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謎が多くね?

スマホで玲奈の名前を検索し、電話をかけた。

待っていたかのように、すぐに出た。

「やっと連絡してくれた……。心配したんだから。それで仕事も出来なくなって休んじゃったんだから」

いきなり電話口で泣き出している。

「あんた、エリオットのこと知ってんだろ?」

「ええ?」

しゃくり上げながら、玲奈は驚いた声を発した。

「原因は分からねえけど、エリオットとオレがまた入れ替わって、今は元々の堤燕太なんだよ。あんたは入れ替わりのことを知ってるってエリオットの日記に書いてあったら、まず電話をかけてみたんだ」

「じゃ、じゃあ、今の君は燕太君ってこと?」

急に玲奈は泣き止んだ。

「そうだよ」

「つまり、それは入れ替わりは実際に起こったということで、燕太君は本当に異世界に行ってフィル王国のエリオットとして今まで過ごしてきて、様々な経験をしているなか、突如として入れ替わりが再度起きて……」

オタク特有の早口というやつか……。

饒舌な玲奈が息つく暇もなく続けている。

これは異世界のことをすんなり受け入れる訳だ。



「それなら、エリオットは今自分の体に戻ってるってこと?」

「多分な。オレとしてはまだ異世界でやり残したことがあるから、エリオットと入れ替わりたいんだけど、方法が分からねえんだよ。あんたは事情知ってるみたいだから、協力者がほしいと思ってな。それに異世界に戻った後、オレが何をしていたのか、あんたにも知っててもらえればエリオットが日本に戻った時に理解がしやすいだろ」

「エリオットはいないんだ……。分かった。良かったら直接会って話さない?電話だけじゃ、うまく伝わらないだろうし」

直接会う、か。

やはり少し抵抗があるが、このまま足踏みする訳にもいかない。

「ああ、いいよ。ただオレはあんたのことを全然知らない。正直、信用出来るかも分からんと思ってる。そのつもりでな」

「……そっか。そうだよね、君にとっては見ず知らずの人だもんね。分かった」

玲奈の顔は見えないが、悲しんでいることは分かる声だった。

「じゃあさ、いつもエリオットと会ってたファミレスがあるんだけど、そこで会おうよ」

他の客がいるなら、人目もあるし変な行動はしてこないだろう。

その提案を受け入れ、今から玲奈と会うことにした。







玲奈は待ち合わせのファミレスに先に到着しているようだった。

向こうはオレの顔を知っているから、先に待っておいて入店したら声をかけるとのこと。

ファミレス内に入ると、店員から「何名様ですか」と声をかけられる。

「あ、先に待ってる人がいて……」

店内を見回すと、席を立って両手で口元を覆い泣いている女がいた。

多分、あれだな。あのヤバそうな女。

「あ、見つけたので大丈夫です」

店員に会釈し、俺は玲奈のテーブルへ向かった。




嘘だろ。

玲奈の顔を見て、身の毛がよだつ思いをした。

「お前、グレイスじゃん」

一度しか会ってないので自信を持ってそうだとは言い切れないが、似ている。

「グレイスの大人版……」

そう言いかけたところで玲奈にいきなり抱きつかれた。

「は、はあ!?お前やっぱりオレに危害を……」

「会いたかった。ごめんね、私あんなひどい思いをさせてしまって」

いい大人が喚いて泣いている。

「オレは燕太だ!間違えんな。てか人目があるから止めろよ」

抵抗するも力が強い。なんて怪力女だ。

周りの客もざわつき始めている。

「異世界の話するの止めるぞ」

そう呟くと「え?」と泣き止み、玲奈は静かに座った。

ハンカチで涙を拭きながら「取り乱してごめんね」と謝っている。

確信した、こいつは異世界オタクだ。

ていうか、日本に戻ってきてから女に平気で抱きつかれる事が多いんだけど。

こちとら思春期なんで止めてほしい。

それに何の抵抗もしなかったエリオットが恐ろしい。




オレは異世界に行ってからのことを大まかに説明した。

フィル王国やサース王国のこと、サファイアのこと。

そして玲奈がグレイスに似ていること。

「エリオットも初めて会った時に私のことをグレイス王女だって言ってた。それで向こうから話しかけてきたのよ。そこから関わり始めたの」

玲奈もエリオットとの関わりについて説明した。

概ね彼の日記に書いてあったことと同じだ。

こいつは今のところ信用しても大丈夫だろう。



「あんたさ」

「玲奈でいいよ」

「玲奈ってさ」

「『さん』をつけなさいよ」

面倒くせえ女だ。

「玲奈さんは妹とかいねえの?グレイスに似てるし、オレみたいに入れ替わりで異世界に行った奴もいる訳だし、転移してる可能性とかないの?」

「妹はいないよ。きょうだい自体いない。そんな異世界転移とか実際にあるなんて聞いたこともなかったし、普通は有り得ないよね」

「でも何か引っ掛かるんだよな。エリオットは何か言ってなかったか」

「似ていることしか言ってなかったよ。自分の思い込みって捉えたのかな」



エリオットも言ってたことだ。絶対に何かある。

玲奈のことをもっと知っていった方がいいな。

「あんたが何か見落としてるかもしれない。些細なことでも思い出したら教えてくれ」

「心当たりはないけど……分かった」





スマホを見ると、まだ昼過ぎだ。

「そういえば、えーと……入院してる家族には会いに行ったの?」

言いにくそうに玲奈が尋ねてくる。

「円華のことか」

「妹って円華っていう名前なの?ていうか、妹のこと話して大丈夫なの?」

「あまり聞かれたくはねえけど、あんたも事情は知ってるんだろ」

「うん。でもエリオットが妹のことを話そうとすると、自分自身と燕太君と同調して体が勝手に相手を殴ろうとするらしくて。殆ど話してくれなかったよ」

殴るって物騒だな。

確かに異世界に行く前のオレは特に荒れてたから、妹のことは触れられたくなかった。

「燕太君もエリオットの体でそういうことはあった?」

「……いや、なかったな。普通に妹のことを口にしても何もなかった」



つまりエリオットも妹のことで悩んでいた。

でもエリオットの体では同調が起こらなかった。

不可解なことが多すぎる。



今ここで悩んでも分からないか。

「とりあえずオレは何か異世界と繋がることを探しながら、フィル王国に戻るまで日本で生活する。玲奈さんも何か気づいたら連絡してくれ。じゃあ今日はこの辺で」

コーヒーを一気に飲み干すオレの姿を玲奈はじっと見つめていた。

「何だよ」

「いや、コーヒーなんだと思って……」

やたら寂し気に呟く。

「オレは円華に会いに行くから。オレの分の代金置いておくから、まとめて払ってくれ」

「いいよ、これくらい。私が会おうって声かけたし」

「自分の分は払う。エリオットもそのつもりでバイトし始めたんだろうしな。あいつにも悪いよ」

お札をテーブルに置いて席を立つ。

テーブルに置いた手を玲奈は握ってきた。

「は?」

「ごめん。燕太君は関係ないって分かってるんだけど、ちょっとだけでいいから手を握らせて」

オレの返事も聞かず、そのまま手を握りしめている。



あー……。

エリオット、完全にこの女を落としてるじゃねえか。

いいのか、これで。

よくないだろうけど、これは拒否したら傷つけるパターンか。



「……エリオット、戻ってくるよね」

「あいつもやり残したことがあるなら、また戻ってくるかもな」









玲奈と別れ、足早に円華の入院先の病院に向かった。

病棟に入り、ナースステーションで謝罪する。

「先日はすみませんでした。妹が取り乱すようなことを言ってしまい、反省しています」

「気を付けてもらえるなら、いいんですよ。私もきつく言いすぎました。あれから円華ちゃんも落ち着いてますし」

エリオットに注意したであろう看護師が応対する。

円華を長い間看てもらっているんだ。ここは丁寧にしなければ。



面談室に通され、しばらくすると円華が入室した。

円華に変わった様子はなかった。

半年前と見た目もそう変わらない。

食事も摂れているようだ。

「円華、この間は悪かった。オレひどいこと話したよな」

「もういいよ、その話」

「……そうか。あ、お菓子を持ってきたんだ。今度ホワイトデーがあるだろ」

「別にお兄ちゃんに何もあげてないけど」

「いいんだよ。こういうのに託けてやりたいだけなんだ」

円華に渡したのは、青い銀紙に包まれたチョコがいくつも入っているお菓子だ。

フィル王国でサファイアばかり見ていたからか、青いものが綺麗だと素直に思うようになっていた。


「綺麗……」

「だろ?円華にも見せたくてさ。他にも美味しそうなお菓子もあったんだ。だから今度……」

一緒に行こう。

そう、言いたかった。

だがそれは、彼女の心を傷つけないだろうか。

でもそれでは、過去の何も出来ない自分のままだ。

「今度……一緒に外出しよう。先生に相談してさ」

予想だにしていなかった言葉を言われ、円華は目を丸くしていたが、少し俯いた。

「うん、いいよ。行こう」

表情は見えなかったが、返事は重たくなかった。

「ああ。約束な」

そんな彼女を見て、オレは微笑んだ。

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