第三十一話 第三の選択肢
世界が止まっていた。
フィオも。
リゼも。
ゼルも。
全員動かない。
目の前には世界ちゃん。
「お願い」
その言葉だけが残っている。
「私を助けて」
レインは短剣を見る。
終端の鍵。
捨てた武器。
壊した武器。
笑われた武器。
だが今は。
かすかに光っていた。
「どうすればいい」
世界ちゃんは少し安心したように笑う。
「その質問をしてくれたの、七回目が初めて」
レインの眉が動く。
「他は?」
「だいたい突っ込んだ」
納得だった。
「勇者レインは?」
「突っ込んだ」
「魔王レインは?」
「突っ込んだ」
「農民レインは?」
世界ちゃんが少し笑う。
「鍬持って突っ込んだ」
「馬鹿だろ」
「馬鹿だった」
妙に愛情のある言い方だった。
その時。
扉の向こうから音がする。
ミシ。
ミシミシ。
安全地帯そのものが軋んでいる。
世界ちゃんの顔色が変わる。
「まずい」
「管理者か」
「うん」
レインは聞く。
「倒せばいいのか」
世界ちゃんは首を振る。
「無理」
即答だった。
「741回全部負けた」
レインはため息をつく。
「じゃあどうする」
世界ちゃんは短剣を指差した。
「選ぶ」
「何を」
「未来」
意味が分からない。
だが説明している時間はないらしい。
世界ちゃんが床を指差す。
すると。
部屋の中央に三つの扉が現れた。
一つ目。
黄金の扉。
二つ目。
黒い扉。
三つ目。
木製のボロい扉。
農家の物置みたいな扉。
「なんだこれ」
世界ちゃんは説明する。
「黄金は勇者の道」
「黒は魔王の道」
「そして」
最後の扉を見る。
「木の扉は農民の道」
レインは嫌な予感しかしなかった。
「農民の道?」
「うん」
「最弱」
即答だった。
「勇者より弱い」
「魔王より弱い」
「歴代レインも誰も選ばなかった」
レインは扉を見る。
確かに弱そうだった。
ものすごく弱そうだった。
今にも壊れそう。
「じゃあハズレじゃねえか」
「でも」
世界ちゃんは小さく笑う。
「七回目だけは選べる」
その言葉の意味を聞こうとした瞬間。
バキィィィィン!!
扉が吹き飛んだ。
安全地帯が崩壊する。
時間が動き出す。
フィオたちが息を呑む。
リゼが剣を抜く。
ゼルが悲鳴を上げる。
そして。
入口に立っていた。
白い服。
穏やかな笑顔。
塔の管理者。
「見つけました」
優しい声だった。
だが。
その背後には。
無数の世界が見えていた。
壊れた世界。
滅んだ世界。
燃える世界。
沈む世界。
741個。
全部。
失敗した世界だった。
管理者は笑う。
「今回も失敗でお願いします」
そして。
レインの手の中で。
終端の鍵が強く輝いた。




