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第3話:全国大会優勝という高いハードル

 春の陽気な風に吹かれるとある昼休みのこと。


 聖黒守学園の屋上を目指すモブメイトの姿があった。


「チャーッス!昼飯買ってきましたー!!しゃーっす!!」


 モブメイトの名前は東條信司。


 容姿D/学力D/身体能力D/彼女いない歴=年齢と全てが普通のこの男。唯一の取り柄というかこの学園に姉である金髪ロリジャージ先生がいてシスコンだったりと、それも社会の利益に1%も含まれなさそうなどうでもいいことである。


 そんなモブメイト・東條弟は今パシリにあっていた。


 屋上でタバコをふかすヤンキー・神鳴辰巳にではない。


 どうやら同じチームメイトの美少女・小波エミルにパシられていたようだ。


 4月早々弱みを握られたか東條弟よ……


「おいおいとっつぁん!ボクはカツサンドって頼んだよね!小野寺先輩はカツサンドが大好物なんだよ!これのどこがカツサンドなの!アンが入っているパンじゃん!話が違うじゃん!」(小声)


「すんません!売れ切れてましたー!他にこれしかなかったしゃーっす!つーかお前が食べたいだけだろボケ!」(小声)


「あたしはなんでもいいけど、ね………」(小声)


 一度、状況を整理してみよう。


 絶滅危惧種のヤンキーが生息していると噂される屋上にて張り込みをしていたパンチラ少女の下へモブメイトが昼飯を持ってきた。


 アンパンは3個。


 パンチラ小波エミルの分と東條弟の分、そしてもう1人上級生にあたり女子ソフト部のエースである小野寺先輩だ。


 何故、女子ソフト部のエースがここにいるかというと答えは簡単だ。


 刺客といえばお分かりだろうか。


 そう2番目の助っ人ということだ。


 そして、やっこさんの昼食を食べ終わるのを待っているのだ。


 律儀に。


 畏れを成したわけじゃない。


 せめてものの常識と礼儀と相手への敬意をはらって……


 嘘。


 一度、昼飯時に襲撃してキレられ怒鳴られたので、もう昼飯時に襲撃してないだけ。


 もちろん、エミルとしてヤンキーと一緒にお昼を食べたいという欲求があるが、敢えてお昼の誘いは我慢して無防備なヤンキーを観察する。


 カシャ。


 誰かのスマホからカメラ機能のシャッター音が聞こえたがきのせいだろう。


 この盗撮は……否、このデータ画像もいずれきっと己の年齢=彼氏いない歴を脱却できる……いや、違った。ヤンキーくんと野球ができる日のためのデータ収集だとエミルは本気で信じている。


 うわぁ~……と東條弟はドン引きした。したが、東條弟は逆らえなかった。


 例の絶滅危惧種は片手でカツサンドを頬張り、もう片方の手で奴もスマホをイジっている。


 なにやら指の動きが怪しい。


 文字を……打っている?


「だ、誰とやり取りしてるのかな??」(小声)


「「………」」


「こ、こっからじゃ画面が見えないよ!オーマイガ!やっこさん、画面に覗き見防止シート張ってやがるぜ、とっつぁん!」(小声)


「「………」」


「だ、駄目だ、気になる!ちょっと行ってくる!!」


「「駄目だこりゃ……」」


 アンパンをかじってヤンキーの元へ全力ダッシュするパンチラ少女。


 決闘を申し込まなければやっこさんもそこまでキレたりしないらしい。


 うっとおしそうにまとわりつく子犬を振り払おうとしているようにも見えなくはない。


 身をくっつけてイチャついて今日は水玉か……と東條弟はチームメイトの並みならぬヤンキーへの執着心にため息を吐いた。


 どうやら昼食は無事に終わったようだ。


「じゃ、あたしの出番だね。いっちょ行ってくるよ」


「う、うっす……よろしく頼んます先輩」


 さあ、刺客が解き放たれる。


 この聖黒守学園は2年までが女子生徒しかいないだけに、逆に後輩の男子ができて良い所を見せようという輩も多いのかもしれない。


 そして、女子ソフト部エースのライズボールは初見で打てるほど生優しい球ではないはずだ。


 きっとそのはずだ。


 東條弟の期待値も上がる。


 負けるはずが無い。


 自負がある。


 よくテレビでもあるだろ。


 特番で野球VSソフトの球技対決が。それはプロ野球選手でも打つのが難しいライズボールが炸裂している所がよ。


 球がホップするのだ。


 野球にはない球種だ。


 初見殺しには最適な球だ。


 ヤンキーも悟っただろう。


 故にヤンキーは不機嫌モードだ。


 そりゃそうであろう。


 小波エミルは自分で対決せず刺客をまた放った。


 今度は野球部ですらない。


 野球ではなく、ソフトボールで決着をつけようとしているのだから。


 パンチラ少女、愚かなり……


「いざ勝負だ後輩くん!もしあたしが勝ったら付き合ってくれ!」


「え、先輩そんな話し聞いてませんよ!!?」


 それはエミルも初耳である。


 去年まで女子高、そしてソフト一筋でやってきた女子生徒ならではの気の迷いだろう。死んだ魚の目をしているが身長は180cm以上あってそこそこイケている。もう一度言うが、不良で死んだ魚のような目をしているが小野寺先輩にとって自分より身長が高い男子生徒は貴重な存在なので一瞬の気の迷いだった。


 エミルが抗議するがどうでもいい。


「はいはい、そういうのは今度の全国大会で優勝してから、そんでもって俺の姉ちゃん3人を倒して反抗期な妹様をギャフンと言わせてからにしてくれ……」


「「そんな無茶苦茶なっ!??」」


 万年地区大会準優勝な先輩とヤンキーの家族構成をちょこっと知っているパンチラ少女は2人口揃えて驚いた。


 カキーン。


 ホップするライズボールすらヤンキーは不敵に笑って打ち返す。


 ソフトボールは校舎の彼方へ消え去った。


 また、どこかでガシャンと何か大事な物が割れる音がして……風が吹きつけるこの屋上にいた彼らは一目散に退散した。

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