしたな」
剣が欠けた原因は自分ではないことを訂正したかったが、エリオットは堪えた。
原因は燕太とサイラー王子の手合わせにある。
剣の扱いに慣れていなかった燕太が、サイラーの剣をうまく受けきれてなかったからだ。
「まあ、この程度ならそんなに修理に時間はかからねえよ。夕方までにはとっくに終わってるから、その頃にまた来てくれ。時間に余裕があるなら、トウリョウにも挨拶していきな」
「トウリョウ?」
「この街の長だよ。最近来たやつが呼び始めてさ。長もその呼び名が気に入って、それで呼べだと」
トウリョウとは、棟梁のことだろうか。
日本にいたことでエリオットは見当がついた。
「分かりました。挨拶しに伺います。また後程こちらにもお伺いいたします」
「ああ、待ちな。これは一旦外しておく。修繕の時に邪魔だからな」
マーカスは剣に装備されていた防御魔石を外し、エリオットに放り投げた。
両手で受け取ると、エリオットは妙な違和感を覚えた。
自分で魔力を込めたサファイアなのに、何かが違う感覚がある。
何かが存在しているかのような、生きているかのような……。
不思議に思いながらも、その防御魔石を懐にしまった。
剣を預けているため、エリオットは宮殿の訓練場から代わりの剣を持ってきていた。
万一の襲撃には備えておかないといけない。
トウリョウの工房に向かうまでの間に、他の工房も簡単に見回ったが、銃を作っている様子はなかった。
ここに作り手はいないのだろうか。
トウリョウの工房は他の工房と比べて何倍も大きかった。
中を訪ねようとドアに近づくと、体格の良い大男がドアを開けて現れた。
「クソガキ見なかったか?」
「え?」
「あいつ野草取ってくるっつって帰ってこねえんだよ……って、あんた誰だ?」
「フィル王国サファイア家第一王子のエリオット・サファイアと申します。この度は剣の修繕で街を訪問し、トウリョウにもご挨拶をさせていただきたく」
「俺がトウリョウだ。わざわざ挨拶なんざ要らねえよ。そんな暇あるならクソガキ探してきてくれねえか」
失礼極まりないな、と感じながらもエリオットは笑顔で対応した。
「どのような特徴のクソガキでしょうか」
「エリオット様、口調が戻ってきていますよ」
レイノルドが耳打ちし、エリオットが咳払いする。
「見るからにクソガキだよ。すぐに分かる。ウチの裏山に行ってるはずだから呼んできてくれ」
バタンと大きな音を立ててトウリョウはドアを閉めた。
「なんて失礼な長だ。他国の王家に対する態度とは思えない」
ブツブツと文句を言いながらエリオットたちは山の中に入った。
「クレア、足元に気を付けるんだ。人が入れる程度の道が作られているとはいえ、草と泥土で滑りやすい」
「分かってるわよ」
しかし、その足取りはおぼつかない。
「クレア様、私の魔法でしっかりとした道を作ります」
ルーシーが詠唱しようと両手を地面にかざした。
「待つんだ。あくまで他国の土地だ。ましてやあの横暴そうな長に因縁をつけられると面倒になる。ルーシーはクレアが安全に歩けるように支えておいてくれ」
「す、すみません……」
エリオットに注意され、落ち込んだようにルーシーは俯く。
ここの山は危険だ。
実際に入ってみてよく分かった。
草木が多いので身を隠すのに適している。
足元も滑りやすいので、不意をつけば転倒させて戦況を有利に出来る。
レイノルドが先頭で進み、エリオットが一番後ろで守るような配置で移動を続ける。
不意に草木のざわめきが強くなった。
「誰だ!」
レイノルドが剣を構える。
エリオットも剣を抜き、周囲を見回す。
「標的4名。男2名女2名。武器は剣のみ。こちらが優位です。どうぞ」
「オーケー。狙撃を許可する。ただし生け捕りにしろ。どうぞ」
「ラジャー。では実行します」
草木に隠れていた姿を見せ、銃を構えた少年が現れる。
迷彩柄の服を纏い、頭には草を編んで作ったヘルメットのような被り物をしている。
「ズガガガガガガッ!」
「くっ!当たらねえ。なかなかしぶといぜ。油断しちまった」
「お前、右腕が……」
「貴公、一人で何をしている」
エリオットは少年の顔に剣を向けた。
「クソォッ!ここまで来たってのに。この戦いが終わったらあいつと結婚しようって……」
「まだだ!まだ俺たちは死んじゃいねえ!その右手で彼女に指輪をはめてやるんだろうが!」
エリオットは剣で銃を弾き飛ばした。
「その様子だと実弾は入ってないな。で、貴公がクソガキで間違いないな」
「クソガキじゃねえ。俺はカスミスさんって世に名を轟かせたアカ名があるんだよ」
「カス、ミス……?何だそのミソッカスみたいな名前は」
「キイィー!!カスミスとはカスタミストの略だ。改造カスタムの名手ってことさ」
「カスタム、つまりcustomを人として表すなら、customerと綴るためカスタマーというべきではないのか」
「ムッキャー!!何だこの異世界の人間の癖に、俺の世界のこと分かってる風なインテリ野郎は!」
やれやれ、とエリオットは首を振った。
「もう十分だ。貴公が銃を作り上げた、日本から来た者だな」




