第三十七話 機械皇女エリシア
ビーッ!!
ビーッ!!
警報が鳴り響く。
都市中の機械兵器が起動した。
砲台。
警備機械。
飛行ドローン。
さらには巨大な鋼鉄兵まで。
全部。
レイン達の方を向いていた。
「終わった」
ゼルが即答する。
「まだ始まってもいない」
レインも同意だった。
◇
その時。
空から光が降る。
銀色の流星。
いや。
人影だった。
ドォォォォン!!
広場の中央へ着地。
石畳が砕ける。
煙が晴れる。
そこに立っていたのは。
先ほど映像に映っていた女性。
銀髪。
赤い瞳。
白銀の装甲。
機械仕掛けの翼。
完璧な美しさ。
機械皇女。
エリシア。
都市中の機械達が一斉に頭を下げる。
『皇女殿下』
レイン達は固まる。
エリシアはまっすぐレインを見る。
数秒。
沈黙。
そして。
『捕獲します』
即戦闘だった。
「話し合いは!?」
『不要です』
「早い!」
◇
翼が展開する。
ガシャガシャガシャ!
背中から数十門の砲身。
フィオ。
「多くない!?」
リゼ。
「多い!」
ゼル。
「帰りたい!」
全員同意だった。
次の瞬間。
砲撃。
ドドドドドドドド!!
街が揺れる。
レイン達は全力で逃げた。
「なんで街中で撃つんだ!」
『命中率向上のためです』
理屈は分かる。
納得はしない。
◇
逃走開始三分後。
レイン達は路地裏へ飛び込んだ。
全員息切れ。
その時。
収穫者(手のひらサイズ)が呟く。
『妙だ』
全員が見る。
『あの機械』
『殺す気がない』
沈黙。
確かに。
砲撃は派手だった。
だが。
一発も直撃していない。
全部わざと外れている。
「確かに」
レインが考え込む。
その時だった。
カチャ。
背後。
全員振り返る。
エリシア。
いた。
「ぎゃあああ!!」
ゼル絶叫。
しかし。
エリシアは攻撃しない。
ただ。
レインを見つめる。
数秒。
沈黙。
そして。
『確認』
「何を」
『あなたは』
エリシアの声が僅かに揺れる。
『本当に七回目ですか』
レインが固まる。
「なんで知ってる」
エリシアは答えない。
代わりに。
胸元へ手を当てる。
装甲が開く。
中から現れたのは。
鍵だった。
全員が息を呑む。
第二の鍵。
いや。
第三の鍵。
終端の鍵とも違う。
淡い銀色の鍵。
ソレアが叫ぶ。
『馬鹿な!!』
『なんでそんなものを持っている!?』
エリシアは静かに答える。
『私は鍵の守護者』
『そして』
初めて感情が見えた。
ほんの少しだけ。
悲しそうな顔。
『741回』
『あなたを見送った者です』
レインの思考が止まる。
「……は?」
エリシアは続ける。
『七回目』
『お願いです』
『今回は』
彼女の機械の瞳から。
一粒だけ涙が落ちた。
『死なないでください』
その瞬間。
都市全体の警報が変わる。
赤色。
さらに濃い赤。
エリシアの表情が凍る。
『最悪です』
「何が」
エリシアが空を見上げる。
全員も見る。
そこには。
巨大な目が浮かんでいた。
空そのものに。
機械で出来た目。
そして。
都市中へ声が響く。
『管理者権限起動』
エリシアが震える。
『なぜ今ここに……』
その声は。
恐怖だった。
初めて見る。
機械皇女の恐怖だった。




