第二十三話 生存率三・二%
沈黙。
誰も声を出さなかった。
生存率三・二%。
つまり。
三十人いれば一人生き残るかどうか。
そんな数字だった。
フィオの耳が震える。
「……低すぎる」
ゼルも青い顔をしていた。
「いや待て。低いとかいうレベルじゃないぞ」
老人が笑う。
「今回は高い方じゃな」
全員が振り返る。
「高い?」
「前回は一・一%じゃった」
空気がさらに重くなった。
レインは思わず聞く。
「なんでそんな場所に来る」
老人は少しだけ黙った。
そして首元の刻印に触れる。
『Ⅺ』
「ここしかないからじゃ」
その一言で十分だった。
全員、同じだ。
獣化を止めたい。
記憶を取り戻したい。
世界の真実を知りたい。
だから来た。
死ぬと分かっていても。
第一位階の案内人は静かに扉の前へ立つ。
「ルールは簡単です」
簡単という顔ではない。
「塔の最上階を目指してください」
「途中離脱は?」
誰かが聞く。
案内人は笑顔だった。
「できません」
嫌な予感しかしない。
「死んだ場合は?」
「死にます」
当たり前だった。
だが誰も笑わない。
その時だった。
塔の入口近く。
地面に文字が浮かび上がる。
白い光。
古代文字。
ソレアの顔色が変わった。
『おい』
「なんだ」
『まずい』
レインは初めて聞く声だった。
本気で焦っている。
『これは試練じゃない』
「何?」
ソレアは塔を見る。
『選別だ』
その言葉に寒気が走る。
満月。
鐘の音。
どこからともなく響く。
ゴォォォン。
塔全体が光り始めた。
扉の奥の闇が揺れる。
そして。
第一位階が両手を広げた。
「それでは始めましょう」
笑顔。
完璧な笑顔。
「第七百四十二回」
全員が凍りつく。
「転生者選別試験を」
レインの目が見開かれる。
七百四十二回。
つまり。
初めてではない。
何百回も。
何百年も。
何千年も。
繰り返されてきた。
その時。
塔の入口から悲鳴が聞こえた。
誰かが勝手に入ったらしい。
直後。
赤い光。
悲鳴。
沈黙。
そして。
何かが入口から転がってくる。
首だった。
全員が固まる。
さっきまで喋っていた男。
その首。
第一位階は表情一つ変えない。
「フライングは失格です」
淡々と言う。
まるで試験監督だった。
フィオがレインの服を掴む。
震えている。
「……帰ろう」
小さな声。
レインも同じことを思った。
帰りたい。
普通なら。
だが。
ここまで来てしまった。
塔の奥から、何かが呼んでいる。
記憶。
過去。
忘れている何か。
その時だった。
レインの腰の剣が突然震える。
ソレアではない。
剣そのものが。
ガタガタと。
まるで恐怖しているように。
「……?」
そして。
剣の刀身に、一瞬だけ文字が浮かんだ。
古い文字。
だが読めた。
なぜか読めた。
『逃げろ』
レインの顔色が変わる。
ソレアも息を呑んでいた。
『……ありえない』
「何がだ」
ソレアは震える声で答えた。
『その警告』
『昔のお前が残したものだ』
満月が、真上に昇った。




