オレの生き様はこうだ!~モノヅクリの街~
サン・カ・スミス。
ファイが拾ってきた銃に刻まれていた名前だ。
しかも片仮名で。
「なんて書いてあるんだ」
当然、ファイやマスオには読めない。
「サン・カ・スミスって書いてある」
「エリオット様、読めるんですか?」
「……前にこの文字の文献を見たんだ。それで分かる」
マスオを誤魔化すために嘘をついたが、ファイは「エリーが文献て」と笑いを堪えている。後で処刑する。
「人の名前と思うんだけど、聞いたことあるか」
ファイもマスオも目を見合わせて首を振る。
「珍しい名前でしょうね。この辺りの国ではないんじゃないですか」
「自分も他国は結構行き来してたけど、聞いたことない名前だ」
おそらく、日本から持ち込まれた可能性がある。
ということは、オレ以外にも日本から異世界に来ている奴がいる。
接触してみたい。
どうやって異世界に来たのか。
今、何をしているのか。
いつか帰る方法はあるのか。
「あとね、これも拾ってきたんだ」
大きい袋の中からファイは拡声器を取り出した。
「な、なな何ですか、その怪しげな機械は」
マスオが後ずさりする。
「自分もこれが何だか分からなくてね。治安部隊の使い方を見たところ、どうやら声を大きくするものらしい」
何で拡声器があるんだ。
これも銃と一緒に持ち込まれたんだろうか。
オレが黙って見つめていると、ファイはオレの考えを察した様子で「とりあえず紅茶とクッキーをいただこう」と一区切りつけた。
「考えはまとまったかな」
マスオがティーカップを片付けて退室したことを確認してからファイが口を開いた。
「疑問が多いけどな。まず、あの武器は銃だと思う。オレのいた世界では存在するものだ。刻まれていた文字は日本語。そして拡声器もオレのいた世界にあったものだ」
「つまりエリーみたいに異世界から来た人がいるってことだね」
「銃があれば攻撃魔石をうまく使いこなせる。早く会ってみたいぜ。お互い日本から異世界に連れてこられたんだし、いろんな話もしてみたい」
「それは軽率だな」
ファイが腕を組んで続けた。
「たとえ同じ世界から来たとしても仲間かどうかは分からない。銃という武器を持ち込んでいるくらいだし、誰かを攻撃する意思を持っているんじゃないのか。拡声器だって治安部隊が使っていたんだ。奴らの協力者かもしれない」
それは有り得る。
「銃は決闘場に落ちてたが、これ一つだけだった。流通しているなら他にも銃が落ちているはずだ。どうも治安部隊がエリーを誘導しているように感じる」
「……てことはよ、オレが日本から来たことを知っていて、これから何をしようとしているのかも読まれてるってこと?」
「そこまでは分からないけど、日本にあるものを2つも残しておくのは意図的に感じない?」
改めて考えてみると、怖気が立った。
確かに、妙に順調すぎる。
まるで操られているみたいに。
「でも、罠だとしても、これを無視するのは出来ない。銃を武器として手に入れるためってのもそうだが、日本と異世界を繋げるものがサース王国にあるってことは、サースが何を考えているのか分かるかもしれない。オレがエリオットと入れ替わったことにも一枚噛んでるかもしれない。これから奴らを相手にするんだし、把握出来る情報は掴んでた方がいい。まあ、オレもいつかは日本に帰る時が来るかもしれないから、知っておいて損はないだろ」
「危険が多すぎる。下手したら精霊のこともバレて捕らえられて、婚約解消で攻めてくるかもしれないんだ。エリーの命だってどうなるか……」
「それなら既に攻めてきてもおかしくないか?オレが攻撃魔石を作っていることに触れずに、銃を探してることも知ってる可能性が高いんだぜ。なんならアーロンが死んでから何も行動してこない時点で、お前の言いたい言葉で言うなら、サースはオレのことを泳がせていると思う」
ファイは何か言いたげであったが、ぐっとこらえた。
「明らかに危険であれば一旦退く。やれることはやってみよう。それに言っただろ。オレは殺さないし殺されないって。お前もついてるんだから安心だしな」
観念したようにファイが大きく溜息をついた。
「……自分の気苦労を分かってくれ」
手始めにファイと銃をよく調べてみることにした。
銃なんて扱ったことがないが、トリガー部分に気を付けていれば多分問題ない。
万一の暴発を懸念して、誰もいない屋外に移動して防御魔石を装備した状態で取り扱った。
ライフルのような形でグレーの塗装がされており、独特の模様が彫られている。
銃を直接見たことはないが、これはどこか歪で量産されている感じではない。
「この世界で作られたっぽい感じだな」
一人で呟きながら、がちゃがちゃと触っていると、弾丸を補充する部分が外れた。
実弾はなく、弾の形もオレが知っている細長いものとは違っていた。
丸い形の弾であれば入りそうだ。
「エアガンに近いかも……」
これは攻撃魔石を小さく加工して装填すれば使えるのでは。
「変わった武器だな」
ファイが銃を持ち上げ、銃口を覗き込んだ。
「バッカ、お前!バッカかお前!止めろや、あぶねえ」
実弾がないとはいえ、その行為は怖すぎる。
「エリーにバカと言われると、ひどくムカムカしてくるね。その言葉って呪詛なの?」
「いいから銃は扱いに注意しろって」
不服そうにファイは銃を地面に置いた。
「それで、使い方は知ってるの」
「トリガーを引けば発砲出来るってくらいで、打ち方は正確には分からん」
「試しに打ってみる?」
「エアガンだったとしても軽々しく試し打ちしていいもんでもねえよ。今のところ弾だってないんだ」
「不本意だが、やはり作り手に会って使い方を訊くしかないみたいだね」
ただ、その作り手である奴がどこにいるかが不明だが。
「モノヅクリの街、かな。作り手がいる可能性としては」
「モノヅクリの街って。そのまんまじゃん。どこだよ、それは」
「実はフィル王国からそんなに遠くない。ここと同じで辺鄙なところにあるレイスーマ小国がモノヅクリの街とも言われている。あちらは自然豊かな山手の方にあるけどね。武器作ることに専念出来るように職人しか住んでいないし、いわゆる田舎だから生活するには不便なことの方が多い。物資はウォマク国の商人に物資の代金と配達料を払って運んできてもらってる。そして自分たちが作ったものを商人に売って金にしてる。商人はそれを高値で別の国で売るって仕組みさ」
「なるほどな。そんな面倒くさそうな環境のなかで国王も生活しているのか」
「国王っていうか、職人をまとめてる長がいるね。最近はトウリョウって呼ばれているらしい」
トウリョウって棟梁かよ。
ますます怪しくなってきた。
「そこに行ってみよう。でもまずはレイスーマ小国のことを詳しく調べてからだな」
「偉いじゃないか。成長したね、エリー」
「どこから目線で言ってんだ、腹立つわ」
銃を一度武器庫に保管し、オレとファイは書斎に足を運んだ。
レイスーマ小国。
書物に記されていた内容は、概ねファイが話したことと同じだった。
優れた職人の集まりなので、そこに弟子入りして一人前になったら他国に行き店を開いて商売をする、という流れもあるらしい。
ただ簡単に一人前になれるものではなく、厳しい修行と合わせて不便な生活環境に耐えられる精神力がないと続かないようだ。
弟子入りしても辞めていく者も多い。故に熟練した職人しか残らず、その作品の希少価値は高い。
トウリョウや職人は閉鎖的な環境もあり、レイスーマが信用出来る商売相手としてウォマクの商人しか認めていない。
ウォマクの商人はその武器を高値で売るため、それを不服とした他国がウォマク商人の馬車を襲うこともあった。
しかしウォマクはフィルと友好関係で大量の防御魔石を所有しており、商人の馬車にも多量の魔石を設置して防いでいるとのこと。
こう見ると、ウォマク国って割と安泰だな。
農作物もあって、防御魔石も十分にあって、最強レベルの武器も仕入れられて。
サイラーもチャラくなる余裕があるってもんだな。
「あ?」
レイスーマについての書物に追記されているものを見つけた。
「特例としてウォマク国と友好関係であることから、サファイア王家が使用する武器もレイスーマから直接仕入れており、武器としての精度は高い。故に職人による定期的な整備が必要。レイスーマ入国時に王家の証として唯一つのサファイアを提示しなければならない。戒めとして王妃のペンダントを提示している……か」
レイスーマの職人たちのイメージからして、誰でも簡単に入国出来るようではない。ならばサファイア王家として入国するのがスムーズだろう。
「なあ、王妃のペンダントって何か知ってるか」
別の書物を読んでいたファイに問いかけると、妙な沈黙が続いた。
「いや、どこにあるのか知らないね」
「そうか。それがないとレイスーマに入りにくいみたいだし、探してみるか」
「悪いが、自分はちょっと用事があってね。エリーの方で探しておいてくれない?」
「ノリ悪いな。ま、いいけど」
あるとするならば国王の間だ。
書物から目を離さないファイを残し、オレは書斎を後にした。




