第二十六話 八人目のレイン
『やっと来たな』
声が響く。
闇の中。
誰もいないはずなのに。
すぐ隣で囁かれたような感覚。
レインは反射的に剣を抜いた。
「誰だ」
返事はない。
代わりに。
塔の内部へ淡い光が灯り始めた。
そこは広間だった。
白い石でできた円形の部屋。
天井は見えない。
壁には無数の扉。
そして中央に――
一人の男が座っていた。
レインは息を呑む。
全員が固まる。
フィオも。
リゼも。
ゼルも。
男は。
レインだった。
同じ顔。
同じ声。
同じ瞳。
ただし。
こちらは少し年上に見える。
傷だらけで。
目が死んでいて。
そして首元には。
『Ⅷ』
レインの刻印は『Ⅶ』
だが男は『Ⅷ』
ありえない。
位階は上がらないはずだ。
「よう」
男は気だるそうに手を挙げた。
「七回目」
沈黙。
フィオの耳が完全に寝る。
ゼルが後退る。
「えっ」
「えっ?」
ソレアが震えていた。
『嘘だろ……』
男は笑う。
「久しぶりだなソレア」
『お前……』
「その反応だと覚えてないか」
レインは男を睨む。
「何者だ」
「お前だよ」
「違う」
「いやお前だ」
会話が進まない。
リゼが小さく手を挙げた。
「確認なんだけど」
「なんだ」
「レイン?」
「レインだ」
「どっちも?」
「どっちも」
混乱。
男はため息を吐いた。
「面倒だから説明する」
椅子から立ち上がる。
「俺は六回目の人生のレインだ」
全員が固まる。
「正確には」
男は塔の天井を見上げる。
「六回目の人生で死んだ後、塔に残されたレイン」
レインの背中を冷たい汗が流れる。
「残された?」
「魂のコピーみたいなもんだ」
男は笑った。
「お前が見つけた石碑あったろ」
「ああ」
「あれ墓じゃない」
沈黙。
「記録だ」
嫌な予感。
男は続ける。
「転生者が塔で死ぬと」
「魂の一部が回収される」
「そして塔に保存される」
フィオの顔色が変わる。
「つまり」
男は肩をすくめた。
「ここには歴代のお前が山ほどいる」
レインが固まる。
「何人だ」
男は少し考える。
「たぶん七百人くらい」
静寂。
ゼルが叫んだ。
「多すぎるだろ!?」
男は真顔だった。
「俺もそう思う」
その時。
広間の奥から足音が聞こえた。
カツ。
カツ。
カツ。
扉が開く。
一人。
また一人。
さらに一人。
全員。
レインだった。
剣士レイン。
魔法使いレイン。
老人レイン。
獣化したレイン。
隻眼のレイン。
鎧姿のレイン。
農民レインよりさらに農民っぽいレイン。
そして。
全員が一斉にこちらを見る。
「来たか」
「遅かったな」
「七回目か」
「今回は若いな」
「ちゃんと飯食ってるか?」
レインは頭を抱えた。
「……なんなんだよここ」
すると。
歴代レインたちが急に真顔になる。
一人が言った。
「時間がない」
もう一人が言う。
「塔が始まる」
そして。
一番奥。
誰よりも傷だらけのレインが現れる。
首元には。
『Ⅰ』
第一位階。
そのレインだけは笑っていなかった。
「聞け」
全員が黙る。
第一位階のレインは静かに言った。
「俺たちは全員失敗した」
そして。
「お前が最後だ」
塔全体が震え始めた。




