表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/22

第十七話 まだ人間

 咆哮。


 空気が震えた。


 第九位階の獣が地面を砕きながら前へ出る。


 村人たちは悲鳴を上げて逃げ始めた。


「無理だ!!」

「化け物だ!!」


 当然だった。


 あれはもう人間じゃない。


 筋肉は膨張し、骨格は歪み、牙は剣より長い。


 それでも。


 白い耳の少女だけは動かなかった。


「……お兄ちゃん」


 震える声。


 獣の赤い瞳が揺れる。


 一瞬だけ。


 本当に一瞬だけ。


 そこに“迷い”が見えた。


 レインは息を呑む。


(まだ残ってる)


 理性。


 記憶。


 人間性。


 完全には消えていない。


 その時、ソレアが焦った声を上げた。


『下がれレイン!!』


「何だ」


『九位階は普通の魔物じゃない!!』


 ソレアの声が震えている。


『あれは“壊れた転生者”だ!!』


 次の瞬間。


 獣が動いた。


 速い。


 巨体とは思えない速度。


 少女へ一直線。


「っ!」


 レインは反射で飛び出した。


 鍬を構える。


 だが間に合わない。


 その瞬間。


 リゼが前へ出た。


「《縛鎖》」


 紫色の魔法陣。


 闇の鎖が地面から飛び出し、獣へ絡みつく。


 衝撃。


 獣が止まる。


 だが一秒も持たない。


 鎖が引き千切られる。


 リゼの顔色が変わった。


「うわ、本気で強い」


「呑気だな!!」


「いや結構焦ってるよ!?」


 獣が再び踏み込む。


 レインは少女を突き飛ばした。


 直後。


 爪が肩を裂く。


「ぐっ!!」


 血が飛ぶ。


 地面へ叩きつけられる。


 痛い。


 息が止まる。


 だが。


 獣の目が揺れた。


 レインを見て。


 いや。


 “レインの首元”を見て。


 第七位階の刻印。


 獣の動きが止まる。


「……ァ……」


 言葉にならない声。


 少女が目を見開いた。


「お兄ちゃん……?」


 獣の顔が苦しそうに歪む。


 理性が戻りかけている。


 その瞬間だった。


 森の奥。


 そこから黒い影が現れる。


 神殿騎士。


 そして白髪の神官。


 神官は獣を見るなり、即座に杖を向けた。


「処分する」


 空気が凍る。


 少女が叫んだ。


「待って!!」


「離れろ」


 神官の目は冷たい。


「九位階は救えない」


 レインの背中に寒気が走る。


 その言葉。


 まるで。


 未来の自分へ向けられているみたいだった。


 少女は獣の前へ立つ。


「まだ残ってる!!」


「理性は一時的反応だ」


 神官が杖を掲げる。


 白い光。


 高密度魔力。


 処刑魔法。


 少女の顔から血の気が引いた。


「やめて!!」


 レインは立ち上がろうとする。


 だが身体が動かない。


 肩の傷が深い。


 ソレアが叫ぶ。


『レイン!!』


 リゼも舌打ちした。


「間に合わない……!」


 その瞬間だった。


 獣が。


 ゆっくりと。


 少女を庇うように前へ出た。


 神官の目が細まる。


 獣は震えていた。


 理性と本能の狭間で。


 壊れながら。


 それでも。


 妹を守ろうとしていた。


 少女の涙が零れる。


「……お兄ちゃん」


 獣は振り返らない。


 ただ。


 小さく。


 本当に小さく。


「……に……げ……ろ……」


 そう言った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ