第二十九話 捨てた短剣の正体
静寂。
誰も口を開かなかった。
机の上に置かれた短剣。
錆び。
欠けた刃。
柄もボロボロ。
どう見てもゴミだった。
「……これが?」
レインが聞く。
「これが」
二回目のレインが頷く。
「世界で一番重要な武器」
ゼルが短剣を持ち上げる。
「いやどう見ても鉄くずだぞ」
パキッ。
柄の一部が取れた。
「脆っ!?」
フィオが慌てる。
「壊れた!?」
「大丈夫」
二回目レインは笑う。
「元からそんな感じ」
全然安心できない。
リゼが眉をひそめる。
「説明して」
二回目レインは少し黙った。
そして。
「この武器の名前は」
短剣を見る。
「《終端の鍵》」
その瞬間。
ソレアが凍りついた。
『は?』
初めて聞く声だった。
本気で驚いている。
「知ってるのか」
『知ってるも何も』
ソレアが震える。
『伝説だぞ』
レインたちが固まる。
『神話の時代から存在すると言われる武具だ』
『世界の境界を開く鍵』
『存在するかどうかも分からないはずの』
『最古の遺物だ』
全員の視線が短剣へ向く。
どう見てもゴミだった。
「本当に?」
フィオが恐る恐る聞く。
『どう見てもゴミだが』
「だよね」
ソレアも混乱していた。
二回目レインが苦笑する。
「そういう反応になる」
そして。
「俺も最初は信じなかった」
「でも」
その顔から笑みが消える。
「塔の最上階で知った」
空気が重くなる。
「この塔そのものが」
「鍵で封じられている」
レインの目が細くなる。
「何を」
二回目レインは答えなかった。
代わりに。
天井を見上げる。
「昔」
「世界は一つだった」
「人間も」
「魔物も」
「獣人も」
「転生者も」
「全部」
「同じ場所にいた」
誰も喋らない。
「だが何かが起きた」
「そして世界は分断された」
「塔はその境界」
「この鍵はその扉を開くもの」
レインは短剣を見つめる。
畑で拾って。
弱そうだから捨てた。
そんな物が。
世界の秘密?
冗談みたいだった。
その時。
部屋の外から音が聞こえる。
カツ。
カツ。
カツ。
足音。
騎士ではない。
もっと軽い。
もっとゆっくり。
二回目レインの顔色が変わる。
「まずい」
レインが立ち上がる。
「何だ」
「来た」
「何が」
二回目レインは苦い顔をした。
「塔の管理者」
全員の背筋が凍る。
「第一位階より上だ」
沈黙。
「そんなのいるのか」
「いる」
二回目レインは即答した。
そして。
初めて恐怖を浮かべた。
「俺を殺した奴だ」
足音が止まる。
扉の向こう。
たった一枚隔てた先。
何かが立っている。
コン。
ノックの音。
静かな。
礼儀正しいノック。
そして。
聞き覚えのある声。
「失礼します」
レインの顔色が変わる。
その声は。
塔の外で笑っていた。
あの第一位階の案内人と。
全く同じ声だった。




