第四十二話 統合開始
空が“割れる”のではなく。
空が“重なる”。
そんな現象が起きていた。
ひび割れの向こうの世界が。
もう一つの世界と。
さらにもう一つの世界と。
何層にも重なり始める。
◇
レインは畑の中央に立っていた。
鍬を握ったまま、空を見上げる。
「これ、前よりひどくないか」
フィオが即答する。
「うん」
リゼも頷く。
「うん」
ゼルは諦めていた。
「もう“世界が増える”の慣れてきた」
ソレアが低く言う。
『慣れたら終わりだぞ、それ』
◇
空の向こう。
管理者の“目”が三つになっていた。
一つは機械。
一つは土。
一つは光。
それぞれが別の世界を見ている。
『統合プロセス開始』
声が重なる。
『勇者層・魔王層・農民層・機械層・未定義層』
『同期を開始』
レインが眉をひそめる。
「層ってなんだよ」
ソレアは静かに答える。
『世界は一枚じゃない』
『何度もやり直した“層”が積み重なってる』
フィオが息を呑む。
「じゃあ今って……」
『全部同時に開いてる状態だ』
◇
その瞬間だった。
地面が割れる。
バキバキバキ!!
中から“別のレイン”が出てきた。
鎧を着たレイン。
剣を持っている。
勇者のレイン。
全員。
「は?」
次の瞬間。
さらに。
影のようなレイン。
魔王のレイン。
歯車のようなレイン。
機械のレイン。
土でできたレイン。
農民レイン。
次々と出てくる。
フィオ。
「多い多い多い!!」
◇
勇者レインが剣を構える。
「世界を救う!」
魔王レインが笑う。
「支配するのが最適だ」
機械レインは無表情。
「効率化推奨」
農民レインは一言。
「耕す」
沈黙。
全員。
「方向性バラバラすぎるだろ!!」
◇
その時。
空の“目”が揺れる。
『統合不成立』
『自己矛盾検出』
ソレアが息を呑む。
『そりゃそうだ』
『同一存在が全部違う選択した結果だ』
レインは自分を見ている。
無数の“自分”。
だが不思議と。
怖くなかった。
◇
農民レインが言う。
「全部お前だ」
勇者レインが続ける。
「全部選べ」
魔王レインが笑う。
「全部壊せ」
機械レインが言う。
「全部計算しろ」
沈黙。
そして。
元のレインが口を開く。
「全部いらねぇよ」
◇
空気が止まる。
全員の“レイン”が沈黙する。
フィオが息を呑む。
「え?」
レインは鍬を肩に乗せる。
「そんな難しいこと考えなくていい」
「俺は俺だろ」
その瞬間。
農民レインが笑う。
「正解じゃ」
◇
世界の“層”が揺れる。
統合が崩れる。
『エラー』
『矛盾ではなく“単一意志”を検出』
管理者の目が止まる。
『定義変更』
空が静かになる。
レインが一歩踏み出す。
鍬を振る。
ただ畑を耕すように。
その一撃で。
世界の層がひとつに重なる。
◇
気がつくと。
レインは一人だった。
畑の上。
フィオたちもいる。
世界は静かだった。
空の目は消えていない。
ただ。
少しだけ“迷っている”ように見えた。
◇
ソレアが呟く。
『今の……何した?』
レインは答えない。
ただ鍬を見ている。
そして一言。
「耕しただけだろ」




