第四十四話 問いの外側
空の目はまだそこにある。
だが、もう“攻撃”の気配はない。
ただ見ている。
観察している。
そして、待っている。
◇
レインは畑にしゃがみ込んでいた。
鍬を地面に軽く突き立てる。
「で、結局どうなってんだこれ」
フィオが空を見上げる。
「壊れてるのは分かる」
リゼが続ける。
「でも前より怖くない気もする」
ゼルは地面を触る。
「魔力は安定してる。むしろ整ってる」
ソレアが小さく言う。
『整理されてきてる……のが逆に危険だ』
◇
その時だった。
畑の“世界の木”が揺れる。
ギィ……ン……
枝が一本、レインの方へ伸びる。
ゆっくり。
まるで確認するように。
その先端が、鍬に触れた。
◇
空の目が反応する。
『接触確認』
その瞬間。
レインの視界が一瞬だけ切り替わる。
畑ではない。
白い空間でもない。
何もない“外側”。
そこに。
“もう一つの視点”があった。
◇
それは管理者でもない。
修正係でもない。
世界でもない。
ただの“観測”だった。
冷たい。
けれど無関心ではない。
『質問』
また声。
だが今度は空ではなく。
レインの中で響いた。
『なぜ継続する』
レインは少し黙る。
「……継続?」
『停止可能』
『再生成可能』
『破棄可能』
並べられる選択肢。
どれも正しい。
どれも冷たい。
◇
レインは立ち上がる。
鍬を肩に乗せる。
「だからさ」
「そういうのが嫌なんだよ」
沈黙。
◇
レインは続ける。
「やってみなきゃ分かんねぇだろ」
「芽が出るかもしれないし」
「腐るかもしれないし」
「それでいいじゃん」
フィオが小さく息を呑む。
リゼも黙る。
ゼルはぽつり。
「農民って怖いな」
◇
世界の木が揺れる。
ギィ……ン……
枝がさらに伸びる。
空の目が一瞬だけ揺れる。
『理解不能』
『しかし……』
間。
『観測継続理由:追加』
レインが笑う。
「それでいいよ」
◇
その瞬間。
空の裂け目が少しだけ閉じる。
完全ではない。
でも、少しだけ。
“覗いていた世界”が引っ込む。
◇
畑に風が戻る。
土の匂い。
葉の音。
静かな現実。
レインは鍬を軽く地面に当てる。
コツン。
「で、次どうするんだっけ」
フィオが即答する。
「決まってない」
リゼも頷く。
「いつも通り」
ゼルは空を見て言う。
「たぶんまた来る」
ソレアがため息。
『確実にな』
レインは畑を見た。
芽は、ちゃんとそこにあった。




