第三十四話 収穫者
地平線の彼方。
巨大な影が立ち上がる。
山。
いや。
山ではない。
生きている。
動いている。
ゆっくり。
こちらへ向かってくる。
ズシン。
ズシン。
その一歩ごとに大地が震える。
フィオが息を呑む。
「なに……あれ」
初代農民の顔は険しかった。
「収穫者じゃ」
「収穫者?」
「世界が死にかけると現れる」
「腐った部分を刈り取る存在」
レインは嫌な予感しかしなかった。
「その腐った部分って」
「ワシらじゃ」
全員。
「は?」
◇
影が近づく。
だんだん姿が見えてきた。
巨大な人型。
全身を枯れた蔦で覆われている。
顔はない。
頭の代わりに。
巨大な麦穂。
そして。
右手には。
途方もなく大きな鎌。
ソレアが震える。
『神代存在……』
「知ってるのか」
『知りたくなかった』
珍しく本気で嫌そうだった。
◇
収穫者は立ち止まる。
そして。
こちらを見る。
顔はないのに。
見られていると分かった。
次の瞬間。
空から声が響く。
男でもない。
女でもない。
古い声。
世界そのものみたいな声。
『対象確認』
全員が身構える。
『世界番号741』
『修復不能』
レインの顔色が変わる。
『収穫を開始します』
鎌が持ち上がる。
「まずい!」
初代農民が叫んだ。
「伏せろ!!」
全員が飛び込む。
次の瞬間。
ブォン!!
鎌が振られた。
だが。
何も起きない。
ように見えた。
数秒後。
地平線が消えた。
山が消えた。
森が消えた。
空の一部まで消えた。
まるで。
世界ごと切り取られた。
沈黙。
ゼルが呟く。
「帰っていいか」
「駄目だ」
レインも同意だった。
こんなの勝てる気がしない。
◇
その時。
終端の鍵が震える。
カタカタ。
カタカタ。
そして。
文字が浮かんだ。
『耕せ』
沈黙。
レイン。
「は?」
もう一度。
『耕せ』
フィオ。
「耕す?」
リゼ。
「この状況で?」
ゼル。
「正気か?」
全員の意見は一致していた。
だが。
初代農民だけは笑った。
「ようやく分かったか」
鍬を持ち上げる。
そして。
レインへ投げた。
「受け取れ」
反射的に掴む。
古い鍬。
ただの農具。
そのはずだった。
だが。
握った瞬間。
世界が見えた。
土の中。
根。
水。
生命。
大地そのもの。
全てが見える。
レインは息を呑んだ。
「なんだこれ」
初代農民は笑う。
「勇者は敵を倒す」
「魔王は敵を支配する」
そして。
「農民は世界を育てる」
収穫者が再び鎌を上げる。
世界が悲鳴を上げる。
その時。
レインは無意識に鍬を振り下ろした。
ガン!!
畑へ。
ただ。
耕すように。
すると。
地面から一本の芽が出た。
小さな芽。
だが。
その芽が放つ光は。
収穫者の鎌を止めた。
世界が静まり返る。
初代農民が笑う。
「よし」
「これでようやく修行のスタートじゃ」
レイン。
「今の前座だったの!?」




