掃除屋編 3話
「で?」
「で、とは…?」
突然、言葉足らず質問を投げ掛けられた。
困惑していると、キーランは露骨に顔を歪め、ため息を吐いた。
「挨拶だけじゃなくて、僕達に渡す物があるんじゃないですか?…例えば、王家の封蝋印が押された手紙とか」
見透かしたような視線に、肩が跳ねた。
(流石ヴィンセントの騎士、勘が鋭いわね……)
言い当てられた私は、一通の手紙を取り出した。
「…今回の掃除対象は連続婦女誘拐事件の犯人です」
封筒から三枚の写真を取り出し、目の前のテーブルに並べていく。
「一人目の被害者は十日前に失踪した伯爵夫人のアデライン・ベラドンナ、三十五歳。
二人目は一週間前に失踪した花屋のカーラ・デライラ、十九歳。
そして、三人目は一昨日失踪した娼婦のブリアナ・キャロライン、二十二歳。
騎士団が捜索に当たっていますが、まだ誰も見つかっていないそうです」
「………見つかっていないのは、死体もですか?」
核心をついた問いに、私は新しい三枚の写真を取り出す。
テーブルに並べた写真には、頭部と左手が欠損した女性の死体が写っていた。
「うげぇ、気持ち悪ぃ」
「あはは、グロいねー」
不快感を露わにするケイレブ。
対照的に、テディは無邪気な笑い声を上げた。
「アリアドナ川で発見された身元不明の死体です。ヴィンセント様はこの死体が誘拐された女性だと考えていらっしゃいます」
「…つまり、二つの事件は同一犯による犯行だと?」
私は小さく頷き、封筒を差し出す。
手紙を黙読したキーランは、「なるほど」と呟き、眠そうに欠伸をするテディへ視線を向けた。
「では、テディさん。いつも通り、被害者の交友関係を洗い、共通の知人を探してください」
「おっけー……って言いたいところなんだけど」
「何か問題でも?」
「いや、この被害者達って容姿も年齢も身分も違うじゃん?共通の知り合いとかいなさそうだから、通り魔の可能性はないのかなって」
「その可能性はないと思います。……見てください」
キーランは写真に写っている被害者の左手首を指さした。
「首より綺麗に切断されていると思いませんか?」
「確かに…」
「両方なら几帳面な性格とも考えられますが、片方だけとなると、犯人の目的は左手で、頭部は被害者の身元を隠すために切断しただけではないでしょうか」
「身元がバレて困るのは被害者の関係者か…。了解、頑張って探してみるよ」
「お願いします」
テディとの会話を切り上げると、キーランはケイレブへ視線を移した。
「ケイレブさんは死体遺棄現場を探して来てください」
「探して来てくださいって……おいおい、まさかアリアドナ川の端から端まで歩いて探せなんて言わねぇよな?」
「言いませんよ、そんなこと」
ソファから立ち上がったキーランは、戸棚から取り出したヴェスタニア帝国の首都、エルサレスの地図をテーブルに広げた。
「アリアドナ川は西から東に流れています。一番西寄りであるカーラ・デライラの死体発見現場…ここから西側を探してください」
キーランが指をさしたのは、アリアドナ川の最東端付近だった。
「…って、ほぼ端から端までじゃねぇか!」
「今日中にお願いします」
「今日中!?できるわけねぇだろ、ふざけんな!」
ケイレブは今にも殴りかかりそうだ。
またテディが止めるだろうと視線を向けてみたけれど、彼は笑っているだけだった。
「え、ケイレブさん、できないんですか?」
「………あ?」
「死体遺棄現場が分かれば、犯人の自宅も突き止められると思ったのですが……仕方ありませんね。ケイレブさんができないと仰るなら別の方法を…」
「あぁ!?俺にできねぇことがあるわけねぇだろ!」
六枚の写真と地図が舞い上がる。
壊れんばかりの力で机を叩いたケイレブは、立ち上がると、
「今日中どころか、日が暮れるまでに探し出してやるから首洗って待っとけ!クソチビ!」
捨て台詞を吐き、部屋を飛び出して行った。
静まり返った部屋に、テディの笑い声が響く。
「あはは、相変わらずケーくんの扱い方上手いねー」
「僕が上手いんじゃなくて、彼が扱いやすいだけですよ」
ケイレブが聞いたら怒りそうな会話をする二人に、私は「あの」と遠慮がちに声を掛けた。
「どうして、死体遺棄現場が分かれば、自宅も突き止められるのでしょうか」
問いかけると、紺青色の瞳が僅かに見開いた。
「…骨を切断するのは、時間と労力がかかります。つまり、犯行現場は人目のつかない場所……」
「あ、自宅」
「ええ。顔見知りの犯行となると、犯人は被害者を自宅へ招き、殺害、切断、近隣住民が寝静まってる夜の内に死体をアリアドナ川へ捨てに行ったはずです」
「頭部を切断するほど用心深い人物が、いくら夜といえ、死体を遠くまで運ぶとは思えない…。だから犯人は死体遺棄現場付近に住んでいる、ということですね」
「……驚きました。意外と頭が良いんですね」
(意外は余計よ)
心の中で悪態をついた私は、咳払いをして話を進める。
「でも、見つけられるでしょうか。一人目の失踪から十日も経ってますし…」
「見つけられますよ。ケイレブさんの嗅覚があれば」
「嗅覚?」
「ケーくんは数キロ先の臭いを追い掛けることができるんだ」
「数キロ先って、まるで…」
「犬みたいだろ?ちなみに、聴覚や身体能力も凄いんだよ」
「なるほど…」
(ただの放火魔じゃないってことね……)
空気を変えるように、キーランが手を叩いた。
「ほらほら、こんな所で話してる暇があったら、テディさんも彼女を連れて聞き込みに向かってください」
「あはは、ごめんごめーん」
誠意のこもってない謝罪を口にしながら、テディはソファから立ち上がった。
そして、
「はい。エスコートしますよ、お姫様」
まるで絵本に登場する王子様のように、こちらに手を差し伸べた。
しかし、私は知ってる。
彼が王子様じゃなくて、犯罪者だということを。
だからこそ、私は手を重ねた。
彼らが──
(…お手並み拝見させてもらおうじゃない。掃除屋)
味方に相応しいのかを、確かめるために。




