第十五話 剣の女と魔王の愛人(自称)
夕暮れの畑。
空気が止まっていた。
レインは折れた剣を見つめる。
剣は震えている。
しかも喋った。
完全に喋った。
『聞こえてるか農民!!』
「……」
『無視するな!!』
「いや待て待て待て」
レインは頭を押さえた。
「なんで剣が喋るんだ」
『お前が起こしたからだろうが!!』
「知らん!!」
リゼは腹を抱えて笑っていた。
「ははっ、やば、ほんとに起きちゃったんだ」
『笑ってる場合か色情狂!!』
「懐かしい呼び方〜」
レインだけが置いていかれている。
「説明しろ」
剣はガタガタ震えながら怒鳴った。
『私はソレア!!』
赤い光。
次の瞬間。
剣の上に、半透明の少女が現れた。
銀髪。
赤い目。
小柄。
そしてめちゃくちゃ偉そう。
『元・聖剣の管理人格だ!!』
レイン、沈黙。
「……聖剣?」
『そうだ!! 本来なら世界を救う最終兵装だ!!』
「見えないけど」
『今ボロボロなんだよ!!』
ソレアは涙目で叫んだ。
確かに今は折れた錆剣。
最終兵装感はゼロである。
リゼはニヤニヤしながらソレアをつつこうとする。
指がすり抜けた。
「へえ〜、霊体なんだ」
『触るな発情魔女!!』
「ひどくない?」
レインは深くため息を吐いた。
「……つまり」
「剣に人格がいる」
『うむ』
「しかも知り合い」
『うむ』
「最悪だ」
『なんで!?』
ソレアがショックを受けている。
だが次の瞬間、急に真顔になった。
『レイン』
空気が変わる。
『お前、どこまで覚えてる』
レインは黙る。
「……断片だけだ」
『そうか』
ソレアは少し俯いた。
『まだ封印が残ってるんだな』
「封印?」
ソレアが何かを言いかけた瞬間。
リゼが横から割り込む。
「はいはい暗い話終わり〜」
リゼはレインの腕を抱きしめた。
「今はもっと再会を喜ぼ?」
「離れろ」
「嫌♡」
柔らかい感触。
レインの思考が少し飛ぶ。
ソレアがブチ切れた。
『うわっ最低!! またやってる!!』
「また?」
『お前こいつに何回引っかかったと思ってる!!』
レインの眉が動く。
「……俺?」
『一周目!!』
ソレアが指差した。
『魔王城潜入の時、“敵幹部の色仕掛けとか引っかからん”って言った三十分後に膝枕されて寝た!!』
レイン、硬直。
リゼ、大爆笑。
「懐かし〜!!」
「……そんなことしたか?」
『した!!』
ソレアは本気で怒っていた。
『しかもその後、“実は悪い人じゃないかも”とか言い出した!!』
「いや実際悪い人じゃないし?」
「元魔王軍幹部だろお前」
「でもレイン殺してないよ?」
リゼは笑う。
「むしろ毎回助けてる」
その言葉に、レインの目が細くなる。
「……毎回?」
リゼは少しだけ黙った。
夕日が差す。
その横顔だけ、一瞬寂しそうだった。
「だって」
小さな声。
「あなた、毎回すぐ死にそうになるし」
空気が静かになる。
レインは言葉を失った。
リゼはすぐいつもの笑顔に戻る。
「まあ今も弱すぎて笑えるけど!」
「うるさい」
「でも今のレイン結構好きだよ?」
「聞いてない」
「前より人間っぽいし」
その言葉に、レインの胸が少しだけざわつく。
前より人間っぽい。
それはつまり。
昔の自分は、人間っぽくなかったということ。
ソレアが小さく呟いた。
『……まあ、それは本当だな』
レインが振り向く。
ソレアは少し困ったように笑った。
『昔のお前、強かったけど怖かったぞ』
風が吹く。
夕日が沈んでいく。
その時だった。
村の方から、鐘の音が鳴る。
警鐘。
レインたちの表情が変わる。
直後。
村の入口で、誰かが叫んだ。
「獣人だ!!」
空気が凍る。
「獣人が来たぞォ!!」




