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第五十四話 最初の種

 白い世界に。


 一つの畑ができていた。


 何もなかった場所。


 時間も。


 空間も。


 法則すら曖昧だった場所。


 そこに初めて。


「変化」が生まれた。


 レインは土を触る。


 指の間からこぼれる感触。


 間違いなく土だった。


「やっぱり土だな」


 フィオが呆れた顔をする。


「今、世界の根源みたいな場所で言うことそれ?」


 レインは首を傾げる。


「大事だろ」


「土は」


 ゼルが小さく笑う。


「そこがレインらしいんだよな……」


 しかし。


 問題は残っていた。


 畑はできた。


 だが。


 何も育たない。


 土だけがある。


 水もない。


 光もない。


 生命もない。


 リゼが周囲を見る。


「畑なのに、何も始まらない」


 ソレアが頷く。


『当然だ』


『ここは“始まりの前”だから』


 少女は静かに歩いてくる。


 手には小さな箱。


 古びている。


 しかし。


 その箱だけは消えることなく残っていた。


 レインが見る。


「それは?」


 少女は答える。


「最初の種」


 箱を開ける。


 中に入っていたのは。


 一粒の小さな種。


 普通の種にしか見えない。


 フィオが首を傾げる。


「これが世界を作った種?」


 少女は頷く。


「違う」


「世界になる前の種」


 ソレアが驚く。


『つまり……』


『生命の始まりじゃない』


『可能性の始まりか』


 少女は頷く。


「この種は」


「何になるか決まっていない」


 巨大な影が再び動く。


 白い世界を削りながら近づいてくる。


『未確定要素』


『排除継続』


 レインは影を見る。


「まだ消そうとしてるのか」


 少女が言う。


「当然」


「この種も」


「あなたも」


「完成された世界には不要だから」


 レインは種を見る。


 そして笑う。


「じゃあ」


「ちょうどいいな」


 フィオが聞く。


「何が?」


 レインは土を見る。


「決まってないなら」


「育てればいい」


 種を土に植える。


 その瞬間。


 世界が揺れた。


 巨大な影が反応する。


『警告』


『未来分岐増加』


『予測不能』


 ソレアが息を呑む。


『そうか……』


『管理者が一番恐れていたもの』


 レインが聞く。


「何?」


 ソレアは答える。


『未来が一つじゃなくなること』


 種から小さな芽が出る。


 ほんの数センチ。


 でも。


 この世界で初めて生まれた生命だった。


 白い空間に。


 緑色が生まれる。


 その瞬間。


 空から声が響く。


 今までの管理者とは違う。


 もっと古い声。


『確認』


『初期生命発生』


『記録開始』


 少女が振り返る。


「来た」


 レインが聞く。


「誰が?」


 少女は答える。


「世界の最初の住人」


 白い空の向こう。


 一つの光が現れる。


 人の形。


 でも人ではない。


 世界が生まれた時から存在する存在。


 その声が響く。


『なぜ種を植えた』


 レインは答える。


「農民だから」


 沈黙。


『理解不能』


 レインは笑う。


「だから育てるんだよ」


 光の存在はしばらく黙る。


 そして。


『……観測対象変更』


『レイン』


『あなたを危険ではなく』


『可能性として記録する』


 小さな芽が風もない世界で揺れる。


 まだ小さい。


 でも確かに。


 未来を持っていた。


 レインはその芽を見る。


「さて」


「次は水だな」


 フィオが笑う。


「世界の始まりでも農作業なんだ」


 レインは当たり前のように答える。


「当たり前だろ」


「育てるなら必要だからな」

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