花火大会
大広間への移動中、貴族やそれぞれの隊長からの視線を感じた。しかし、話しかけてくる人は一人としていなかった。
貴族たちの囁きが聞こえてくる。
「それにしても、王直々にとはな。一人はひょろっとした男で、もう一人は獣人だってゆうのに。」
「そうですねぇ。それにこの後のパーティーでも王直々に話があると聞いていますし・・・。あの二人、何者なのでしょうか?」
ほぉほぉ。
つまり、気にはなるが何者か分からなくて下手に話しかけられないってわけか。こっちとしては変に気を使わなくて済むし、いいんだがな。
そうこうしていると、コラルドさんがやって来た。
「しばらくぶりになるね、シュウくん。それにしても、DからAに昇格とは、異例の大出世だね。」
「あ、コラルドさん。どこにいたんですか?」
「ナナさんも、久しぶりだね。私も回りの列に入っていたんだけどね。気づかなかったかい?」
緊張してたしな。ナナは酷かったが、俺も少しばかりは緊張していたのだ。今となってはそれも消えているが、
「さて、こっからだね。といっても王様がどれだけうまくやれるかが大切なんだけど。」
「だな。俺がやるのは花火の打ち上げぐらいだ。」
花火弾はオスペオさんの話の途中で打ち上げる。オスペオさんが俺たちについて話をして、そのあと俺に話を振るらしい。そこで花火弾を打ち上げることで、俺の力を示せるって言うわけだ。
「花火、楽しみだね~。」
「ナナは一度見たんじゃないか?」
「でも今回はいっぱい打ち上げるんだよね。きれいな花火がいっぱいって考えると、すっごく楽しみ。」
「ナナのためにも、最高の花火大会にしないとな。」
そんな話をしていると、大きな部屋に着いた。ここが大広間だろう。話の通り窓とバルコニーもあり、花火の打ち上げにも困らなそうだ。
全員が部屋に入り、それぞれの席に着く。オスペオさんは全員が見える位置にある備え付けのあからさまに王様です!って感じの椅子に座っている、があまり嬉しくはなさそうだ。
先代までの思考がオスペオさんには合わないのだろう。あの人はどんな人とも対等に接したいタイプだろうからな。
「お料理~!美味しそう。ねぇ、食べていい?食べていい?」
「待て待て、まだパーティーは始まってない。今からオスペオさんの話もあるからな。」
「はぁ~い。」
ナナはしぶしぶ席に座り直す。そんなに焦らなくても料理は逃げねぇよ。
少ししてざわざわとしていた会場が静まると、オスペオさんが話し始めた。
「本日のパーティーに、多くの貴族・隊長の方々が集まってくれたことに感謝する。パーティーを始める前に、少しばかり話をしようと思う。」
ここからが大切だ。
「まず、この中でも何か腑に落ちないという人が多いのではないだろうか。まず、なぜ王直々にここまでするのか、そして、なぜその相手の一人が獣人なのか。」
「その理由として、まず今回の遺跡の発見が今後の私たちの生活に大きな影響を与えるものであるから、というのが一つ目の理由である。一つ目と言うからには理由はもう一つあるわけだが、」
ここでオスペオさんが立ち上がる。
「それは、獣人族へのイメージの快復だ。」
オスペオさんが、そう宣言する。
それを聞いた貴族たちがざわめく。隊長の方は知っていたのか、特に反応はなかった。
「実は、今までの獣人への悪評はほとんどが出鱈目なものである。それは、先代までの王が獣人嫌いだったせいなのだが、」
そこまで言ってしまうのか。少し心配にはなるが、下手な嘘よりは事実を語る方がいいのだろうか。
因みに先代の王は病死とのことだった。ただ、その前王が子供を持つ前に亡くなったらしく、側近の一人であったオスペオさんが王になったらしい。
「そこで、今回のシュウ、ナナの功績を期に、獣人への悪評を払拭しようと思う。その始めということでナナのペアであるAランク冒険者、シュウに彼の力を見せてもらおう。」
予定通り話を振ってきたので、俺は席を立つ。同じくナナも席を立った。
「それでは皆さん、バルコニーのほうにお願いします。」
全体に聞こえるように声を張り上げ、バルコニーに出ていく。
貴族や隊長もぞろぞろと外に出てくる。全員が出てきたところで、もう一度声を張り上げる。
「俺のスキルは《グレネード》今から、このスキルの力の一部を見せようと思う!」
全員がこっちを見ている中、袋から大量の花火弾を取り出す。取り出せない分はナナが持ってくれている。
「これは、《花火弾》という花火というものを作り出すものだ。今からこれを打ち上げる。上を見てくれ。」
その声に合わせて、全員が上を向く。初めて聞く《花火》というのに興味を持ってくれたのだろうか。
俺はまず一つだけ花火弾を空に投げる。真っ暗な空に全員が目を向けている中、数秒して
ドォーーン!
爆発音と共に色とりどりの花火が広がった。突然の爆音と光に全員が唖然とし、誰一人として声をあげるものはいなかった。
一瞬の花火の光が消え、その後には
「な、なんだあれは。」
「これが、ハナビですか。」
「こんなに美しいもの、みたことないわ。」
ぽつぽつと呟きが聞こえたあと、一斉に話し始めた。
よりいっそう声を張り上げ、全員の意識をこっちに向ける。
「これが、花火、だ!こんどは一気に打ち上げる。前を見ておいてくれ。」
今度も全員が指示に従った動きをする。
この花火弾の利点としては、打ち上げが真上だけでないことだ。斜め前に投げればその方向に打ち上げられる。
こっからは一気に打ち上げた。
ドォーーン、ドォン、バァーン、ダァ─────────。
──────────────────────────────────────────
無事花火の打ち上げも終わり、オスペオさんの話も終わった。
そして・・・
「ん~!ほれ、ほいひいほぉ!」
「ナナ、食べながらしゃべるんじゃない。ちゃんと飲み込め。」
ナナがゴクリと喉を喉を鳴らして口の中の物を飲み込む。
待ちに待ったお食事の時間だ。ナナが流し込むように料理を食べていくが、それに対して俺はちょこちょこと食べている。
俺は案外少食でな。
それにしても流石国のパーティー、とてつもなくうまいな。
パーティーの料理に舌鼓を打っていると、こっちに歩いてくる人がいた。貴族だろうか?そう考えてその方向を見ると、
「いやぁ、さっきのハナビ、すごかったっすね。」
「ブレーキさんも花火は見ただろ?」
「一つだけのときとは全然違うっすよ。心の底から震わせるあの音と激しい光の明滅、一つだけのときには感じられなかった迫力はほんとにすごかったっすよ!」
花火の良さを知ってくれる人がいて嬉しいな。やはり花火は光だけじゃなく音がいいんだよな。
そんなことを語り始めそうになったとき、またブレーキさんが話し始める。
「あ、それで、シュウくんとナナさんに伝えることがあって来たんっすよ。」
「そうなのか?」 「そうなの?」
「はいっす。小バルコニーのほうで待っているとのことっす。」
「わかった。すぐに行くよ。」
ということで、ブレーキさんに連れられて小バルコニーに向かう。
「つれてきたっすよ。」
小バルコニーに出ると、一人の女性がバルコニーの柵に手をかけて立っていた。
後ろ姿しか見えないが、この人には見覚えがあった。
ブレーキさんの声に、彼女がこっちを向く。
赤髪に切れ長の目、美人という言葉が最も似合う彼女は、
「ありがとう。あと、久しぶりね。シュウくん、ナナさん。」
少し強めの口調の彼女は、
「あぁ、久しぶりだな。マリア」
「久しぶりです。マリアさん。」
Sランク冒険者、『雪原の花』、マリアだ。
一作品名、「想像」スキルで異世界最強 が完結しました!
そちらのほうも評価していただければ嬉しいです!
また新しい作品も書いていこうと思います。
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