掃除屋編 5話
「うわぁ、すごい人……」
様々な露店が所狭しと並ぶ広場。
行き交う人の多さに、感嘆の声を漏れた。
「この中からアランさんを探し出すのは骨が折れそうですね…。せめて、彼の情報だけでも見つけられればいいのですが………」
返事どころか相槌すら聞こえてこない。
「テディ様?」と振り向くと、隣に立っていたはずの銀髪の青年の姿はなかった。
(い、いない!どこにっ…)
キョロキョロと辺りを見回していると、
「何か探してるの?」
背後から話し掛けられた。
探していた人物の悪びれない声に、ふつふつと怒りが込み上げてくる。
「何かって、あなたを探していたんですよっ………て、」
私は勢いよく振り返った。
テディの手元には、何故か二つのソフトクリーム。
「何でソフトクリームなんか持ってるんですか!?」
「あはは、お腹すいちゃって」
「駄目ですよ!今は任務中なんですから!」
「別に食べながら捜査すれば問題ないでしょ?」
「そ、それはそうですけど……」
「バニラとチョコ、どっちがいい?」
キラキラと輝くソフトクリーム。
お腹がすいているせいか、はたまた久しぶりなせいか、涎がこぼれそうになる。
(ま、まぁ、腹が減っては戦はできぬって言うし…。そう、これは捜査のため、捜査のため………)
「じゃあ、バニラで…」
「はい、どーぞ」
白いソフトクリームを差し出され、私は少し躊躇いながら受け取った。
「あ、ありがとうございます…」
「どういたしまして。とりあえず、一通り回ってみようか」
「はい」と頷くと、テディは歩き出した。
隣で茶色のソフトクリームを食べている彼の横顔から、手元の白いソフトクリームに視線を移す。
やはり、輝いて見える。
再びこぼれそうになった涎を飲み込み、唇に冷たい感触がした瞬間、
(お、美味しい~~~ッッ!)
身体に衝撃が走った。
自然と頬が緩む。
(最近、お城の健康的な料理しか食べてなかったから、不健康な味が沁みる~!)
──その時、私はソフトクリームに夢中で気づかなかった。
通り過ぎた男性を見て、テディがまたしても悪戯っぽい笑みを浮かべていたことに。
「そっちも美味しそうだね。一口頂戴」
承諾する間もなく、彼は私の腕を引き寄せた。
次の瞬間──
「……………え、」
白い歯が、同じく白いソフトクリームにかぶりついた。
「うま。やっぱり、俺もバニラにすればよかったかなぁ」
食べた跡が残っているソフトクリーム
唇についた白い液体を舐めるテディ。
「あ、こっちも一口食べる?」
彼は私から手を離し、まるで何事もなかったかのように茶色のソフトクリームを差し出した。
「な、な、な、」
パクパクと口を動かし、
「何してるんですかぁ!?」
一歩後ろに下がると──
「………あ」
たまたま背後に立っていた男性の服に、ソフトクリームが付着した。
べちゃりと地面に落ちる。
「あー、駄目じゃん、オフィーリアちゃん。殿下にバレたら怒られちゃうよ〜」
「誰のせいですか!…じゃなくて、すみません!大丈夫ですか!?」
真っ青な顔で謝罪する私に、目の下に隈を浮かべた男性は笑いかける。
「あはは、大丈夫ですよ。洗濯すれば落ちるので気にしないでください」
「本当にすみません。とりあえず、このハンカチで拭い、て………」
ハンカチで汚れを拭こうとした瞬間、男性の左手首に目が止まる。
そこには二人目の被害者、カーラ・デライラと同じブレスレットが付けられていた。
「?…あ、袖も汚れてますか?」
「い、いえ、汚れではなく、そのブレスレット……」
「カーラさんのお知り合いですか?」
私の気持ちを代弁するかのように、テディが問いかけた。
男性の目が見開く。
「あ、すみません。カーラさんと同じブレスレットをつけていらっしゃったので、もしかしてとっ…」
「カーラを知っているんですか!?」
男性はテディの肩を掴み、詰め寄った。
その勢いと鬼気迫る表情に、いつも動じない彼ですら思わず身を引く。
「は、はい。この広場で何度かお会いしまして…」
「じゃあ、アランという職人は!?」
──アラン。
その名前に、私達は息を呑んだ。
「カーラが僕より大きいと話していたので、恐らく百九十センチくらいの大柄な男性だと思うんですけど…っ」
「……残念ながら、存じ上げないですね」
テディが首を振ると、ブレインは「そう、ですか…」と肩から手を離し、一歩後ろへ下がった。
ようやく落ち着いたのか、申し訳なさそうにこちらを見つめる。
「申し遅れました。僕はカーラの婚約者のブレイン・カールトンと申します。実は一週間ほど前から、そのアランという職人を探していまして…」
「…何故、彼を探していらっしゃるんですか?」
テディの問いに、ブレインは逡巡する。
沈黙の後、ゆっくりと口を開かれた。
「……………カ、カーラが帰って来ないんです。アランに会いに行ってから」
(!アランに会いに行ってから……!)
「一週間後、僕達は結婚する予定でした。なので、彼と駆け落ちしたとは考えたくないのですが………」
「他の人にも聞いてみます」とぎこちない笑みを浮かべ、ブレインは背を向けて歩き出した。
遠ざかる背中を眺めながら、私達は言葉を交わす。
「アランに会いに行って死体で発見されたということは…」
「彼が犯人である可能性が高いね。ベラドンナ夫人とも交流があったみたいだし」
「…同姓同名、ではないですよね」
「ああ。いくらアランという名前が多いとはいえ、同じ事件の被害者が、同じ場所で同じ名前の人と出会ってるんだ。同一人物としか考えられない」
「なるほど…」
一拍置いて、私はテディに視線を向けた。
「それにしても、運が良かったですね。すぐにアランの情報が見つかって」
「運じゃない。実力さ」
彼は不敵な笑みを浮かべ、ソフトクリームを傾けた。
その瞬間、不可解な点が繋がった。
「ま、まさか、最初から私にアイスをぶつけさせるつもりだったんじゃ…っ」
「だって、いきなり話し掛けたら怪しまれるだろう?アランって職人知ってますかって、店員さんに聞いたら、さっきあの人からも同じ質問された〜って言ってたからさ」
(こ、こいつ〜っ!)
「あはは、そんなに怒らないでよ。ほら、これも食べていいからさ」
「要りませんよ!!!!」




