第4話:生徒会長の最終兵器
ヤンキーこと神鳴辰巳にとって参加したくない学園恒例行事の多さは数々あり、やっぱり能力測定も鬱である。
6時間目の体育を利用したそれはタバコを吸って怠けていたヤンキーは50メートル走9秒台と無残な記録をたたき出した。
予想はできていた。
小さい頃、5秒台で走っていてあの頃が懐かしい。
早く走れなくなったヤンキーはニヤニヤしながらタイムを計るパンチラ少女に舌打ちした。
「キミ、聖黒守学園野球部は足の遅い選手でも大歓迎だよ!」
「うるせっ!大きなお世話だ!!」
だから体育の授業とかもイヤなのだ。
周りを見渡してみろ、他の女子共が「神鳴君以外とカワイイとこあるかも」などと思春期真っ盛りなヤンキーにとってそれは禁句である。
今すぐ授業を放り出して逃げ去りたい。
「ふっふっふ、ビビってる?自分のウィークポイントが足だとバレて内心ハラハラしてる?」
「はあ?ビビってねーし別になんともねーし、バレた所でどうってことねーし!もう野球しねーし……」
「でもボクが次の勝負内容を50メートル走に……」
「なら勝負は受けねーし。くだらない勝負なら俺はしねー。勝負を受けるかどうかは俺が決める。いいな?」
「ぐぬぬぅ……」
まだ勝負を受けてもらえるだけマシだろうか。
神鳴も何やかんやとエミルに甘い。
それは美の付く少女だとかパンチラが毎日見れるからとか不純な理由ではなく、ただ今言えることは少女が勝負をしかけてこうようが返り討ちにできる絶対的なバッティングへの自信があるからである。
「まーいいさね!ボク達の青春ラブコメ学園野球ドラマはまだ始まったばかり!今日はキミのデータをしっかりと取らせてもらうからね!そして、最後に勝つのはこのボクだ!ふっはっはっはっはー!」
「はいはい、青春を謳歌することは別に結構だがお前測定係だろ、さっさと次の奴測ってやれよ……」
「あっ!次の人っ、位置についてよいどん!」
「………」
テキトーな掛け声とストップウォッチを押すパンチラ少女を尻目に神鳴は走り終わった生徒達の所定位置へ向かった。
先に走り終わっていた東條弟の勝ち誇った顔がまた腹立つのだが。
元女子校だけに女子だらけ、このあとパンチラ女子とのお戯れをあれこれ詮索され問いただされるハメになってそれはもうめんどくさいの一言であった。
「で、グランドの隅っこでスタンバっているアイツは誰だ?大層なマシーン装置もってきやがって、どんな測定するつもりなんだよ……」
まっ、別に興味ないね、というが凄く気になる不良生徒であった。
辰巳の勘は良く当たる。不安しかない。
だって、良く見れば見るほど見たことのあるマシーンであった。遠目にあったとして、死んだ魚の目をしているが視力は良い方だ。
「あれ、うちの生徒会長さんだぞ。3年A組の黒守朱音先輩は是非ともと、まだ野球部(仮)又は野球同好会な俺達に提供してくれたんだ。そう、アレはお前を打ち負かすためのバッティングマシーンだそうだ。ねーちゃんが言ってたから間違いないぞ」
「生徒会長もグルか!?お前ら堕ちるところまで堕ちていったか!!?」
パンチラ少女、万年補欠金髪ロリジャージ、ソフト部エース、その次は生徒会長マシーンだ。
ただし、ただのバッティングマシーンではない。そこらの高校で買えるような代物でもない。予算の関係があるからな。
でも、この学園は違う。
野望のためなら手段の選ばず金をかける学園だからな。窓ガラスや植木等何箇所割られてもへっちゃらへのかっぱなのだ。
このマシーンはプロ野球選手の投球映像をモニターに映し出し、あたかもプロが投げる球と見せることができる値が張るお高いバッティングマシーンだ。
尚、プロ野球選手からは海宝オーシャンズの若きエース、海宝愛海に設定されていた。
今までとは本気度が違うのだ。
六時間目のチャイムが鳴り能力測定が終わる。
「おーっほっほっほ!ご機嫌麗しゅうですわ野球部(仮)の皆さん!さあ例のマシーンを持ってきてやりましたわ、存分にお使いなすってくださいな。なに、心配など1ミリたりともいりませんのよ。何故ならこのわたくし黒守朱音が直々に立ちあって改良に改良を施し太鼓判を押した逸品ですもの。海宝愛海投手のデータをそっくりそのまま本物に似せた究極バッティングマシーンは、たとえリトル時代に怪物と呼ばれた男すら空振り三振にしてみせますわ」
「あ?」
生徒会長の挑発にヤンキー辰巳は火をつけた。
黒守生徒会長は優雅に扇子を仰ぎ不良生徒の前に立ち品定めをして、そして死んだ魚の目を見ては
視線を逸らした。
ちょっと怖かったというのは内緒である。別にヤンキーにビビッているわけじゃない。
「しょ、勝負ですわ神鳴辰巳さん!わたくしが優雅に勝って貴方に敗北の二文字を突きつけてやりますわ!!おーっほっほっほっほ!」
「はぁ、やれやれだ……」
指を突きつけられ宣戦布告をしてきた生徒会長にため息が出る。
野球部(仮)な面子はともかく、教室に戻ろうとしていた生徒たちも何事かと勝敗の行方を見守っている。
キャッチャー兼審判は金髪ロリジャージ。しかできないだろうな、と辰巳は思う。
アレが本物なら、金髪ロリジャージしか今捕れる捕手は自分以外いないのだから。
哀れみの目で金髪ロリジャージを見ればメンチ切られるのだがな、同情の目を向ける他ないだろう。
エースになれず万年補欠……が嫌だったからキャッチャーに変更した過去は口に出されたくないだろう。まー良い黄金バッテリーではあったがな、その話は置いといて。
アレもやはり天才だ。
女性にして若くもプロ野球選手で成功した一人なのだから。
それは認めよう。
第一球、辰巳はスイングできなかった。
マシーンから放たれたストレートはストライクカウントを取る。
モニターには155kmと球速の表示が出ていた。
辺りがどよめく。それほどまでに早かった。彼らには不良生徒が手も足も出なかったように見えただろう。
だが、
「ストラ~イク」
「おいおい、今のはボール1個半ベースの外だぜ……」
「ちっちっち、審判がストライクつったらストライクなのよ」
けっ、キャッチャーの人選ミスかと舌打ちするがまあいい。
辰巳は目の前にあるバッティングマシーンに集中した。
相手は良く知るプロだ。
「おーっほっほっほ!案外貴方もちょろそうに思えてきましたわ、さっさとあと2球投げて野球部(仮)に入れさせてあげますわ!!我が学園のためにもね!!」
生徒会長の狙いなど知ったことじゃないがな。
ヤンキーくんは舐められたもんだと悪態を吐き、
「あーもう手遅れだが一つ忠告してやるよ。ねーちゃんのそのストレートと見分けのつかないボール球になるSFFは見飽きてるぜ、生徒会長」
「な、なんですってー!!?」
カキーン。
ガキの頃、よく川原でキャッチャーやらされてめんどくさかった思い出が神鳴辰巳の中にはあるのだ。金髪ロリジャージもいたよな~などと感傷に浸りながらしんみりもする。
プロが海宝愛海じゃなく他のどの選手なら勝算はあったであろうか。否、愛海を指名したのは金髪ロリジャージである。
黄金バッテリーで組んでいたからこそ愛海の球を良く知っていたから戦術も立てやすかった。
でも、それだけじゃこのヤンキーには勝てなかった。
愛海の真価はマシーンじゃ再現できないものでもあるけどね。
そして、これまた恒例の……数秒後べコンと何か車のボンネットらしき大事な物がヘコむ音が聞こえた気がした。




