第三十話 塔の管理者
コン。
コン。
コン。
静かなノック。
だが。
誰一人として返事をしない。
部屋の空気は凍り付いていた。
「失礼します」
優しい声。
聞き覚えがある。
塔の外で笑っていた案内人。
第一位階。
だが。
二回目のレインは首を振る。
「違う」
震える声。
「似てるだけだ」
「本物はもっと悪い」
レインの背中を冷たい汗が流れる。
外の存在が再び言う。
「開けていただけませんか?」
丁寧だった。
「お話をしたいだけです」
沈黙。
その時。
フィオが耳を押さえた。
「……う」
「どうした」
「声が」
苦しそうに顔を歪める。
「頭の中から聞こえる」
リゼも顔色を変える。
「私も」
ゼルも額に汗を浮かべる。
「まずいなこれ」
ソレアが叫ぶ。
『聞くな!!』
『あれは声じゃない!!』
『認識そのものを書き換えてくる!!』
その瞬間。
ドアノブが動いた。
カチャ。
鍵は掛かっている。
だが。
ゆっくり。
少しずつ。
開いていく。
「ありえない」
二回目のレインが呟く。
「この部屋は安全地帯のはずだ」
すると。
扉の隙間から。
白い指が見えた。
人間の手。
だが長い。
異様に長い。
そして。
その指先には。
無数の刻印。
『Ⅰ』
『Ⅱ』
『Ⅲ』
『Ⅳ』
数字。
位階。
全ての位階が刻まれていた。
レインの本能が叫ぶ。
逃げろ。
逃げろ。
逃げろ。
その時だった。
二回目のレインが短剣を掴む。
終端の鍵。
「受け取れ」
レインへ投げる。
反射的に掴む。
すると。
世界が止まった。
音が消える。
時間が止まる。
全員が静止する。
フィオも。
リゼも。
ゼルも。
そして。
目の前に一人の少女が現れた。
誰もいなかったはずなのに。
白い髪。
黒い瞳。
年齢は十歳くらい。
不思議な服。
そして。
首元には何もない。
位階刻印が存在しない。
「やっと会えた」
少女は微笑んだ。
レインは剣を構える。
「誰だ」
少女は少し考えた。
そして。
「世界」
と答えた。
意味が分からない。
「正確には」
少女は苦笑した。
「あなたたちが住んでいる世界そのもの」
沈黙。
レインは思った。
(また変なのが出てきた)
少女は少しムッとした。
「今失礼なこと考えたでしょ」
「考えた」
「正直だね」
その時。
少女の表情が真剣になる。
「時間がない」
どこかで聞いた言葉だった。
「管理者が来る」
「今扉を開けているあれ」
「本来は存在しないもの」
レインが聞く。
「敵か」
少女は静かに頷いた。
「あなたたちを七百四十一回殺した相手」
レインの思考が止まる。
「……何?」
「だから」
少女は真っ直ぐレインを見る。
「七百四十一回」
「あなたは管理者に負けた」
塔が大きく揺れる。
そして。
少女は最後にこう言った。
「今回が本当に最後」
「だからお願い」
その瞳は泣きそうだった。
「今度こそ、私を助けて」
終端の鍵が。
初めて淡く光った。




