掃除屋編 2話
「帰れ」
「とりあえず中で話しましょう」と促され、拠点へ足を踏み入れた私は、予想通り、窓際の壁に背を預けるケイレブに話を遮られてしまった。
向かいのソファの肘掛けに座っていたテディが、慣れたように嗜める。
「ケーくん、言い方」
「俺はな、命令されんのが嫌いなんだよ」
「って、聞こえてないし」
ケーくんことケイレブは、ゆっくりとした足取りでこちらへ近づく。
「牢屋から出すっつうから、あのサイコ野郎の下についてやったってのによぉ。蓋を開けてみりゃあ、赤の他人との共同生活を強制させられて?おまけに監視役までつけられて?」
私が座るソファの肘掛けに、ドンッと足を乗せた。
「話が違いすぎんだろ、それ」
敵意に満ちた深紅の瞳に射抜かれ、心臓が縮んだ。
身体が震える。
何か言い返さなくてはと口を開いた瞬間、
「違うというか、自分の都合がいいように解釈しただけでしょう?」
向かいのソファで傍観していたキーランによって遮られた。
「普通に考えて、こんな猛獣達を放っておくわけないじゃないですか」
ピクリと、ケイレブの肩が揺れた。
「………猛獣達だぁ?」
地を這うような声を上げながら足を下ろすケイレブ。
その姿を見て、テディは「あちゃー」と額を押さえた。
「ぴったりでしょう?大罪人であるあなた達に」
「おいおい、まるで自分は人間みたいな言い方だな」
「はい。僕は檻……あ、失礼、牢屋に入ったことありませんから」
「こ、こんのクソチビ…っ」
うっかりを装ったキーランの嫌味に、ケイレブは腕を振り上げて走り出した。
その拳が届く前に、
「はい、ストーップ」
テディが二人の間に割り込んだ。
「二人共、落ち着いて」
「僕は落ち着いてます。そっちの狂犬が暴れているだけで」
「あぁ!?誰が狂犬だっ…」
「ほらほら〜、彼女が驚いてるでしょ?」
ケイレブの肩に腕を回すテディ。
「触んな」と振り払われても、彼は楽しげに笑っていた。
「つーか、そういうてめぇはどうなんだよ!?」
「え、俺?」
「せっかく牢屋から出たんだぞ?監視されてもいいってのか!?」
「俺は構わないよ。牢屋でおじさんに監視されるより、ここで女の子に監視される方がいいし。しかも──」
銀髪が揺れる。
「こんな可愛い女の子だなんて、むしろご褒美だ」
完璧な笑顔。
しかし、薄く開かれた空色の瞳は、まるで獲物を狙っている肉食獣のようだった。
警戒する私を見て、テディはきょとんとした表情を浮かべる。
けれど、すぐに笑顔に戻ってケイレブの横を通り過ぎ、私の隣に腰を下ろした。
「ってことで、俺はテディ・ブランシュ。よろしくね、オフィーリアちゃん」
「おい、勝手に話を進めるな!」
「勝手にって、反対してるのはケーくんだけだよ。ねぇ、ランラン」
その問いかけに、ランラン…もといキーランは頷く。
「ええ。彼女を追い出したところで、別の監視役が来るだけですから」
「ほらね。どうせジャックも反対しないだろうし……あ、あの小さい彼のことは知ってる?キーラン・アジュール」
「小さいは余計です」
「とにかくっ、俺はぜってぇ認めねぇからな!」
「で、この声大きい人がケイレブ・リード」
テディの説明を聞いて、私は「はぁ」と半ば呆れた声を漏らした。
すぐに声を荒げる放火魔。
笑顔の裏に何か隠してそうな詐欺師。
どこか性格の悪さを感じさせる黒幕の騎士。
そして、いまだに姿を見せない殺人鬼。
こいつらを味方にするなんて──
(前途多難だな、これ……)




