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第十二話 魂喰い

 風が止んでいた。


 畑の隅。


 泥に埋もれた折れた剣を、レインは無言で見下ろしていた。


 ただのガラクタ。


 そう思っていた。


 だが井戸の男の反応は異常だった。


『絶対に捨てるな』


 あの“八位階”の男が、初めて本気で焦っていた。


 レインはしゃがみ込み、剣を拾い上げる。


 軽い。


 折れたまま。


 柄も腐りかけている。


 なのに。


 触れた瞬間、妙な感覚が走った。


 脈。


 まるで、生き物の鼓動みたいな。


「……気持ち悪いな」


 思わず呟く。


 すると井戸の底から声が飛んだ。


「鞘は!?」


「ない」


「紋章は!?」


「見えない」


「魔力反応は!?」


「分からん」


「……っ」


 男が頭を抱える。


「なんなんだよそれ……」


「こっちが聞きたい」


 レインは剣を見つめた。


 すると。


 一瞬だけ。


 脳裏に映像が流れた。


 赤い空。


 大量の死体。


 そして。


 “この剣を持った自分”。


「――っ!」


 頭痛。


 反射的に剣を落とす。


 ガラン、と乾いた音。


 息が荒れる。


「見たか?」


 井戸の男の声。


 レインは額を押さえた。


「……記憶だ」


「どんな」


「戦場」


 それだけだった。


 だが、嫌な感覚が残る。


 あの光景。


 あれは“勇者の戦い”なんかじゃない。


 もっと。


 虐殺に近い。


 その時だった。


 村の入口から悲鳴が上がる。


「来たぞ!!」


 レインと男の目が同時に細まる。


 気配。


 人間。


 だが普通じゃない。


 レインは剣を拾い、走った。


 村の中央。


 そこにいたのは、黒衣の集団だった。


 神殿騎士。


 そして。


 白髪の神官。


 第九話で来た男だ。


 村人たちは怯えて後退している。


 神官は静かに周囲を見渡し、言った。


「“反応”が出た」


 レインの背中に冷たい汗が流れる。


 神官の視線が、まっすぐこちらへ向いた。


「少年」


「……何の用だ」


「確認だ」


 神官はゆっくり歩み寄る。


 周囲の騎士たちも、微妙に距離を取っている。


 まるで危険物を見るように。


「昨夜、この周辺で“魂喰い”の反応があった」


 村人たちがざわつく。


「魂喰い……?」

「なんだそれ……」


 レインだけは黙っていた。


 聞いたことがある。


 一周目。


 世界の禁忌として。


 魂喰い。


 魂を直接削り、喰らう存在。


 転生そのものを壊す怪物。


 神官はレインを見つめたまま続ける。


「普通なら存在しない」


「……」


「だが、最近増えている」


 神官の目が細まる。


「特に“記憶保持個体”の周囲でな」


 レインの指先がわずかに動く。


 神官は見逃さなかった。


「やはり知っている顔だ」


 その瞬間。


 レインの手の中で。


 折れた剣が、わずかに熱を持った。


「……?」


 神官の目が変わる。


「その剣」


 空気が張り詰める。


 騎士たちが一斉に武器へ手をかけた。


 レインは反射的に剣を隠す。


「どこで拾った」


「畑だ」


「ありえない」


 神官の声が低くなる。


「それは……」


 言葉が止まる。


 神官の顔に、初めて“動揺”が浮かんでいた。


 その瞬間。


 折れた剣が、赤く光る。


 同時に。


 村の地下。


 井戸の底から、獣のような咆哮が響いた。


 村人たちの悲鳴。


 地面が揺れる。


 神官の顔色が変わる。


「封印が……!?」


 レインの心臓が跳ねた。


 井戸。


 第八位階の男。


 そして。


 神官が次に口にした言葉で、空気が凍る。


「なぜ“魂喰い”が目覚める……!」

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