ケイレブ編 2話
「や、やっぱり、何も残ってないですね……」
相変わらず歩調を合わせないケイレブを追い掛けると、一件目の放火現場に辿り着いた。
瓦礫と化した酒場を眺めながら、私は呼吸を整え、隣に立つ彼に声を掛けた。
「近隣の店や家を回って、聞き込みしますか?」
「……………」
「?ケイレブ様?」
振り向くと、臙脂色の眉毛の間に皺が寄っていた。
「………くせぇな」
「失礼な!あなたと違って、毎日お風呂入ってますよ!」
「失礼なのはてめぇだ!俺だって、毎日入っとるわ!………あー、じゃなくて、変な臭いがすんだろ?こう…腐った卵みてぇな臭いが……」
「変な臭い?」
スンスンと鼻を吸ってみたけれど、五日以上経っているせいか、木材が焦げた臭いすらしなかった。
「いや、そんな臭いしませんけど…。…あの、早く帰りたいから適当なこと言ってるわけじゃないですよね?」
「さっきからお前は俺を怒らせたいらしいな…っ」
ピクピクと、ケイレブの額に青筋が立つ。
しかし、彼が吐き出したのは怒鳴り声ではなく、深いため息だった。
「つーか、よく考えたらおかしくね?何で酒場が夜に営業してねぇんだよ?」
「確かに。……定休日だった、とかでしょうか」
「いや、それはねぇ」
突然背を向け、ケイレブは歩き出した。
「えっ、ちょっと!」
振り返ると、彼が向かった先にはチラシで埋め尽くされた掲示板が立っていた。
その前で足を止め、
「見ろ」
トントンと指の第二関節で叩いた。
言われた通り駆け寄ると、指の下にあったのはシンプルなチラシ。放火された酒場の名前が記載されていた。
「あの店の定休日は日曜だ」
「えっと、五日前は……あ、土曜日…」
「ああ。…どうやら、土曜は閉店が早いみてぇだな」
「土曜日は時短営業で、日曜日は定休日…。おかしくないですか?稼ぎ時に営業してないなんて」
シンプルなチラシを見つめたまま、ケイレブは何も言わなかった。
しばらくすると、隣に貼られていた派手なチラシを一瞥して、
「チッ、仕方ねぇなぁ…」
ぼやき、またしても急に歩き出した。
「あっ…。もう!今度はどこに行くつもりですか!?」
「向かいの酒場だよ」
「向かいの酒場?」
「その頭悪そうなチラシに書いてあんだろ?あそこの閉店は午前三時だって。火つけられた時間も営業してたんなら、誰かしら何か目撃してるはずだ」
「あ、なるほど…。……って、理由は分かりましたけど、その何も言わずにどこか行くの止めてもらえます!?」
振り向かず、足も止めないケイレブの背中を追い掛け、私達は放火現場の真向かいにある二階建ての建物へと足を踏み入れた。




