第四十五話 統合の“芯”
空の裂け目は、まだ残っている。
だが今は“覗かれている”というより。
こちらからも“覗き返している”状態だった。
◇
畑は静かだ。
レインは鍬を肩に担いだまま、空を見上げている。
「結局さ」
ぽつりと呟く。
「これって何と戦ってんだ?」
フィオが即答する。
「世界?」
リゼが少し首を傾げる。
「システム?」
ゼルは投げやり。
「全部」
ソレアは一番現実的だった。
『“統合そのもの”だ』
◇
その瞬間。
空の目が、ゆっくりと瞬いた。
『観測継続中』
だが、続きがあった。
『統合ログ再構築完了』
レインの眉が動く。
「ログ?」
ソレアが固まる。
『やっぱりか……』
『これは“壊れた世界”じゃない』
『“記録されてる世界”だ』
沈黙。
◇
フィオが小さく聞く。
「記録って?」
ソレアは空を睨んだまま言う。
『741回の人生』
『全部“保存データ”だ』
レインの手が止まる。
「保存?」
『試行錯誤じゃない』
『“リプレイ”だ』
◇
空がひび割れの奥で動く。
『統合理由:最適解未到達』
『全履歴照合中』
ゼルが顔をしかめる。
「つまり俺らってさ」
「実験?」
ソレアは否定しなかった。
『そうなる』
◇
その時だった。
畑の“世界の木”が強く鳴る。
ギィィィン……
歯車と根が一斉に震える。
そして。
木の幹に文字が浮かんだ。
『第1〜740回:失敗』
フィオが息を呑む。
「全部……?」
さらに続く。
『第741回:進行中』
レインは静かにそれを見る。
「……これが今か」
◇
空の目が揺れる。
『統合進行理由確定』
『“未解決要素”検出』
ソレアが呟く。
『レインだ』
「俺?」
『お前だけだ』
『741回全部で“違う選択をした要素”』
沈黙。
◇
空間が歪む。
ひび割れの奥から“過去の風景”が流れ出す。
勇者としてのレイン。
魔王としてのレイン。
機械としてのレイン。
そして。
畑に立つレイン。
全部が同時に流れる。
◇
その中で。
初代農民の声が響いた。
『ようやく分かったか』
レインが呟く。
「何が」
『お前は“バグ”じゃ』
沈黙。
◇
空の目が静かに言う。
『再定義』
『対象:レイン』
『分類:未確定要素』
ソレアが息を呑む。
『やばい』
『“修正対象”じゃなくなった』
『“原因”になった』
◇
レインは少し笑った。
「いいじゃん」
「それなら分かりやすい」
鍬を持ち直す。
「つまりさ」
「俺がいる限り終わんねぇってことだろ」
空の目が沈黙する。
その“間”が、今までと違った。




