第四十六話 原因と呼ばれた男
空の“目”はまだ消えていない。
だが今は、見下ろしているというより。
「迷っている」に近かった。
◇
畑は静かだ。
レインは鍬を地面に立てたまま、空を見上げている。
「俺が原因って言われてもな」
軽く笑う。
「心当たり多すぎて逆に困る」
フィオが即答する。
「そこ開き直るとこじゃないよね?」
リゼも頷く。
「普通は焦るところ」
ゼルは頭を抱える。
「もう人生のスケールじゃないんだよなこれ」
ソレアが低く言う。
『“個人”として扱われてない』
◇
その時だった。
空の裂け目がゆっくり開く。
バキ……バキバキ……
そこから“映像”が流れ出す。
また過去ではない。
もっと内部。
◇
最初のレイン。
勇者として剣を握るレイン。
次に。
魔王として玉座に座るレイン。
機械として無表情に命令するレイン。
そして。
何も持たず、ただ畑に立つレイン。
全てが同時に重なる。
◇
フィオが息を呑む。
「これ……全部同じ人?」
ソレアが答える。
『全部“同一存在の試行結果”だ』
ゼルが震える。
「試行って言うなよ……」
◇
空の目が再び動く。
『統合目的:矛盾解消』
『対象:レイン』
『処理方法選択中』
レインは空を見上げる。
「まだ処理とか言うんだ」
少し呆れたように。
◇
その瞬間。
畑の“世界の木”が強く鳴った。
ギィィィィン!!
枝が空へ突き刺さる。
裂け目に触れる。
空間が揺れる。
管理者の声が一瞬乱れる。
『干渉確認』
『……未登録干渉源』
ソレアが目を見開く。
『今の……』
『レインじゃない』
◇
フィオが周囲を見る。
「じゃあ何?」
その時。
畑の奥から声がした。
『ようやく“入口”が開いたか』
初代農民だった。
ゆっくりと歩いてくる。
レインは振り返る。
「また出番かよ」
初代農民は笑う。
『今回は少し違う』
◇
鍬ではない。
初代農民は“種”を持っていた。
それは世界の種ではない。
もっと古い。
もっと小さい。
もっと危険なもの。
ソレアが震える。
『それ……まさか』
初代農民が言う。
『“最初の世界の残りカス”じゃ』
沈黙。
◇
空の目が反応する。
『未知概念検出』
『再分類不能』
初めて“怖がっている”。
それが全員に分かった。
◇
初代農民はレインを見る。
『お前は原因じゃない』
『もっと厄介なものじゃ』
レインが眉をひそめる。
「じゃあ何だよ」
初代農民は短く言った。
『“選び続けるもの”じゃ』
◇
沈黙。
空の裂け目が揺れる。
世界が一瞬だけ止まる。
◇
レインは鍬を持ち上げる。
「それ、悪いことか?」
初代農民は少し笑う。
『知らん』
『だが管理者から見れば』
『一番面倒な存在じゃろうな』
◇
空の目が揺れる。
『処理不能』
『対象:保留』
初めて。
“削除”でも“統合”でもない。
ただの保留。
◇
レインは空を見て言う。
「じゃあいいや」
「保留で」
フィオが呆れる。
「軽いな……」
リゼがため息。
「もう慣れた」
ゼルは空を見上げる。
「この世界ずっと保留じゃん」
ソレアが小さく言う。
『それが一番まずいんだよ』
◇
空の裂け目は閉じない。
だが、広がりもしない。
ただそこにある。
観測と保留の境界として。
◇
畑の風が吹く。
芽が揺れる。
レインは鍬を肩に乗せる。
「まあいいか」
「耕せるなら」




