第三十二話 選ばれなかった道
管理者は笑っていた。
まるで親切な案内人のように。
まるで友人のように。
まるで。
今から世界を滅ぼそうとしている存在には見えなかった。
「今回も失敗でお願いします」
その言葉に。
レインの中で何かが切れた。
「断る」
即答。
管理者は少し驚いた顔をした。
「理由を聞いても?」
「気に入らない」
「何がです?」
「勝手に決めてるところ全部」
管理者は少しだけ笑った。
「やはり七回目は面白い」
その瞬間。
終端の鍵が輝く。
そして。
パリン。
世界が砕けた。
正確には。
空間が砕けた。
目の前の景色がガラスのように割れていく。
フィオが叫ぶ。
「レイン!」
リゼが腕を掴む。
「落ちる!」
ゼルは泣いていた。
「なんで毎回こうなるんだ!」
ソレアは慣れていた。
『黙って捕まれ!!』
全員が落下する。
どこまでも。
どこまでも。
光の中へ。
管理者だけがその場に残る。
そして。
少し寂しそうに呟いた。
「本当に選ぶんですね」
その声は。
なぜか嬉しそうでもあった。
◇
気が付くと。
レインは畑に立っていた。
「……は?」
青空。
風。
畑。
どう見ても畑。
塔じゃない。
管理者もいない。
世界ちゃんもいない。
ただの畑。
そして。
目の前には看板。
雑な字で書かれている。
『農民の道へようこそ』
「嫌な予感しかしない」
レインが呟いた瞬間。
ドーン!!
空から何か落ちてきた。
フィオだった。
「きゃああああ!」
ドシャッ!!
藁の山に突っ込む。
続いて。
リゼ。
「レイン受け止めてー!」
ドゴォ!!
普通に失敗。
ゼル。
「たすけ――」
ベチャ。
畑に埋まる。
最後に。
ソレア。
『うおおおおお!!』
なぜか綺麗に着地した。
『ふっ』
「ドヤ顔するな」
◇
その時。
畑の奥から足音が聞こえた。
ザッ。
ザッ。
誰かが歩いてくる。
全員が身構える。
そして現れたのは。
一人の老人だった。
麦わら帽子。
農具。
日に焼けた肌。
どう見ても農家。
老人はレインを見る。
そして。
涙を流した。
「来たか……」
震える声。
「八百年待ったぞ……」
全員が固まる。
老人はゆっくり帽子を取る。
首元には。
刻印。
だが位階ではない。
見たことのない印。
そして。
老人は笑った。
「ワシは初代農民じゃ」
沈黙。
「……は?」
「歴代全員が勇者や魔王を選ぶ中」
「たった一人だけ農民を選んだ男じゃ」
レインの嫌な予感が。
どんどん大きくなっていった。
老人は鍬を肩に担ぐ。
そして。
とんでもない一言を放った。
「さて」
「まずは畑を耕すぞ」
レイン
「なんでだよ!!」




