第三十五話 芽吹きの力
「今の前座だったの!?」
レインの叫びが畑に響く。
初代農民は真顔だった。
「うむ」
「うむじゃない!」
フィオも頷く。
「私もそう思う」
リゼも頷く。
「私も」
ゼルは座り込んでいた。
「もう感覚が麻痺してきた……」
◇
その間にも。
収穫者は動かない。
巨大な鎌。
巨大な身体。
その全てが静止している。
原因は一つ。
レインが生み出した芽。
たった一本の小さな芽。
それが。
神代存在を止めている。
信じられなかった。
初代農民は芽を見つめる。
「命じゃ」
「命?」
「世界は命でできておる」
「勇者は壊す力を学ぶ」
「魔王は支配する力を学ぶ」
「農民は増やす力を学ぶ」
レインは芽を見る。
小さい。
弱そう。
だが。
確かにそこにある。
消えていない。
◇
その時。
収穫者が動いた。
ゴゴゴゴゴ……
ゆっくり。
こちらへ歩いてくる。
先ほどまでの攻撃とは違う。
真っ直ぐ。
芽へ向かっている。
初代農民の顔色が変わる。
「守れ!」
レインは反射的に前へ出る。
フィオも。
リゼも。
ゼルも。
全員が芽の前に立つ。
すると。
収穫者の声が響く。
『なぜ育てる』
全員が固まる。
初めて会話した。
『滅びる世界だ』
『価値はない』
その言葉は。
どこか管理者に似ていた。
諦めた声。
疲れた声。
レインは鍬を握る。
「知らない」
収穫者が止まる。
「価値とか」
「難しいことは分からない」
正直だった。
「でも」
芽を見る。
畑を見る。
フィオを見る。
リゼを見る。
ゼルを見る。
ソレアを見る。
そして。
世界ちゃんを思い出す。
「まだ生きてるだろ」
風が吹く。
「なら終わりじゃない」
収穫者は黙る。
長い沈黙。
そして。
鎌を下ろした。
全員が息を呑む。
『理解不能』
そう呟く。
『だが』
『観察対象へ変更』
巨大な身体が光り始める。
次の瞬間。
収穫者が消えた。
いや。
小さくなった。
ぐんぐん縮む。
山ほどあった身体が。
馬ほどになり。
犬ほどになり。
猫ほどになり。
最終的に。
手のひらサイズになった。
沈黙。
目の前には。
麦穂頭の小さな生き物。
ちょこん。
と座っている。
フィオ。
「かわいい」
即答だった。
収穫者。
『かわいいとは何だ』
怒っているらしい。
全然怖くなかった。
◇
その夜。
初代農民は焚き火の前で話し始めた。
「七本の鍵」
レインたちは顔を上げる。
「終端の鍵」
「第二の鍵」
「第三の鍵」
指を折る。
「全部集める必要がある」
レインはため息を吐く。
「やっぱりそうなるのか」
初代農民は笑った。
「王道じゃからな」
その時。
第二の鍵が光る。
空中に地図が浮かび上がる。
誰も見たことがない大陸。
その中央。
一つの赤い印。
文字が現れる。
『機械世界アーク・ゼロ』
ソレアの顔色が変わる。
『おい』
「知ってるのか」
『最悪だ』
珍しく即答だった。
『七つの世界の中で』
『最も頭のおかしい世界だ』
レイン。
「嫌な予感しかしないな」
そして。
地図の向こう側で。
何百メートルもの巨大ロボットが動いた。




