こいつが犯人じゃね?
日本に戻ってきたならば、こちらで調べられることをしておこう。
どうやったら入れ替わりが出来るのか。
玲奈とグレイスの関係は何なのか。
エリオットの体で同調が起こらなかったのは何故か。
ざっとこんな感じか。
メモに書き出し、日記のファイルの内側に張り付けた。
今頃、エリオットはどうしてるかな。
入れ替わった時、オレは銃のような武器の作り手に会いに行く予定を立てていた。
職人の街が別国にあるらしい。
情報が得られるかもしれない。
ファイと計画を煮詰めていたところだった。
うまくやっていてくれるといいが。
あの銃には名前が刻まれていた。
『サン・カ・スミス』
あの世界では、馴染みがない名前だとファイたちは言っていた。
あの世界では馴染みがない、銃も見たことがない。
そしてファイが持って帰ってきた、あの世界で見慣れないもの。
拡声器だ。
つまり、この世界から持ち込まれた可能性がある。
サン・カ・スミスも調べる対象だ。
メモにオレは追加した。
名前だけで見ると外国の人なんだろうか。
スマホで検索してみるが、何もヒットしなかった。
有名な人でなく一般人の可能性も十分にある。そりゃそうか。
『カ』がミドルネームなんだろう。
日本人だからよく分からないが『カ』っていうミドルネームってよくあるのか?
それも検索するが、特にヒットしない。
偽名の線もあるか。
いろいろと条件を変えて検索するが何も手がかりにはならなかった。
しまった。いつの間にか夕方だ。
バイトに行かねば。
バイトの休憩中もオレは銃の作り手についてスマホで調べていた。
「……最近、表情が固いな」
一緒に休憩に入っていた男が声をかけてきた。
廣渡、だったか。
「ちょっと調べもんがあるんすよ。でも全然ヒットしねえんすわ」
「何を調べてるんだ」
「外国人の名前すね。多分偽名なんすけど。サン・カ・スミスって知らんすよね」
「……いや、知らないな」
キョトンとした顔をしながら廣渡は答えた。
「どしたんすか」
「お前、急に性格が変わったっていうか……人が変わったっていうか、そんな感じだな」
ヤベッ。エリオットのキャラと全然違うか。
そりゃそうか、王子様がこんな感じの態度しねえよな。
「い、いやー。ちょっと個人的にバタバタしてて疲れが溜まってるのかなー。失礼な態度取っちゃってすんません」
「別にいいんだ。むしろ今みたいに気さくに話してくれる方がいい。その調べもののことは沢北たちにも聞いてみたらどうだ。何か知ってるかもしれないな」
廣渡は少し微笑んだ。
エリオットは行儀よく外面丸出しで接してたんだろうな。
壁を感じやすかったんだろうか。
でも、それだからオレと違って、他人とうまくコミュニケーションが取れて今の関係が出来ている。
廣渡の休憩が終わり、沢北が休憩に入ってきた。
「チュン太、あたしに何か聞きたいことあるんじゃなーい?」
彼から聞いたのだろう。ニヤニヤしながら近づいてくる。
「気持ち悪いな、お前」
「え!?チュン太ってそんなこと言う人じゃなかったのに」
「サン・カ・スミスっていう人、知ってるか」
「さんかすみす?なにそれ。どういう漢字?」
「いや漢字じゃなくて……」
え、漢字?
オレはメモ紙にその名前を書き出してみる。
「スミスって外国の人の苗字でよくあるよね。漢字じゃなかったかー」
沢北は穴の開くほど見て考えている。
休憩室をノックする音が聞こえ、秋村が入ってきた。
「あれ、秋村さんって今日休みでしょ。どうしたんですか?」
「ちょっと用事で近くを通ったから、買い物ついでに。これ差し入れ。あとで廣渡さんにも渡しておいて」
スーパーで買った個包装のドーナツを3つ持ってきていた。
「ありがとうございます。あ、ついでに秋村さんもチュン太のお悩み解決に付き合ってくださいよ」
「さすがに今日休みの人に頼るのは悪いだろ」
「悩み?なになに聞かせてよ」
目を輝かせながら秋村が首を突っ込んでくる。
沢北に流されるまま、オレは同じことを秋村に質問した。
「サンって太陽のことだよね。カって何だろう。caとかkaって書くのかな」
「カルシウム?太陽の下でカルシウムを摂取するスミスさんって感じ?」
なんだよそれ。設定が訳分かんねえよ。
「うーん……。そもそも、この言葉の並びはこれで合ってる?何かもじっているとか」
「あー!並び替えかもね」
沢北が一字ずつバラバラに書いて、並び替えてみる。
「みすみさん……違うか。かみさんすする……違うか」
別の一字を付け足している。こいつに任せて大丈夫なんだろうか。
「かすみすさん……あ、カスミスさん!これじゃない?」
秋村が何かに気づいたように声を上げた。
「友達がオンラインゲームで強い人がいるって言ってて。こんな感じの名前だった気がする」
スマホで調べてみると、それらしき名前がヒットした。
本当にこの人なのかは不明だが、調べてみる価値はありそうだ。
「ありがとうございます。秋村さんも沢北も助かったす」
えへへ、と沢北は特に嬉しそうにしている。
「最近のチュン太、雰囲気違ってたから心配してたんだー。相談してくれて嬉しいよ」
「この間の歓迎会で少し打ち解けてもらえたかな。また何かあれば俺にも相談してね」
歓迎会があったことは日記に書いてあった。
エリオットも、いい人たちに囲まれていたみたいだな。
この関係づくりをしてくれてなかったら、オレは誰にも聞けずに詰んでいたかもしれない。
カスミスさんというのはアカウント名だった。
PC用のシューティングのオンラインゲームで高戦績を残しており有名らしい。
この手のゲームはオレはやったことがない。
森田にも訊いてみるか。
翌日、学校で森田にカスミスさんのことを尋ねた。
「知ってる知ってる!有名だよ。一時はネットから離れてたみたいで活動してなかったけど、今はまた時々やってるみたい」
「お前はこのゲームやったことあんの?」
「やってるよ。アバターも自由に作れるし、武器の改造も自由で楽しいんだ。協力しながら敵を倒すのも面白いよ。それこそカスミスさんが仲間になるとかなり強いってのも有名。ただ協力的かっていうと違うみたいだけど……。最近はほとんどソロでやってるね」
「へえー。なるほどな」
「堤君は興味ある?良かったらウチでやってみる?」
「へ?」
あの森田が?オレをゲームに誘ってるだと。
エリオットはどれだけオレの周りの人間関係をいじってんだ。
あいつのおかげで森田とこんな会話が出来るようになるなんて。
ここは土台を整えてくれたエリオットに感謝だな。
「ああ、頼むよ。オレにも教えてくれ」
学校が終わってから、その足で森田の家に付いていった。
事前に母親にオレが行くことは連絡しているらしい。
「ただいま。お母さん、友達とそのまま部屋に行くから」
友達。
友達って呼んでくれるのか。
森田は自室のPCの電源を入れた。
ゲームアプリを開き、例のシューティングゲームを起動させる。
「とりあえず僕のアカウントで始めるね。どんな感じか見てみる?」
「そうだな。見せてくれ」
森田は手際よくゲームを開始した。
武器はもちろん銃を使う。種類は多く、ハンドガンからライフル、マシンガンなど豊富だ。
この銃にゲーム特有のファンタジー要素を含ませ、弾丸に被弾すると電撃効果があるとか、ハンドガンでも散弾銃のような弾が2回は打てるだとか、自分の好きなように改造ができる。
各ステージの怪物のような敵を倒しきったらクリアだ。
「じゃあ、堤君もやってみる?もう一人アバター作ってもらっていいよ」
説明を受けながらオレはアバターと武器を作った。
いきなり作れと言われても思いつきで作れる訳もなく、エリオットの見た目に近いものにしてしまった。
武器改造はよく分からなかったので、ひとまず改造なしのライフルにした。
「へえ、なかなかイケメンなアバターだね」
「べ、別にいいだろうが」
早速オレもゲームをしてみることにした。
廃墟のようなステージを歩き回り、突然現れた敵をライフルで撃ちまくる。
「この敵は防御力が低いから、大きめの弾丸を装備すると一発で倒しやすいよ」
「なるほどな。改造しないと倒しにくい訳か」
普通に遊んでいる。
普通に友達の家でゲームして遊んでいる。
楽しいな。
……って、目的を忘れちゃいけねえ。
カスミスさんが異世界と関係あるのか調べねえと。
「カスミスさんって今いねえのかな」
「うーん、ちょっと探してみようか……」
森田がPCを触ろうとしたら通知音が鳴った。
「え!?カスミスさんから連絡きたよ。一緒にやりませんか、だって」
どうしよう、と若干嬉しそうに森田が驚いている。
「長い間このゲームしてるけど連絡なんて今までなかったのに。もしかして堤君のアバターが好きだったのかな。どうする?堤君もカスミスさん気になるんでしょ」
こいつが、あの銃と関わりがあるのか分からないが、やってみて損はない。
『是非お願いします』
オレは意気込みながらチャット欄に入力した。
オレのアバターがステージ内に転送された。
マップにもう一人アバターがいると表示される。
これがカスミスさんだろう。
「敵を倒しながら、カスミスさんと合流した方がいいかもね」
「ああ。そうしてみる」
ステージは西洋風の街並みだ。
建物の陰から怪物が現れる。
手あたり次第にライフルで撃ちまくるが、どんどん湧いてくる。
「ここのステージ、やたら敵が多いな」
カスミスさんと合流しようにも、敵に気を取られてそれどころではない。
「あ、後ろから来てるよ」
急に背後を襲われ、大ダメージを食らう。
すぐにライフルを向けるが、焦って照準をうまく定められず、倒れるほどの攻撃も与えられず、敵が襲い掛かってくる。
「ああー、これ死んだわ……」
オレが諦めてコントローラーをゆっくり下ろすと、敵が別の攻撃を受けて全身氷漬けにされて倒れた。
周囲を見回すと遠くからカスミスさんのアバターが攻撃していた。
オレのアバターは駆け寄って近づく。
「よかったね!カスミスさんが助けてくれた。やっぱり上手いなー」
森田がうるさいくらいに、はしゃいでいる。
うるさいくらい。
もう、うるさいかどうか、頭に入ってこない。
そのアバターを見て、戦慄した。
治安部隊の軍服姿だった。
一旦、冷静になれ。
銃に似合うように、と思って軍服を選んだのかもしれない。
もう少し様子を見よう。
奴のアバターは軍服に赤い腕章。
制帽を被っている。
「カスミスさんの銃もかっこいいよね。今回は氷攻撃を組み合わせてるんだー。全身凍らせるなんて改造に凝ってる」
銃を見てみると、それは異世界で見た銃に似ていた。
ライフルのような形でグレーの塗装がされており、独特の模様が彫られている。
あの銃と同じなんじゃないか。
やっぱりこいつは黒だ。
銃を持ち込み、拡声器も持ち込んだのは、きっとこいつだ。
日本と異世界を行き来する方法を知っている。
急いでオレはチャット欄に書き込んだ。
『どうやって異世界に行けるんだ』
『僕に辿り着けたら教えよう』
それからカスミスさんとは連絡が取れなくなった。
「え、なに。このやり取り。もしかして元から知り合いだった?」
森田が話しかけるが、オレは茫然とするしかなかった。
オレのアバターは別の怪物に襲われていた。
結局、どうやったら異世界に戻れるんだよ。




