ワタシの生き様とは~齟齬と不信~
ファイローネは耳を疑った。
「いや、団長はいるぞ。俺は初めて直接見たが、隊長が団長と呼んで従っていたし、治安部隊の組織に団長は元々存在する」
「治安部隊のトップは隊長だ。女性のネイミリカ隊長が組織の一番上だ。団長なんてもの昔からなかったはず」
ファイローネは怪訝そうにエリオットを見ている。
嘘をついている様子はない。
この態度は本当なのだろう。
エリオットは察した。
しかし団長なんて聞いたことがない。
この反応を見る限り、当然のように治安部隊に団長が元から存在しているようだ。
何かがおかしい。
「どうにも、妙なことが起こっているのかもな」
考え込んでいるエリオットを見てファイローネが顎に手を当てた。
「だが団長と呼ばれる奴が存在しているのは確かだ。奴は得体が知れず、隙もない。十分に気を付けた方がいい」
「貴様に言われるのは癪だが、今は心に留めておく」
エリオットは席を立った。
「ひとまず計画は把握した。あとは出発の準備に取り掛かる」
「エリオット。一つ聞きたいんだが……サッちゃんは知っているか」
「サッちゃん?いや、知らないが。誰だそれは」
「エリーが口にしていたことがあったから、何か知っているかと思ってな」
ファイローネは何気ない顔で答えた。
「……そうか」
どこか引っ掛かりながらも、エリオットはその場を後にした。
ファイローネは安堵していた。
エリオットにサファイアの精霊は見えていない。
他者からも精霊が見えていると思われないため、捕らえられる心配はない。
「……気苦労が絶えないな」
ファイローネはレイノルドとクレアにも計画について詳しく説明し、出発の準備が整った。
宮殿の正門前で馬車の用意も済ませている。
レイスーマへは1時間ほどで到着する。
「あの、ファイローネ様。今回は急なお願いを聞いていただきありがとうございます」
ルーシーが頭を下げた。
出発の準備をしている際、彼女からファイローネにレイスーマへの同行希望があった。
クレアの世話人だから、その気持ちは分からなくもない。
ただ彼女が護衛としてどこまで出来るかは不明だった。
土魔法が使えるとはいえ、実戦経験はないだろう。下手をすれば足手まといになる。
エリオットにも説明すると「ワタシとレイノルドがいるから同行者が一人増えても問題ない」との返事だった。
その経験不足の考えが命取りになる。
エリオット自身も戦場での経験はない。
しかしこれ以上、エリオットと衝突をすれば計画が滞ってしまう。
ファイローネはルーシーの希望を了承した。
一つ条件を課して。
エリオットたちは馬車に乗り込み、出発した。
「マスキッシュは行きたくないの?」
ファイローネは共に見送っている彼に声をかけた。
「私は戦えないので護衛になれません。でも皆様が不在の間この宮殿を守って、皆様が帰ってこられた時に温かく出迎えることは誰にも負けませんから。私の誇りは留守を任されることですよ」
では今からまた忙しいので、と笑いながらマスキッシュは宮殿内に戻った。
マスキッシュを見送り、馬車も見えなくなってから、ファイローネは馬を用意して気づかれないように後を追いかける。
必ず計画を成功させて、全員が無事にフィル王国へ帰還できるようにしなければ。
馬車に揺られるのは久しぶりだな。
エリオットは日本での生活に慣れていたため、懐かしさを感じた。
クレアは馬車での外出自体久しいため、目を輝かせて外の景色を見ている。
あの軍師の末裔は信用してもいいのだろうか。
燕太はもちろん、周囲の者たちも彼を信用している。
エリオットはこの世界にしばらく居なかったのだから、現状として彼を信用するしかない。
だが過去の出来事はなかったことに出来ない。
あの冷酷な目。
昨日のことのように思い出される。
彼は6年前にフィル王国を去っていた。
自宅も廃墟のようになっていた。
エリオットが燕太と入れ替わる前も、彼はいなかった。
「レイノルド、ファイローネはいつフィル王国に戻っていたんだ」
「半年前くらいでしょうか、エリオット様もご存じでしょう」
「はっきり覚えていない。半年前はまだいなかったはずだ」
「いえ、その頃にはおられたと思います。アーロン様が崩御される前には、戻られているとの話を耳にしておりました」
そんなはずはない。
何も自分は聞いていない。
「……話は変わるが、レイノルドは治安部隊に団長がいることは知っているか」
「ええ。治安部隊をまとめている方ですな。サース王国にはアーロン様に付いて何度も足を運んでおりますが、まだお会いしたことがなく、お名前も存じ上げませんけれども」
彼も嘘を言っているようではない。
彼らの中で事実なのだ。
半年前から、入れ替わりが起こってから、この世界の何かが変わっている。
人の記憶に作用する何かが生じている。
ただ、ファイローネも半年前にフィル王国に戻ってきたなら、やはり何か関わりがあるのではないか。
奴とは今回手を組んでいるが、全て信用する訳にはいかない。
ひとまず、今は銃についての計画を実行する。
ただしファイローネに対する警戒は怠らない。
自分の記憶と違うことがあれば覚えておき、後日調べ上げる。
それが入れ替わりにも何か関係があるはずだ。
レイスーマに到着すると正門前に門番が立っていた。
門番にしては軽装で、作業着のような恰好で服も汚れている。
職人が門番も兼ねてやっているようだ。
「何の用だ」
「ワタシはフィル王国サファイア家第一王子のエリオット・サファイアだ。剣の修繕を依頼しに来た」
銃の作り手が敵である可能性もあるし、レイスーマで銃という武器が知られていない可能性もある。
ここは建前上で剣の修繕と伝えた方が良い。
「あんたがフィル王国の者だという証拠は?」
エリオットは王妃のペンダントを見せた。
「……ああ、確かにこれは本物だな。国王がいつも持っていたが、今はあんたが持ってるのか。どうぞ、モノヅクリの街へ」
門番に案内され、エリオットたちは国内に入った。




