ヴィンセント編 3話
「終わった~~~!」
等間隔で並んだ長い物干し竿を、真っ白なシーツが覆い隠していた。
その風景を眺めながら、私は腕を真上に上げ、感嘆の声を漏らした。
(よしっ、急げば日が暮れる前に拠点へ着けそう…!)
そんなことを考えながら、上げていた腕を前に向かって伸ばした。
その時──
「お疲れ」
ぽんっと頭の上に温かい手が置かれた。
顔だけ振り向くと、そこにはニッと白い歯を見せて笑うフレディの姿があった。
「お、お疲れ…」
まだ慣れない純粋な笑顔に、思わず声が上擦る。
温かい手から逃れるように、私は彼に身体を向け、
「それに、本当にありがとう」
軽く頭を下げた。
「すごく助かったわ。何かお礼がしたいんだけど、あいにく今は時間がなくて…。また今度改めてお礼させてもらえないかしら?」
フレディの肩が微かに跳ねる。
「今度……」
柔らかな風が頬を撫でる。
聞こえてきたのは、彼の返事ではなく、バサバサとシーツがはためく音だった。
「?フレディ?」
首を傾げ、問いかけた。
すると、フレディは俯き、
「………なんだ、それ。かっこ悪」
小さな声で呟いた。
「え?」と聞き返すと、彼は顔を上げた。
「ううん、何でもない。楽しみにしてる」
その顔に浮かんでいたのは、言葉通り、何でもなさそうな爽やかな笑みだった。
つられるように、私も微笑む。
「ええ、楽しみにしてて。…と言っても、あまり高い物は買えないんだけど……」
「いや、物は要らないよ。その代わり──」
フレディはこちらへ一歩近づく。
「オフィーリア、君の時間を頂戴」
「私の時間…?」
「ああ。こうやって、また話がしたい」
目の前にある藤色の瞳に、困惑する私が映った。
「別に構わないけど…。むしろ、そんなことでいいの?」
「もちろん。せっかく友達になったんだ。君のこと、もっと知りたい」
「友達…?」
みんなに避けられている私と、
「友達だろ?俺達」
人の輪の中心にいるであろうフレディが?
「…友達………そっか、友達かぁ……」
まるで美味しい食べ物を噛み締めるように、その言葉を何度も繰り返した。
この世界に来てから初めてできた友達に、自然と頬が緩む。
「……………」
フレディが口を開こうとした瞬間、
ゴーン。
鐘が鳴り響いた。
その音色に、彼は身体を震わせ、私は我に返った。
「あ、いけない!急がなくちゃ!」
そして、空っぽになった洗濯籠を抱え直し、
「またね、フレディ」
軽く手を振って走り出した。
だから、私は気づかなかった。
「ああ。…またね、オフィーリア」
彼の愛おしそうな瞳も。
ほんのりと赤く染まった頬も。
──この他愛のない会話で物語が大きく変わってしまったことも、全て。




