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光源高校VS兵部高校 庶務戦 その3












「君……本気で言ってるの?」





疑っている…………でも当然だ。





アーツは誰にでも使えるわけじゃない。



限られた魔法使いの中の更に限られた魔法使い。





そんな魔法使い達それぞれの……魔法を、才能を、努力を、何よりも自分を表す芸術。




それがアーツだ。





練習すればできる様になるなんてものじゃ無い。




ここまでは会長の受け売りだったけど………要は100%あり得ないわけじゃ無いはずだ。





だからでこそ………




だからでこそ犬飼先輩は疑っている………だけどほんの少し信じている。






それで十分だ………そのくらいが丁度いい。





「もちろん本気です。会長の許可が出るまで使えなかったんですよ。」




「…………………ふーん」







犬飼先輩は恐らく………霧のアーツがどんなものか知っているはずだ。



直接見てはいないかもしれないが、動画だとか言伝で…………そう、不動先輩あたりから教わっているはずだ。












だったら…………その恐ろしさも知っているはずだ。



問答無用に迫ってくる霧………屋内では逃げ場なんてないだろう。



そしてそれを吸ってしまったら最後、タダじゃ済まない…………想像を絶するほどの苦しみが待っている。



犬飼先輩はいったいどうやって対応する?








俺達は見つめ合っていた…………お互いを牽制する様にして。


ほんの数秒の事だったが随分長く感じた。


均衡を崩したの犬飼先輩だった。




「じゃあ…………霧を出される前にカタをつけてあげるよ!!」






来たか………






また犬飼先輩の木々を利用した高速移動が………そしてそこから繰り出される連続攻撃が始まった。





けど序盤の方と比べると明らかに攻撃の手が弱まっている。


何が起きても逃げれるように……例えば本当に俺が霧を出した時に真っ先に距離が取れるように、踏み込んだ攻撃はしてこない。











さて、ここからだ…………覚悟はもう決まっている。



ここからは俺の駆け引きが試合の結果を左右する。



そしてこの先出来るであろうチャンスに全てを賭ける
















相手が先輩だから、女子だから………そんな事は関係ない。




心を鬼にして………いや心に悪魔を住まわせるくらいの気持ちで行こう。












――――――――――――――――――――――――――――




















犬飼が攻撃を再開して数回目の蹴り……木々を飛び移り死角から繰り出されたソレは明日葉の脇腹にクリーンヒットした。




正直に言って、今の蹴りは犬飼自身からしたら威力もスピードも7割程度しか出ていない。





仕方ない事だ。


相手が霧のアーツを使えるかもしれない………その警戒心が無意識に一歩踏み込む力を彼女からうばっている。










だから、彼女は拍子抜けした。







そんな自分の日和った攻撃を躱すことも出来ない明日葉に。









その後も彼女の一歩引いた攻撃は全て………とはいかないが、数回当たった。





だが手応えはある………その証拠に、可哀想な一年は息を荒げ、脇腹を抑えて苦しみながら、それでも自分の攻撃を紙一重で避けている。







この時、犬飼はもしかして……思った






(霧のアーツが使えるなんて嘘なんじゃないの?)






そもそも彼がアーツを使えるかどうかも分かっていない。




彼女が教えられているのは歪花と野晒のアーツだけだった。






正確には5人分のアーツを教えてもらっていたのだが…………



光源高校の生徒会役員は2年が2人、3()()()()3()()だと聞いていた。




不動会長…………違うか……





不動副会長の作戦のネックは、庶務、書記、会計のどれで一勝を取るか………だった。






話に聞く光源高校の3年生は驚異的なアーツを使う。



だから私と鬼龍先輩で一勝を取れる確証はなかった。






そこでまさに渡りに船というタイミングでマリーがやって来た。



話には聞いていた……聖人は生きており、それを捜索して保護するのが兵部高校の目標だと。




信じられなかったが、光源高校が聖人を既に1人保護している………これを聞いた時には自分の中の疑念は消え去り既に対抗心の様なものができていた。





それはさておき、コレで会長戦、副会長戦、会計戦で計3勝が確定した。




だからと言って安心はできない。



不安と緊張を胸に今日という日を迎えた。











けど蓋を開けてみればどうだ?




やって来たのは真新しい制服に身を包んだ、ピッカピカの1年生達だった。







逃げられたのかな?






歪花は自分と同い年にも関わらず、1年の時点で強豪である光源高校の生徒会長の座に登りつめた。




普通は1年に会長を任せるなんてありえない………裏で何か工作活動でもしたのだろうか?






そんな彼女に着いて行けなくなって生徒会から逃げたのか?







色々な疑問が、疑惑が、疑念が頭をよぎった。









けど、今は生徒会戦だ。





余計な事は考えない。





もしかしたらこの1年生達も相当な実力者かもしれない












そう考えていた。









だが、実際に目の前にいる彼はどうだろう?


確かに耐久力はある方だと思うが、評価できるのはそこだけだ。




アーツだって使えると自称しているが、その片鱗さえ見られない。






人数合わせか?




役員が5人揃わなかった?





生徒会は魔法使いの学生なら誰もが憧れるものだが、責任だってある。




今日みたいに観衆の目に晒されることだってある。






しかも会長は曰く付きときた……人数が揃わない可能性もゼロではない。





マジ?




本当に人数合わせ?







彼は自分の攻撃を避ける事さえしなくなった。


ただ致命打にならない様にひたすらに防御に徹している。




思わず足が止まり………口から溢れた。





「君さ、本当はアーツなんて使えないんでしょ?」




返事は無い。




けれども一瞬








一瞬だった………彼の眉がピクッと動いた。



それで十分だった。






やられた……とそう思った。




なんて事はないただのハッタリだ。




自分はいったい何に怯えていたのだろう……急に恥ずかしくなった。






もう終わらせよう。






全力の一撃で仕留めようじゃないか……本当のアーツを見せてあげよう。











獣化のアーツ。



私はそう呼んでいる。






鋭く大きな爪と牙は本物では無い、魔力を常に放出し押し留めている……それがまるで爪の様に見えているだけである。




だけ……とは言ったが、木の幹くらいなら豆腐を切るように切り裂く事ができる。



基本的に対人戦で爪の出番は無い……危険すぎるので普段は足技を使うようにしている。





そしてこれは自分でもよくわからないが、爪を出している間は身体能力が飛躍的に向上する。


理屈はわからないけどアーツなんてそういうものだ。








そして今、全力の一撃を彼に見舞う準備をしている。





360度、上下左右、木々を利用して撹乱する。


不動副会長がセッティングしてくれたこの会場は非常に戦いやすい。





最後の一撃は正面から行こう。




彼にこの一撃を避ける力は残っていない。
















今だ!!!




彼の数メートル正面に生えていた木を足場にして全力の飛び蹴りを放った。



完璧な一撃だ………きっと痛みを感じる間も無く意識が飛ぶだろう。





彼は両手を出して防御の構えを取ろうとしているが、そんな事では防ぎきれないだろう。









が、彼は両手を交差させて体を守るような事はしなかった。





この時を待っていたかの様な、まるで前もって準備していた様な滑らかなら動作で両手を合わせた。





私は見た。



彼の顔には笑みが浮かんでいた。











そして次の瞬間、





彼の両手から大量の霧が溢れてきた










「そんなっ⁉︎」






ありえない……そんな事が…………





私の視界は既に白く覆われていた、聞こえてくるのは観客のどよめきと彼の乾いた笑い声だった。






霧を吸ったらダメだ、呼吸を止めないと!!




離れなければ……攻撃は一旦中断しよう。



私は飛び蹴りを中断して近くにあった木にしがみついて、体に乗った勢いを殺した。



だが当然、急ブレーキをかけた所為で体勢が大きく崩れアーツを解除してしまった。







そして私は地面に着地した時………何か目の前の霧に対して違和感を覚えた。





そしてその違和感を不動副会長が叫ぶ様にして私に伝えた








「犬飼!それは霧じゃない、ただの水蒸気だ!!」










それが聞こえるのと同時だった、1年生は霧の………水蒸気の中から現れた。




その距離は3メートルもない。









ハメられたのか?






もしかしてこの1年生にしてやられたのか?














――――――――――――――――――――――――――――















「ははっ、ワンチャン本当に霧が出せると思ったけどね」




俺は乾いた笑い声を上げながら水蒸気の中を進む。




魔法はイメージだ………水と炎を合わせて霧を作るイメージを強く念じたけど、普通に右手から水が出て、左手から炎が出た。





当たり前だけど水蒸気はどんどん蒸発して消えていく………でもまるで本当の霧に見える様に俺はずっと水蒸気を発生させて犬飼先輩に近づく。











まぁ、水蒸気が邪魔で何も見えないけどね。






「犬飼!それは霧じゃない、ただの水蒸気だ!!」






バレたか………いや、そりゃバレるか。





不動先輩の声が聞こえるのと同時に俺は水蒸気を止めた。


目の前には犬飼先輩がいる。



思ったより近い、3、4メートルって言ったところだ…………しかも御丁寧にアーツが解けて、あの邪魔臭い爪が無くなっている。




彼女は片膝をついている状態だ、恐らく飛び蹴りを中断する際に体制が崩れたのだろう。






作戦通りだ………俺が霧のアーツを使えると思わせるんじゃなくて、逆に絶対に使えないと思わせる。




そして油断し、俺を一思いに止めようとしたところで霧紛いの水蒸気で撹乱させて体勢を崩す。





名付けて「なんちゃって(ハッタリ)霧のアーツ(ミスト)」だぜ。









けど、思ってたより向こうのリカバリーの方が早そうだ。



これじゃ一発軽い攻撃を当てるので精一杯だ。




そういう間にも彼女は立ち上がり、俺との距離を取ろうとしている。






彼女との距離、あと2メートル





ダメだ!



ここで逃したら次はない………きっとまたアーツを使って、ヒットアンドアウェイを繰り返される。





そうしたらもう勝ち目がない。






射程距離まで後一歩だ………どうする?





ダメだ………何も思いつかない。



会長から教わった投げ技は間に合わないし、突きも決定打にならない………副会長のガゼルパンチも隙が大きいからたぶん避けられる。








どうする?どうすればいい?




彼女の足をまず止めないと……足を





足を止めないと……





射程距離に入った…………その瞬間







無意識に足が出た。





無駄のない動きで、なるべく少ない挙動で………考えていたのはその事だけだった。




いわゆるローキック。




俺は犬飼先輩の左膝の上をへし折る様に蹴りをお見舞いした。




「ぐぎぃっ!!」




先輩の口から悲鳴が上がった……それを聞いて若干の罪悪感に苛まれた。



確かに女子相手にやっていい事ではないが、これは勝負だ。






左膝の皿を砕かれた先輩は倒れまいと右足で踏ん張った…………俺はその隙を見逃さずに彼女のみぞおちに下段突きを繰り出した。




「うぐぉ⁉︎」




「…………っ!」





苦悶の表情を浮かべている先輩………が、何と驚くことに彼女は最後の力を振り絞ってアーツを発動させた。





指先に凝縮された魔力があっという間に爪の形状に変化した。




痛めてない方の足をバネにして飛びかかってきた…………恐らくあの鋭い爪で俺を倒しにきている。





木の幹にすんなりと突き刺さるほどの鋭利さだ、俺の身体なんて半紙の様に切り裂かれるだろう。







ここにきて、最後の最後で押しきれなかった。












でも、ここまでやって負けてたまるか!!!







不十分な跳躍と無理な体勢での攻撃の為か…………



「隙だらけですよ」





俺は彼女の攻撃に対して避けもせず、防ぎもせず…………正面から向かっていった。





姿勢を低くし彼女の爪を避けると身体を密着させた。



そして左手で彼女の右腕をつかみ、彼女の右脇に自分の右腕を挟み込む。





そして向かってくる彼女の勢いを利用して………大きく息を吐きながら、背負い投げした。





されるがままの彼女は受け身を取れるはずもなく、後頭部から地面に叩きつけられた。












彼女は声にならない声をあげ、ぐったりと全身のチカラが抜けていった。




気を失ってしまった様だ………やり過ぎたか?




でも気遣っている余裕は無かった………やるからやれるかだったんだ。









俺が犬飼先輩の安否を確認しようとした時。













会場に試合終了を告げるサイレンが鳴り響いた。












ああそうか………勝てたのか……。








……………今の気持ちを何と言えばいいのだろうか?





言葉に出来ない思いが俺の心を支配している。





でも、1つだけ言えるのは、アーツをつかったらこの気持ちは絶対に手に入らない事だ。







この気持ち………堪らないな。





ああ………………




「嬉しい………本当に嬉しいよ」







俺は生涯この気持ちを忘れないようにしようと、そう思った。


















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