第三十三話 農民は世界を耕す
「まずは畑を耕すぞ」
レインは本気で帰りたかった。
「世界が滅びそうなんだけど」
「うむ」
「管理者来てるんだけど」
「うむ」
「741回失敗してるんだけど」
「うむ」
初代農民は頷く。
「だから耕す」
意味が分からない。
「説明しろ!」
「説明すると長い」
「しろ!」
◇
一時間後。
全員畑仕事をしていた。
説明はまだだった。
「なんでだよ!」
レインが叫ぶ。
フィオは野菜の苗を植えている。
リゼは日陰で寝ている。
ゼルは雑草に向かって超長文詠唱を始めた。
「――天地開闢の理より生じし草木の根源たる」
初代農民。
「抜け」
ゼル。
「はい」
手で抜いた。
一秒だった。
◇
夕方。
ようやく説明が始まった。
初代農民は畑を見ながら話す。
「勇者の道は力を得る」
「魔王の道も力を得る」
「農民の道は違う」
レインは腕を組む。
「何を得る」
初代農民は鍬を地面へ刺した。
ドン。
その瞬間。
世界が揺れた。
ゴゴゴゴゴ……
地平線の彼方まで。
畑全体が光る。
フィオ達が驚く。
「なに!?」
初代農民は静かに言った。
「世界を育てる力じゃ」
沈黙。
「……は?」
今日何回目か分からない。
◇
初代農民は空を見上げる。
「世界ちゃんを見たじゃろ」
レインは頷く。
「うん」
「世界そのものだった」
「うん」
「つまり世界は生き物なんじゃ」
全員が黙る。
「生き物だから育つ」
「生き物だから病気になる」
「生き物だから死ぬ」
レインの顔色が変わる。
「管理者は」
「病気になった世界を切り捨てている」
風が吹く。
畑が揺れる。
「741回」
「世界は救えなかった」
「だから管理者は諦めた」
初代農民は鍬を握る。
「だがワシは諦めんかった」
その目は真剣だった。
「畑も同じだからな」
「同じか?」
「同じじゃ」
初代農民は断言した。
「枯れた畑を捨てるのは簡単じゃ」
「育て直す方が難しい」
「じゃが」
少し笑う。
「農民はそっちを選ぶ」
レインは黙った。
なぜか。
その言葉は分かった。
◇
その夜。
全員で夕食を食べていた。
野菜スープ。
パン。
焼き野菜。
地味だった。
だが美味しい。
その時だった。
終端の鍵が光る。
短剣が。
机の上で。
勝手に浮いた。
「おい」
レインが立ち上がる。
短剣はゆっくり回転する。
そして。
パキッ。
刃が割れた。
「壊れた!?」
フィオが叫ぶ。
だが違った。
中から。
さらに細い刃が現れる。
銀色。
文字が刻まれている。
誰も読めない。
ただ一人を除いて。
ソレアだった。
顔色が変わる。
『嘘だろ……』
「何て書いてある」
ソレアは震える声で答えた。
『第二の鍵』
沈黙。
全員が固まる。
『終端の鍵は一本じゃない』
『全部で七本ある』
レイン。
「増えたな」
「増えたね」
フィオ。
「増えましたね」
ゼル。
「嫌な予感しかしない」
全員一致だった。
その時。
空が赤く染まる。
夜なのに。
昼みたいに。
赤い。
初代農民が立ち上がる。
表情が消えていた。
「来たか」
「何が」
レインが聞く。
初代農民は空を見る。
そして。
ゆっくり答えた。
「収穫の時間じゃ」
地平線の向こうで。
巨大な何かが立ち上がった。
山より大きい影だった。




