オレの生き様はこうだ!~王妃のペンダント~
「マスオ、ちょっと面貸せ」
宮殿内の清掃で走り回っていた彼に声をかけた。
「いや、今忙しいんですけど。見て分かりませんか」
「じゃあ、終わったら面貸せ」
「怖すぎる。絶対に掃除を終わらせてたまるものか」
「あの、何かお手伝いであれば、私がマスキッシュの分をやっておきましょうか」
ルーシーがおずおずと手を挙げた。
「お前は今なら手が空いてんの?」
「ええ。一段落ついたところです」
「ならルーシーでいいや。ちょっと来い」
彼女の腕を掴み、ずるずると国王の間に引っ張った。
「頑張れ、ルーシー」とマスオが陽気に手を振っていた。さっさと仕事しとけ。
国王の間はきれいにされていた。
それもそうだ。アーロンが死んで誰も使ってない。
とはいえレイノルドが時々掃除をしているらしい。埃一つ落ちていない。
「お前は王妃のペンダントって見たことある?」
「ケイナ様ですか。身に着けているお姿は見たことありますが、もう何年も前のことなのでどんなものだったか正確には……。保管されているならばアーロン様がお持ちだったでしょうね」
「やっぱそう思うよな。ちょっと用事で必要でさ。一緒に探してくれ。悪用はしねえから安心しろ」
ルーシーはクスッと笑った。
「なんだよ、おかしいかよ」
「い、いえ、すみません。王子様なのに悪用するとか、そういう事を仰るのがちょっとおかしくて」
「はいはい、そうかよ。いいから手ぇ動かせ」
分かりました、と慌てながらルーシーはキャビネットを開いて見回った。
こいつ、よく笑うようになったな。
前はオレに対してビビってることが多かったけど、慣れてきたんだろう。
オレとしても話しやすい関係の方がやりやすいし、まあいいか。
「あ!ありました。これではないでしょうか」
ルーシーが両手にペンダントを乗せて、オレの近くまで持ってくる。
間違いなくサファイアのペンダントだ。
しかし随分とチェーンの部分が汚れている。
土がついたままのようだ。
「結構汚れてるな」
オレも手に取ってペンダントを見てみる。
その姿をルーシーはじっと見ていた。
「な、なんだよ」
「あ、すみません。ケイナ様がつけていらっしゃったのを思い出して。エリオット様とは親子ですから」
「ケイナとオレは顔が似てたのか」
「え?ご自分では、そう思われてなかったのですか。やはり似ておられますよ」
「そうなのか。でもこういうサファイアのペンダントはオレみたいな男じゃなくてお前の方が似合うよ」
ルーシーの首元にペンダントを近づけて、つけている姿を想像する。
「チェーンは汚れてるけど、ほら、やっぱりお前の方が……」
ルーシーの顔を覗き込むと、顔を真っ赤にしている。
「え、どうした」
「あ、あ、あの、あのの、失礼します!」
ものすごい速さでルーシーは国王の間から出て行った。
なんで?なんでなん?
程なくしてマスオが軽蔑したような目で国王の間のドアを開けて覗き込んできた。
「ルーシーに手を出したんですか」
「変な言い方すんなよ。何もしてねえよ」
「様子がおかしかったですよ」
「別に、ちょっと王妃のペンダントが見たくて一緒に探してもらってたんだ。見つけた時に女の方が似合うってルーシーの首元に近づけたんだよ。そしたら逃げられた」
「はっ……破廉恥ッ!女たらしッ!その気がない癖に!」
「意味わかんねえ」
「王妃のペンダントですよ!あれはアーロン様がケイナ様と婚約された時に贈ったものです。それをエリオット様がルーシーにつけようとしたって事は……」
あ、やべえ。
「ま、待ってくれ。そんなつもりじゃない」
「この顔面から腹の底まで無自覚たらし美少年が。自分で誤解を解いてくださいね。私は口外しないんでご安心を」
マスオはドアを音を立てて閉めた。
恥ずかしい。
顔から火が出るとはこのことだ。
「ルーシー!どこだ!」
慌てて宮殿内を探すが見当たらない。
早いところ誤解を解かねば。
探し回って、ようやく庭園にいる後ろ姿を見つけた。
「やっと見つけた……」
息を切らしながらルーシーに近づき、肩に手を置いた。
振り向いたその顔は、相変わらず真っ赤だった。
「すまん、その、さっきのは誤解だ」
「そ、そうですよね。グレイス王女がいらっしゃるし、きっと特に意味はなかったんだと、そう思ってます」
両手を横に振りながら、ルーシーは答えた。
「オレもよく分からんまま、あんなことして悪かった。ただ純粋にオレよりお前の方が似合うなって思っただけだよ」
「……に、似合いますか」
「ん?ああ、似合うさ。あの時は、ただそれだけ言いたかったんだ」
「……やっぱりエリオット様はずるいですね」
そう呟いてオレを見上げるルーシーの頬を赤らめる顔が、何故か忘れられなかった。
書斎に戻り、ファイに王妃のペンダントが見つかったと説明した。
「それは良かったね。エリーが持っていてくれ」
「分かった。それにしても土まみれで汚ねえんだよな。何でアーロンは綺麗にしなかったんだろう」
「さあね。そのまま保管したかったんじゃない」
「理解できねえわ。別にいいけど。とりあえず、これでレイスーマに行く方法は見つかったな。後はあの銃をレイスーマに持っていって、作り手がいるか確認するって感じか」
「細かいことは明日また考えよう。今日はちょっと疲れたよ」
そりゃそうか。こいつフィル王国に帰ってきてから、ずっとここにいるもんな。
「そうだな。今日はゆっくり休めよ。お前にもレイスーマについてきてもらうし、体力戻しておかないとな」
「エリーが優しいなんて珍しい。明日は大嵐かな」
「うるせえ。頼りにしてるぜ、相棒」
ファイの肩を叩き、奴は呆れたように少し笑って退室した。
その夜、自室のベッドに腰かけながら、オレは王妃のペンダントを手からぶら下げて眺めていた。
ケイナ、か。
6年前に何をしでかした人かは話に聞いたが、その人柄はよく把握していない。
どんな人だったんだろう。
どんな母親だったんだろう。
今更知ったところで、どうしようもないが。
母さん、少しは落ち着いたかな。
父さんは、どうせ家に帰ってないか。
円華も、体調に変わりないかな。
エリオットは、今何をしているかな。
いかん、妙にセンチメンタルになってしまった。
明日はレイスーマ出発に向けてファイと計画を煮詰めなければ。
オレも今日はしっかり休んで、明日に備えよう。
王妃のペンダントをベッド近くのサイドテーブルに置き、オレは床に就いた。
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ふと、目が覚めた。
アラームが鳴る前に起きてしまったのだろうか。
枕元のスマホを探すが見つからない。
電気をつけるか。
体を起こした時、違和感に気づいた。
このベッドは、エリオットのものだ。
辺りを見回そうとしても暗くて見えない。
電気も、もちろん存在しない。
カーテンを開けると、まだ薄暗いが部屋の中は確認出来る明るさだ。
確信した。
エリオットとして元の世界に戻っている。
どういうことだ。
当然、彼は混乱していた。
何故このタイミングで。
何がきっかけで。
改めて部屋の中を確認すると王妃のペンダントがサイドテーブルに置かれていた。
何故これがここにある。
忌まわしい、このペンダントが。
目に入れるのも嫌がった彼は、そのまま放っておいて着替えを済ませ、執事やメイドたちに今の状況を確認するために部屋を出た。
「ええ?おはようございます、エリオット様。今日は随分と早起きですね。いつもマスキッシュが起こしに行くのに」
執事たちは口を揃えて同じことを話している。
燕太の性格を考えれば、その反応は正しいだろうな、と感じていた。
「マスキッシュはどこだろうか」
「この時間なら、まだ余裕があるって言って先に我々の朝食の用意をしていますよ。執事長だから我々に任せておけばいいのに。彼の性分なんでしょうね」
マスキッシュがそんなことを?執事長はレイノルドのはず。
いつもならエリオットが起きたらすぐに部屋まで出迎えて、今日の予定を伝えながら朝食の案内をするのに。
一体、今フィル王国はどうなっているんだ。
エリオットは足早に執事たちの食堂へ向かった。
食堂に行くとマスキッシュがバタバタと食事の用意をしていた。
「あれ?エリオット様おはようございます。どうしたんですか早起きして。お腹痛くなったんですか」
エリオットが知る彼の態度とはかけ離れていたため、あまりの衝撃で開いた口が塞がらなかった。
王子に向かってこんな失礼な態度を取ったことなど、一度もなかったのに。
燕太はなめられていたのか。
いや、落ち着け。
エリオットと呼んでいる以上、燕太は周囲に自分の存在を伝えていなかったのだろう。
ここで叱責したら周囲を混乱させる。
エリオットは呼吸を整えた。
「おはようマスキッシュ。何だか早く目が覚めてね。でも寝ぼけているのかな。すまないが、今日の日付は何だっただろうか」
「慣れないことするからですよ。今日は3月6日ですよ」
ということは、およそ半年以上経過している。
これは日本で過ごした時間と一緒だ。
時の流れは一緒ということか。
マスキッシュとの会話の間で瞬時に理解した。
「そうか、ありがとう」
「……妙に気味が悪いですね。急に前のエリオット様に戻ったみたいです。あの口の悪さはどこ行ったんですか」
やはり燕太は地で行っていたか。
「ははは……。父上はもうお見えか」
「え……?」
マスキッシュは戸惑いを隠せなかった。




